"震災から半年ぶりに帰った家には、知らない家族が住んでいた" 第5話
「父には言ってません」
弥兵の目が細くなった。
「余計なことをすると、崎さんまで困ることになるぞ」
さよの肩がわずかにいた。
「どういうですか」
「契約というのは、お互い信用してするものだ」
「百円払いました」
「だからめている」
「でも松田さんには、のは戻らないと言ったんでしょう」
弥兵はちがった。
「帰ってくれ」
それ以は何も聞けなかった。
へると、さよはしばらく黙って歩いた。
「ごめんなさい」
千代が言うと、さよは首を振った。
「私もりたい。百円は、私にはきなおだから」
そのの夕方、は震災までで帳付けをしていたという男を訪ねた。名は林栄作。震災で妻をくし、今は浅寄りの宅にを寄せながら雇いで働いている。
林は最初、関わりたくないと言った。
「さんのところはもう辞めた。昔のことだ」
千代が父の円のをす。
さよが百円のをす。
林は枚を見比べ、表を変えた。
「百円?」
「はい」
「本当に百円払ったんですか」
「ここに受取証があります」
林はしばらく考え込み、押し入れから呂敷包みを持ってきた。
「震災のあと、帳が焼けたから仮帳面を何冊か作ったんです。これは私がいた分の控えです」
い帳面だった。
。
崎さよ。
千代たちは同にを乗りした。
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《使用受入 円》
千代はもう度見た。
「円?」
さよの顔から血の気が引いた。
「私は百円払いました」
「私もそうったから驚いたんです」
林はページをめくった。
「残り円は、私の帳面にはありません」
「じゃあどこへ」
「分かりません」
さらに調べると、奇妙な記載がいくつもあった。
震災の借。
震災のしい借。
受取。
支払。
そのには、松田庄吉の名もあった。
《松田庄吉 理円》
そこまでは受取証の裏きと致する。
しかし隣の欄には、
《旧借処理済》
と記されていた。
「処理済って何ですか」
千代が聞く。
林は首を振った。
「私がいた文字じゃない」
墨のも違っていた。
さらに次のページ。
その次。
《旧借処理済》
同じ言葉が何度もてくる。
林の指が止まった。
「こんなにあったか……」
帳面には、震災の借り主が戻らないものとして処理され、その別の族へ貸されたが区画記録されていた。
「この」
千代がつの名を指した。
《峰源次郎 》
「ってるんですか」
「昨会いました」
千代は震災の隣を探す途、峰という男から話を聞いていた。腕に傷の痕はあったが、違いなくきていた。
帳面では者。
現実ではきている。
さよが震える声で言った。
「じゃあ、さんは……」
林が慌てて首を振った。
「まだ決めつけちゃいけない。
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震災の混乱で違った報が入った能性もある」
その、帳面の最から枚のが落ちた。
焼け跡帯を簡単に描いた見取り図だった。
ごとに赤い丸がついている。
松田。
峰。
ほかにも軒。
そして余には、鉛でい文字があった。
《帰還に再契約》
千代は息を止めた。
父だけではなかった。
崎だけでもなかった。
震災でに町をれたが帰ってくるに、そのを別の被災者へ貸す。
それがもし図にわれていたのなら――この争いは、軒のを取り戻せば終わる話ではない。
しかも見取り図のには、さらに気になる本の太い線が引かれていた。
松田のを斜めに横切り、その先の数区画まで続いている。
林は線を見た途端、顔を曇らせた。
「これは……」
「何ですか」
林はすぐには答えなかった。
やがてい声で言った。
「震災のあとにた、の話かもしれない」
千代は見取り図を見ろした。
父が取り戻そうとしている。
さよが守ろうとしている。
その両方のを、本の線が通っていた。
見取り図を持ち帰った夜、千代は父へ円以のことをまだ話さなかった。庄吉は崎を退させるため、以仕事をしたことのある商の主から「法律に詳しい」を紹介してもらうと言いしていた。父のでは、相は依然として「あとから入ってきた族」
であり、自分のと比べれば半の暮らしなど問題にならないとっている。
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