"赤ちゃんの声が聞こえる姪が、夫の嘘を見抜いた日" 第3話
夫だけが笑わなかった
「俺?」
徹は自分を指差した。
「そう」
美久は嬉しそうに頷いた。
「お父さんに言ってる」
「何を?」
私より先に織さんが尋ねた。
美久はもう度悠真へをづけた。
けれどしして、首を傾げた。
「今は秘密だって」
「何だそれ」
兄が笑う。
父も「赤ん坊同士の会話かな」と笑った。
けれど徹だけは違った。
額に汗が浮かんでいた。
が効いている部なのに、襟元へ指を入れ、何度も喉を鳴らしている。
「子どもの遊びだろ」
そう言って笑おうとしたが、顔が引きつっていた。
私は横から夫を見た。
「どうしたの?」
「何が?」
「顔悪いよ」
「みすぎただけ」
そのはで来ていたので、酒は滴もんでいない。
私は何も言わなかった。
帰宅。
徹は珍しく美久の話題をした。
「なあ、あの子、本当に変なこと言うの?」
「変って?」
「未来が見えるとか」
「織さんは議な勘があるって言ってる」
「本気で信じてるの?」
「私は分からないけど」
徹は黙った。
「何でそんなに気にするの?」
「別に」
すぐに話を切りげる。
その夜から、徹は悠真を見る目まで変わったようにじた。
以は無関だったのに、々ベビーベッドのへち、何も言わず息子を見ろしている。
「どうしたの?」
声をかけると。
「何でもない」
すぐれる。
私はその背を見るたび、言葉にできないを覚えた。
数。
織さんからメッセージが届いた。
広告
《ちょっと話したいことがあるんだけど、徹さんがいないにってもいい?》
嫌な予がした。
《もちろん。今なら夕方までいないよ》
午。
織さんは美久を連れてやって来た。
悠真へ挨拶をしたも、いつものように雑談を始めない。
「こののこと、覚えてる?」
「美久ちゃんの?」
「うん」
織さんが美久を見る。
美久はジュースの入ったコップを両で持ちながら、私を見た。
「赤ちゃんが教えてくれたの」
「何を?」
美久は答えず、ある方向を見た。
徹の斎。
じっと見ている。
「あの部」
私は背がたくなった。
「斎?」
「あそこにあるよ」
「何が?」
美久は困った顔をした。
「分かんない。でも赤ちゃんが、そこって」
歳の子の話だ。
信じる必はない。
そううのに、徹が実で見せた怯えた表をいしてしまう。
美久はちがった。
「あっち」
織さんが止めるよりく、斎へ向かう。
私は慌ててを追った。
扉をける。
普段、掃除以でほとんど入らない部。
机。
本棚。
仕事用のファイル。
数冊の専。
特別なものは見えない。
「何もないよ?」
私は言った。
美久は返事をしなかった。
初めて入った部なのに、迷わず番奥の本棚へ歩いていく。
から段目。
仕事関係らしいい本を冊抜いた。
その瞬。
本と本のから茶い封筒がへ落ちた。
私も織さんもけなかった。
美久が拾う。
広告
「これ」
私へ差しした。
宛名なし。
封はされていない。
に数枚のがある。
私は織さんと目をわせた。
「見てもいいのかな」
「亜鳥ちゃんのだよ」
それでもが震えた。
封筒をける。
枚目。
保険会社の類。
そこには私の名がかれていた。
《被保険者 鈴亜鳥》
最初はが分からなかった。
妊娠にも命保険へは加入していた。
徹も同じだった。
ただ。
その額を見た瞬。
息が止まった。
「……何、これ」
織さんも覗き込んだ。
「こんな額……」
私が把握している契約とはらかに違う。
しかも受取は徹。
それだけなら夫婦ではあり得る話だ。
問題は、そのに挟まれていた別のだった。
契約変更に関するき。
いくつかの項目に鉛で印があり、私のらない内容がき込まれている。
「亜鳥ちゃん、これってた?」
「らない」
声がなかった。
「本当に?」
「こんなの、見たことない」
美久は私たちの顔を見比べた。
「赤ちゃんが言った通りでしょ?」
を理解していない。
ただ、褒めてもらえるとっている顔だった。
私は膝をついた。
美久の肩へを置く。
「ありがとう」
「見つかった?」
「うん」
