みかん小説
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"毎日ラーメンをもらいに来た老人の遺言" 第3話

「毎寒いを歩いて来られるのも変でしょう? これだけあれば、しばらくは買い物にられなくても丈夫ですから。どうぞ、慮しないで持っていってください」

源蔵さんは、まるで目のに突如として信じられない奇跡が現れたかのように、目を丸くして固まっていた。 いたが塞がらず、喉仏が激しくしている。

「こ、こんな……こんなにたくさん……!? 滅相もない、いけません! 私のような社会の役にたない老いぼれに、こんな派なものを……! 受け取れません、そんな……!」

源蔵さんは慌てて両を振り、ずさりしようとした。 その表には、びよりも先に、に余る善に対する恐怖のような困惑が浮かんでいた。

「いいんです、源蔵さん」 私は箱を抱えたまま、静かに、穏やかな声で続けた。 「私が勝に買ってきただけですから。それにね……私、夫をくしてからずっとで、誰とも話さないが何も続いていたんです。でも、源蔵さんが毎こうして顔を見せてくださるおかげで、『今も誰かと話せた』って、救われていたんですよ。私の方こそ、おじいさんに謝しているんです」

それは、嘘偽りのない私の本だった。 れみや施しではない。孤独を分けう者同士の、ささやかな絆。

源蔵さんは私の言葉を聞き、ピタリときを止めた。 そして、恐る恐る、骨の浮きた皺だらけのを伸ばし、段ボール箱のい縁にそっと指先を触れさせた。

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その指先が、激しく震えていた。

「さくらさん……あんたは……」

源蔵さんのしゃがれた声が、途で途切れた。 その濁った瞳から、ポロポロと、粒の涙が溢れした。 涙は頬のい溝を伝い、褪せたジャンパーの胸元へと吸い込まれていく。 老が、のでこれほどまでにをわにして泣く姿を、私は見たことがなかった。

源蔵さんは段ボール箱を抱き留めると、そのみで腰を沈ませながら、コンクリートの面に両膝をつきそうになるほどく、くをげた。

「ありがとう……ありがとう、さくらさん……。この恩は……この温かさは……わしはんでも絶対に忘れません……」

「おじいさん、をげてください! ただのインスタントラーメンなんですから、そんなに袈裟にしないでください!」

私は慌てて彼の肩を支えようとした。 源蔵さんは涙を袖で乱暴に拭いながら、くしゃくしゃの笑顔を浮かべた。 箱を抱える腕には、先ほどまでの々しさはなく、まるでこの世で番壊れやすい宝物を抱くような、力い慈しみが宿っていた。

「気をつけて帰ってくださいね。いんですから」 「ああ……ああ。事に、事にいただきますよ……」

源蔵さんは何度も振り返り、その都度さく会釈をしながら、暗いを自分のへと戻っていった。 曲がった背。引きずる。 けれど、その取りは、昨までよりも確実に力く面を踏みしめているように見えた。

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たい夜が通り抜ける玄関先で、私は胸の奥がじんわりと温かくなるのをじていた。 これで、彼が寒さに震えて毎歩く必はなくなった。 しは役にてただろうか。 そう自分に問いかけながら、私は静かにドアを閉めた。

それから、私ののインターホンが鳴ることはなかった。 元に箱分のラーメンがあるのだから、もらいに来ないのは当然のことだった。

私は翻訳の作業を続けながらも、折、デスク横の窓から隣のを窺っていた。 源蔵さんのの根からは、細い煙突が本突きている。古い薪ストーブか油呂釜を使っているらしく、夕方になるとそこからい煙がゆらゆらとちり、特の油の匂いがに乗って漂ってくるのが常だった。 夜になれば、破れた障子の隙から、古いブラウン管テレビのものとわれる青いがチカチカと漏れていた。

(ああ、今も温かくして過ごしているんだわ) その煙とかりを確認するたびに、私は胸を撫でろしていた。

しかし――異変に気付いたのは、目の朝のことだった。

の厳しい朝のえ込み。がりた庭の々がく凍りついている。 午に起きてカーテンをけた、私はふと違を覚えた。 隣の煙突から、煙がていない。

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