"四十九日の遺言" 第2話
翌朝、静は駅の法律事務所を訪ねた。以、の賃貸契約を相談したことのある弁護士、片桐玲子は録音を聞き終えると、より先に順を並べた。遺言の原本確認、登記事項証の取得、財を処分しないよう求める通。静がへ戻るも、ではかないことになった。
午、片桐と鍵業者ち会いのもとでへ入った。正隆は「勝に探し回るな」とったが、静の私物と事業類が残っているため、の確認を拒めなかった。には業務用凍庫、折り畳み机、欠けた器、古い販促用の幟が積まれていた。
「気メーターなんて、兄貴の薬のせいで見ただろ」
正隆の言うとおり、現の分盤は階段脇にあり、壁のメーターから本につながっていた。静は帰りかけたが、凍庫の背面に自然な隙を見つけた。壁板の部だけ目がしく、固定している釘も錆びていない。
凍庫をかすと、板の裏から古い鉄箱が現れた。には昭の陶器製ヒューズと止した力量計があり、裏蓋へ枚の領収証が貼られていた。契約者欄はすべて《静》。結婚の姓だった。
静の父は、この所で惣菜の加所を営んでいた。結婚、彦が「表通りのよりここで弁当を始めよう」と提案し、佐伯の号を掲げた。
広告
父がくなったころ、彦から融資の都で印鑑を貸してほしいと言われた記憶がある。それ以来、静はも建物も夫名義になったとい込んでいた。
片桐が法務局で調べると、の所者欄には現も《静》と記録されていた。建物だけが彦名義で、には建物を使用させる旨のが登記されている。その期限は彦のまでだった。
「つまり、私は自分のから追いされたんですか」
「建物の相続が誰かとは別問題です。なくとも、正隆さんがまで自分の物として処分することはできません」
のメーターは、単なるいではなかった。かつて加所と居が別契約だったことを示し、の来歴へ静を導く目印だった。
その夜、正隆から話が来た。「も兄貴から贈与されたはずだ」と鳴ったあと、彼はわずを滑らせた。
「もうの審査だって始まってるんだぞ」
の登記を見た静は、父がくなるに言った言葉をいした。《印鑑を渡すは、何に押したか自分で控えを持て》。当の彼女は、夫婦なのだから疑う必はないと笑った。父はそれ以言わず、登記識別に関する古い類だけをの貸庫へ預けていた。彦は名義を移したと嘘をついたのではなく、静がい込むのを訂正しなかったのだ。
広告
片桐は、が静名義だからといって建物をすぐ閉鎖したり、義母を力ずくで退させたりはできないと説した。借関係、婚姻の、相続の居権を理する必がある。勝てる材料が見つかっても、今夜からすべて自分の物になるわけではない。静はその慎さに落胆する方、正隆が同じ法律を無して自分を追いしたことを改めて理解した。
古いメーターの番号を力会社へ照会すると、契約廃止の申請者は彦だった。備考欄には《所者・静の承諾により統》とある。夫はの名義をらなかったのではない。ったうえで、静へ説せずつの気契約にまとめていた。この記録がなければ、正隆は古い領収証を単なる廃棄物だと片づけただろう。
片桐はの発見状況を写真と見取図にし、メーターへ誰も触れないよう封をした。で都よく置いた物だと言われないためだった。静にとって懐かしい品でも、争いのでは発見の状態そのものがを持った。
相続続きも終わっていないのに、正隆は何を担保に、いくら借りようとしているのか。静は録音を止めずに尋ねたが、話は切れた。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
1000万円のハワイ旅行を贈ったら、私だけ家族から外されました