「よかった」
美久は嬉しそうにリビングへ戻った。
ベビーベッドへづく。
悠真がちょうど目を覚ました。
美久は何かを聞くようにを寄せ、それから笑った。
「丈夫だって」
私は扉のところでち尽くしていた。
まだ、何が「丈夫」なのか分からなかった。
ただつだけ分かった。
徹が私に隠しているものは、これだけではない。
そして私はその、初めて夫を調べることを決めた。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
夫が毎日3回トイレを磨く理由
結婚五年。紗季は、温厚で家事にも協力的な夫・玲央と、四歳の娘・莉乃と平穏に暮らしていた。ただ一つ奇妙だったのは、夫が毎日三回もトイレを掃除し、誰にも触らせなかったこと。 ある日、法医学者の親友・美代子が、トイレの排水設備から人間の歯と古い血痕の痕跡を発見する。調査を進めると、この家では六年前、玲央と同棲していた婚約者が突然姿を消していた。夫婦|真実|真相1.5万字5 1 -
完結第23話
母の小さな食卓
三年ぶりに実家へ帰った直人は、母の誕生日の食卓に、ご飯と味噌汁、漬物しかないことに驚く。冷蔵庫もほぼ空なのに、玄関には弟へ渡す高価なりんごが三箱も積まれていた。 さらに母の通帳には、弟へ毎月八万円を送った記録が残されていた。弟ばかりを優先する母への古い不満がよみがえるが、その金は、直人が失業した三年前から、息子・悠人の学費として渡されていたものだった。裡の顔|親子関係|修羅場2.8万字5 16 -
完結第16話
離婚3か月後、元義母に300万円を要求された私
離婚から三か月後、美緒のもとへ元義母から電話が入る。事故で入院した元夫・達也のため、今すぐ三百万円を持ってこいというのだ。美緒は鼻で笑い、「新しいお嫁さんに頼んでください」と断る。 ところが、社長令嬢だと信じられていた新妻・優奈は、達也の金を持って姿を消していた。さらに達也は見栄を守るため借金を重ね、実母には内容を偽った書類へ実印まで押させていた。 しかも「命に関わる治療費」という三百万円には、滞納した返済やカード代まで含まれていた。美緒を再び財布として利用するための嘘だったのだ。嫁姑|夫婦|金銭問題1.5万字5 57 -
完結第20話
置き去り後27分
給与口座の通帳と暗証番号を義母へ渡すよう迫られた美和。拒絶すると、夫は彼女を真冬の国道へ置き去りにし、「怖い思いをすれば折れる」と走り去った。 美和は泣いて追いすがらず、900メートル先のファミレスで夜を明かす。翌朝、夫から届いていたのは41件の着信と、「すぐに戻った」という釈明だった。 だが店を出ようとした美和を、見知らぬトラック運転手が呼び止める。彼のドライブレコーダーには、夫が戻ったのは27分後だったこと、さらに義母との電話で置き去りの目的を語る肉声まで残されていた。 口座を守るための夫婦喧嘩だと思っていた夫。しかし映像が暴いたのは、妻を恐怖で屈服させようとした計画的な支配だった。美和は金だけでなく、自分の人生を決める権利を取り戻すため、24年間の結婚に静かに決着をつける。夫婦|第二の人生|ATM扱い|金銭問題2.2万字5 433 -
完結第12話
私にだけハズレ料理を出す義母の誤算
月に一度の義実家での食事会。真希にだけ、焦げたご飯、肉のない煮物、殻付きのエビ、骨だらけの刺身が出される。しかし夫・隆は「偶然だ」「被害妄想だ」と、母親を庇い続けた。 妊娠を知った真希は、わが子を守るため、記録を残しながら静かに脱出の準備を始める。そんな中、義母は「誰がハズレを引くかしら」と、中身の違うメンチカツを食卓へ並べた。 真希が選んだ一つを切ると、中から現れたのは肉ではなく、形を整えたかまぼこ。長年「偶然」で隠されてきた嫌がらせが、夫と義父の前で初めて暴かれる。怒り|嫁姑|夫婦|修羅場1.3万字5 18 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 430