"震災から半年ぶりに帰った家には、知らない家族が住んでいた" 第7話
清太郎は弥兵の姉の息子で、震災は横浜で商売をしていたが、を失って本所へ戻ってきた。のりない弥兵を伝い、焼け跡の理やしい借り主との契約を任されていた期があるという。
「私が帳を辞めたのも、あのが来てからです」
林が言った。
「どうして?」
「の扱いが変わった」
以は代を受け取れば、そのまま帳簿へ記録するだけだった。ところが震災、清太郎は《理》《建築承諾料》《先払代》など、それまでなかった名目を使い始めた。
「崎さんの円も?」
「能性はあります。でも証拠がない」
千代は、さよが百円を作るために夫の計を売った話をいした。
その円がどこへ消えたのか。
父の円は、本当に何のだったのか。
そして清太郎が勝にやったことなのか、弥兵もっていたのか。
調べるべき相が増えた。
だがその晩、庄吉は別のらせを持ち帰った。
「来週、役所へく」
「何しに?」
「借のことを相談する。も緒だ」
父は本気で争うつもりだった。
千代は見取り図の線について話そうとしたが、言えなかった。
まだ確かなことが分からない。
もし「を取り戻してもになるかもしれない」と言えば、父は調べるから自分が邪魔をしているとうだろう。
千代はまず、あの本の線が何をするのか確かめることにした。
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庄吉は役所へった翌から、以より激しくへ執着するようになった。
相談窓では確な答えがなかった。震災の借関係、の焼失、避難の代、震災のしい契約が絡みい、簡単に「こちらが正しい」とは言えないという。庄吉はそれを「役は逃げている」と受け取った。
「裁判でも何でもする」
夕の席で父が言った。
おふみが箸を止めた。
「そんなお、どこにあるんです」
「仕事を増やす」
「脚だってまだ痛むでしょう」
「じゃあ諦めろと言うのか」
「そうじゃありません」
「おはいつもそうだ。崎の族がかわいそうだ、裁判にはがかかる、もうし待て。待って待って、最には何もなくなる」
母の顔が曇った。
千代は初めて、父がを取り戻したい理由を正面から聞いた。
「お父さん、あそこじゃないと駄目なの?」
庄吉は娘を睨んだ。
「何だと」
「同じ本所でも、別の所を借りることはできるでしょう」
「おまでそんなことを言うのか」
「理由を聞いてるの」
父はしばらく黙った。
やがて、震災のについて話し始めた。
庄吉が本所へてきたのは歳のだった。最初は建具のみ込み職で、朝から晩まで働いた。歳で独したが、を持つはなく、から借りたにさなのを借り、表を作業にした。
そこでおふみと所帯を持った。
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千代がまれた。
正がまれた。
得先が増え、ようやく自分の名で仕事を頼まれるようになった。
「俺はを持ってない」
庄吉は言った。
「だって借り物だった。でも、あそこで働いた。『本所の松田』と言えば分かるがいた。震災でも具も仕事先も焼けた。戻ってきたら、今度は所までのものになってる」
千代は何も言えなかった。
「俺に何が残る」
父の声はっているというより、疲れていた。
「円もらったから、まで売ったことになるのか」
その言葉で、千代はようやく理解した。
父が守ろうとしているのは、の数坪だけではない。
自分が京できてきたという証拠だった。
翌朝、千代はさよにも同じことを尋ねた。
「崎さんは、どうしてあの所じゃないと駄目なんですか」
さよは洗濯物を絞るを止めた。
「へけるならってるよ」
震災、子どもを連れてを探した。
未と分かると断られる。
子どもがいると断られる。
保証してくれる男がいないと断られる。
ようやくからを借り、百円を払い、自分でバラックを建てた。
「は学もやめた」
さよは言った。
「あの子が板を運んだ。浩が釘を拾った。末の子は、根ができたから夜泣きしなくなった」
父にとっては。
さよたちにとっては半。
さは違う。
しかし、どちらもそこできただった。
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