夫の四十九日を終えたその日、静江は三十一年間暮らした家と弁当店から追い出された。 義弟が突きつけた遺言書には、店も住居もアパートもすべて彼へ譲り、妻には何も残さないと記されていた。署名も実印も、確かに亡き夫のものだった。 途方に暮れる静江が夫の古い携帯を起動すると、一件だけ音声が残されていた。 『遺言が出ても、家を取り返そうとするな。先に地下室の電気メーターを見てくれ』 存在しないはずのメーター。その裏から見つかったのは、結婚前の静江の名が記された領収証と、土地の所有者を示す記録だった。 ところが調査を進めるうち、遺言書には差し替えられた紙の痕跡が見つかり、八室あるアパートからは二室分の家賃が二十年間も消えていたことが判明する。 そして亡き夫の端末には、義弟の不正だけでなく、静江が最も知りたくなかった“三十一年間の沈黙”が残されていた――。