亡き夫との夢を叶えるため、息子一家と両家の親が参加するハワイ旅行に一千百二十万円を支払った静江。ところが出発直前、息子の健太から「行くのは妻の両親だけ。もう連絡しないでほしい」と告げられる。六年間続けてきた住宅ローン援助や孫の送迎まで当然のように扱われていた静江は、息子の希望どおり、すべての支援を打ち切った。 息子夫婦がハワイを満喫している間、静江のもとに旅行代理店から精算書が届く。そこには、健太が二か月前から母を旅行者名簿から外し、「重度の認知症と末期癌の疑いがある」と虚偽の申告をしていた記録が残されていた。 さらに義弟からの電話で、健太が静江を判断能力のない高齢者に仕立て、成年後見人として財産管理権を握ろうとしていることが判明する。狙われていたのは、資産価値八千万円の自宅と三千万円の老後資金。しかも計画には、嫁とその父親、虚偽の診断書を作った医療関係者まで関与している疑いがあった。 静江は弁護士と任意後見契約を結び、正常な認知機能を証明する診断書と旅行代理店の通話記録を確保する。そして帰国した息子夫婦を待っていたのは、止められた送金、返送された孫の荷物、そしてホテルのテーブルに並べられた逃げ場のない証拠だった。家族旅行から排除した母が、自分たちの計画をどこまで知っているのか――二人がそれを理解した時、作り上げた“幸せな家族”の姿が崩れ始める。嫁姑|親不孝|親子関係2.2万字5 663 -
完結第16話
退職金を狙った息子夫婦と、亡夫の最後の記録
三十八年勤めた病院を退職した夜、久美子は息子夫婦から一枚の振込用紙を差し出された。 金額は、退職金の全額にあたる千八百万円。 「孫の将来のため」と迫られた久美子は署名を拒み、亡夫が残した通帳を調べ始める。すると、死後も三年間続いていた謎の送金と、《健太には知らせるな》という赤い文字が見つかった。 さらに孫本人は、息子夫婦が語る私立高校も医学部も望んでいなかった。 家族のために用意されたはずのお金は、いったい誰の借金を埋めていたのか。亡夫の署名が入った二通の承諾書、銀行へ持ち込まれた偽の委任状、そして貸金庫に隠された最後の手紙。 久美子が送金を止めた瞬間、息子夫婦が長年隠してきた金の流れが、静かに崩れ始める。親不孝|絶縁|親子関係|退職金|金銭問題1.1万字5 815 -
完結第14話
夫の通帳を奪った義母が銀行で凍りついた日
「息子の通帳は、こっちで管理するわ」 夫の四十九日の翌朝、義母は仏壇の引き出しから通帳を奪った。 「三宅の金を、子供も産めなかった嫁には渡さない」 私は取り返そうともせず、静かに答えた。 「どうぞ、ご自由に」 一週間後、記帳した義母が怒鳴り込んできた。 「残高が12万3,000円しかない! 残りをどこへ隠した!」 さらに義母と義弟は、家を売って財産を分けると言い出した。 私は反論せず、銀行の応接室へ二人を呼んだ。 ところが義母は約束より早く窓口へ行き、通帳を突きつけた。 「私は母親よ。全額払い戻して!」 銀行員は戸籍を確認し、義母へ静かに尋ねた。 「お客様は、亡くなられた和幸様と養子縁組をされていますか?」嫁姑|相続|親子関係|金銭問題2.0万字5 833 -
完結第12話
廃屋を買った兄妹と、床下に眠る父の秘密
両親を亡くした二十歳の空は、八歳の弟・陽斗と全財産で海辺の廃屋を購入する。夜ごと床下から響く三回の音を追うと、監禁された父の同僚・村瀬を発見した。 家に残された鍵と録音には、父が勤め先の不正を調べ、叔父・健二と副社長・水城に命を狙われた証拠が隠されていた。空は弁護士や警察と連携し、両親の事故の真相を暴く。 健二と水城は逮捕され、不当な借金請求も止まった。価値のない廃屋と思われた家は、一人の命と父の記録を守り、姉弟が安心して帰れる本当の我が家となった。兄弟姉妹|相続|金銭問題1.7万字5 426 -
完結第10話
十年分の船代で始まった一人旅
半年前に夫・常夫を亡くした杉本は、夫が十年間積み立てた船代で一人クルーズへ出る。ところが同席した常連客・黒川千鶴子から、窓のない客室や白い会員カードを見て「十年もかけないと船旅ができない人」と毎晩見下されてしまう。杉本はついに、「お金を貯めるのに十年かかったのではなく、夫と来る日を十年間楽しみに待っていた」と静かに告げ、千鶴子を黙らせた。 千鶴子は高価な絵や乗船回数を豊かさの証しとして周囲にも押しつけていたが、勧められるまま四十二万円の絵を買いかけた吉江夫妻は、杉本の「その絵をどこへ飾りますか」という問いで思いとどまる。やがて千鶴子自身も、夫の退職後に失った肩書を埋めるため、会員ランクや高価な品に縋っていたことを認め始める。一方の杉本も、暗い客室で初めて夫の死を思い切り泣き、悲しみだけでなく自分のために旅を楽しんでよいのだと受け入れていく。 杉本は毎日眺めたいと思える二万四千円の水彩画を自分の意思で購入し、吉江夫妻も見栄のための買い物をやめた。帰宅後、千鶴子は箱に眠らせていた四十万円の絵を初めて飾り、杉本へ十年を侮辱したことを謝る。杉本は海の絵、青いガラスの魚、手作りのキーホルダーを日々の暮らしに置き、夫が残した時間を抱えながら、もう誰かの値段や物差しではなく、自分の速さで次の場所へ歩き始めた。夫婦|相続|金銭問題1.5万字5 461 -
