みかん小説
本棚

"四十九日の遺言" 第8話

アパートの管理は、正隆が無償で伝っていることになっていた。入居者募集、賃回収、簡単な修繕を任せ、彦はの帳簿へ毎分だけ計していた。ところが建物にはあり、空だった期を確認しても、分の収入が自然に消えている。

静は過の入居者を探した。学代にんでいた女性が、賃を正隆指定の個座へ振り込んだ通帳記録を残していた。別の男性は、退の敷を返してもらえず、彦へ苦を伝えたが「弟と話す」と言われたきりだったという。

推計額は千万円を超えた。彦はなくともから気づいていた。タブレットには正隆と交わした覚の写真があり、《分を毎万円ずつ返済する》とかれている。しかし返済は回で止まり、そのも分の賃は消え続けていた。

「夫はどうして警察に言わなかったんでしょう」

静の問いに、澄子は「弟を犯罪者にできなかったのよ」と答えた。その言葉には、男なら族を守って当然だという響きがあった。静は、彦が黙った代償を誰が払ったか考えた。の利益がないと言われ、自分は以与を取らず、父のを無償で使わせてきた。

正隆は事実をると、今度は彦の責任を調した。兄が承した共同事業であり、賃は管理報酬として受け取っただけだと主張した。

広告

正式な管理契約はない。正隆の座から彦へ定期にが戻されていたため、単純な横領として扱えるかは慎な確認が必だった。

静はすぐ告訴せず、収入の流れを固めた。アパートの使用量、鍵交換の記録、入居申込を集め、が継続して使われていた期を復元した。さな数字を積みねるほど、夫婦の活から何が抜き取られたかが見えてきた。

その最、の仕入先から連絡が入った。正隆が静名義の旧座から代を引き落とそうとしているという。彦のも登録が残っていたのだ。静は即止し、すべての取引先へ経営者変更を確認するまで掛け売りに応じないよう通した。

翌朝、正隆の弁当は米も容器も届かず、臨休業した。張りには《経営者による妨害のため》とかれていた。

賃を払っていた元学たちは、正隆を気さくな管理として覚えていた。故障した湯器をすぐ直し、就職が決まれば酒を贈った者もいる。正をするが、すべての面で乱暴だったわけではない。そのためも、振込先が個座でも疑わなかった。正隆は信頼を度に奪うのではなく、さな親切と引き換えに確認を省かせていた。

静は調査表を作り、入居期、額、振込先、修繕内容をずつ埋めた。

広告

分には空欄もく、推測で額を増やさなかった。確実に証できる額だけでも千百万円を超えた。きな数字をすことより、正隆がつも「像だ」と逃げられない数字を作ることを優先した。

元入居者へ連絡する際、静は個報の扱いにも気を配った。古い名簿を勝に使わず、管理会社から調査協力の案内を送り、本が希望しただけ話を聞いた。急げばくの証言が集まるかもしれないが、正隆がの報を自分の事業へ流用したのと同じことはしたくなかった。調査の方法も、取り戻したいのあり方の部だった。

調査表の空欄には、無理に数字を入れず《》と記した。を残すことはさではなく、証できる部分の信頼を守ることだった。正隆の帳簿が都のよい数字で埋め尽くされていたからこそ、静は空欄を恐れなかった。

静はその張りを撮し、反論のを隣へ貼ることはしなかった。代わりに、名誉を傷つける虚偽を止めるよう正式に警告した。で殴り返すより、正隆が次に嘘をつけなくなる記録をつずつ作るほうが効いた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: