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"四十九日の遺言" 第1話

「もめたんだから、もう分でしょう」

夫・彦の法が終わると、義弟の正隆は玄関に置かれたつの旅鞄を顎で示した。どちらも静の物だった。喪の親族がまだ座敷で茶をんでいるのに、見らぬ鍵業者が玄関錠をしていた。

義母の澄子は仏壇のからかず、枚のを差しした。《舗、宅及び共同宅を弟・佐伯正隆に相続させる。妻・静にはまでの居を認める》。末尾には彦の署名と実印があり、印鑑証の写しまで添えられていた。

静と彦は、階の弁当と階の居で暮らしてきた。裏には学向けののアパートがある。静は毎朝に起き、米を研ぎ、煮物を作り、配達が終われば翌の仕込みをした。彦が病に倒れてからのは、介護ももほとんどで担った。

「遺言があるなら、どうして今まで見せなかったんですか」

「法のまでは兄貴の顔をてただけだ。からは俺がやる」

正隆は答え、静が使っていた帳の鍵まで取りげた。澄子は「佐伯のを守るには男が必なの」と言った。働いた嫁より、に数度しかへ来なかった次男を選ぶことに、迷いはないようだった。

静はそので争わなかった。弁護士に確認するまでは何にも署名せず、遺言の原本を保全するよう告げた。

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すると正隆は、財産を奪われた者ではなく、面倒な客を見る目で笑った。

「あんたには何もないよ。預だって兄貴名義だ。く現実を見たほうがいい」

静が持ちせたのは、類と薬、彦の病から持ち帰った段ボール箱だけだった。宿泊先のビジネスホテルで箱をくと、鏡、古い帳、充の切れた携帯話がてきた。充器を買い、源を入れたのは夜を過ぎてからだった。

着信はなく、未送信の文章もなかった。しかし録音アプリに、再が法当に設定された音声がつ残っていた。雑音の向こうで、衰えた彦の声がした。

『もし母さんたちが遺言をしたら、を取り返そうとするな。先にの気メーターを見てくれ』

法の朝も、静は客へす煮物を自分で作っていた。澄子は台所へ顔をすたび、がい、器が違うとを挟んだが、正隆は度も伝わなかった。親族が帰る際には彼が喪主のようにをげ、も母も自分が守ると話していた。静はその言葉のを、玄関に鞄が置かれるまで理解していなかった。

旅館ではなくいホテルを選んだのは、自由に使えるがなかったからだ。夫婦の活座は彦名義で凍結され、の現も正隆が持っている。静個の通帳には万円ほどしか残っていなかった。

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働いたが、泊できるかどうかを計算して部を取る。その現実が、遺言の文面より先に彼女を震えさせた。

静はホテルへ移る、玄関の柱へ刻まれた娘のいない夫婦の背比べを見た。子どもはいなかったが、のが成するたび、彦はその柱ので記写真を撮った。とは登記だけでなく、積みねたでもある。だからこそ正隆は、静がいを捨てられず法段へないと読んでいた。静は振り返らずにをた。いを守ることと、所へしがみつくことを同じにしないためだった。

親族のだけが廊で静を呼び止め、事をらなかったと謝った。しかし彼も鞄を運ぶ正隆を止めなかった。静は、気の毒だとうがいても、するがいなければ追いされる結果は変わらないとった。

静は度聞き直した。のに、気メーターなどなかった。

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