完結第12話
入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた
交通事故で一週間入院した菜緒は、母・春江と連絡が取れないことを夫・健太に訴える。しかし健太は「元気にしている」と嘘を重ね、退院後に実家へ向かうと、母は姿を消し、家財や通帳、土地の権利証まで段ボールに詰められていた。 健太は、足の悪い春江に「娘は長期入院し、家も売る」と吹き込み、無断で老人ホームへ入れていた。目的は実家を売却し、残金を自分たちの生活に使うことだった。施設の隅で「娘に捨てられた」と泣く母を見つけた菜緒は、虚偽による入居契約の無効を主張し、その場から母を連れ帰る。 菜緒は直ちに、八年間続けてきた義父母への月十五万円の送金と家族カードを停止し、自分名義の定期預金三百五十万円も安全な口座へ移す怒り|夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場1.7万字5 858 -
完結第17話
母に追い出された私が、介護を手放すまで
三年間、要介護の母・一枝の家事と介護を一人で背負ってきた由美子は、「大好きな長男夫婦と暮らすから出ていけ」と追い出される。彼女は反論せず、通院、服薬、食事、排泄介助まで記した冷蔵庫の予定表だけを外し、新しい生活へ踏み出した。 由美子が消えると、兄・秀樹夫婦は介護の重さと毎月約九万円の費用に直面する。さらに秀樹が母の定期預金三百万円を、不倫相手への手切れ金として使い込んでいた事実も判明。義姉マリは耐えきれず家を出て、秀樹は汚物の処理すらできないまま妹へ泣きつく。 しかし由美子は、母と兄の身勝手な要求を拒み、実家からの電話を着信拒否にする。兄弟姉妹|親不孝|裡の顔|介護2.6万字5 971 -
完結第12話
20年の仕送りを止めたら、義母の嘘が暴けた
20年間、毎月10万円の仕送りを一度も欠かさなかった私。 総額は2,400万円にもなるのに、義母は法事の席で親族を前に笑った。 「たった10万円よこして、偉そうにしないでよ」 その言葉を聞いた私は、翌月から仕送りをやめることを決めた。 義母は「その程度のお金、なくても困らない」と強がっていたが、わずか3か月後、その暮らしは急速に行き詰まっていく。 やがて夫は、実家で銀行と証券会社から届いた複数の封筒を発見する。 そこに記されていたのは、義母が隠し続けてきた資産の動きと、私たちの仕送りが使われていた本当の目的だった。 なぜ義母は2,400万円もの援助を「大した額ではない」と笑ったのか。 そして、仕送りを止めた途端に崩れ始めたものとは――。 20年間の善意を当然のものとして踏みにじられた妻が、家族に隠された金銭の秘密と向き合い、自分の人生を取り戻していく物語。嫁姑|相続|親不孝|親子関係|金銭問題1.8万字5 1264 -
完結第13話
母の保険金3,000万円、夫は「もう諦めろ」と言った
「1か月だけ、3,000万円を貸して」 亡き母の保険金が振り込まれた直後、夫の姉が突然頼みに来た。 夫も「家族を助けると思って」と私を説得した。 私は返済期限を定め、夫を連帯保証人にして公正証書を作った。 姉は笑顔で実印を押し、翌日、3,000万円を受け取った。 しかし1か月後、入金はなかった。 やがて電話は着信拒否され、3か月が過ぎた。 夫へ相談すると、苛立った声が返ってきた。 「もう諦めろ!」 そして次の瞬間、夫は口を滑らせた。 「あいつに、そんな金あるわけないだろ!」 私は何も言わず、弁護士宛てのメールを開いた。夫婦|相続|金銭問題1.9万字5 1003