"昭和38年、つなぐなと言われた救急電話" 第18話
つなぐという仕事
さらにが流れた。
奥沢町から交換の声が消えていった。
受話器を取れば、
「交換です」
と女性の声が返ってくる代は、しずつ過になった。
若い世代にとっては、話番号を自分で回せば相につながるのが当たりになる。
澄子も交換台をれるが来た。
最の勤務。
コードが並んだ交換台をに座る。
何千回。
何万回。
とをつないだ。
商売。
恋。
親子。
病院。
役。
葬儀のらせ。
赤ん坊がまれた報告。
話の内容はすぐ消える。
だが、ときどきつだけ残る声がある。
澄子にとって、それは藤沢医師だった。
《まだ息があるんです》
その声をいすたび。
原だけを悪者にすることは簡単だった。
だが澄子はそうしなかった。
原は話を止めた。
それは事実。
息子を守った。
自分を守った。
記録を消した。
さらに澄子へ責任を押しつけようとした。
許せることではない。
同に。
澄子も最初の数分は従った。
浦も黙った。
丸も黙った。
妙子も黙った。
会社の作業員も黙った。
役もすぐにはかなかった。
には理由がある。
族。
活。
仕事。
司。
取引。
恐怖。
だからこそ恐ろしいのだと、澄子はう。
きな嘘は、最初から勢の悪が集まって作るとは限らない。
が分だけ黙る。
次のが「自分には関係ない」と目を逸らす。
広告
別のが類の数字をつ直す。
その積みねで。
のが、朝までしなかったことにされかけた。
交換台の源を落とす。
内が静かになる。
若い職員が尋ねた。
「宮坂さん。寂しいですか」
澄子はし考えた。
「そうね」
「交換って変だったんでしょうね」
「変なもあった」
「番事だったことって何ですか」
澄子は笑った。
「相の声を最まで聞くこと」
「それだけ?」
「それだけ」
若い職員は首を傾げた。
澄子は説しなかった。
建物をる。
のが吹いていた。
鞄のには、持ち続けてきた冊のノートがある。
最初のページ。
《昭381112 午1143分》
その。
《奥沢診療所》
《歳男子》
《まだ息がある》
最のページには。
何もになって、だけきした。
《聞こえた声を、なかったことにしない》
澄子はノートを閉じた。
林勝雄の命が戻ったわけではない。
母親から失われた息子も。
妹から失われた兄も。
取り戻すことはできなかった。
事会社の全員が、分な責任を取ったわけでもない。
話を止めたがどれほどのへ響したかも、最まで数字では証できなかった。
それでも。
午1143分に、勝雄はきていた。
藤沢医師は助けようとしていた。
病院へつなぐ話がした。
警察へらせようとした話もした。
別のも配された。
そのすべてが止められた。
度は消されたが。
最には記録へ戻った。
それだけは誰にも変えられなかった。
昭38のの夜。
のさな話交換所で、の交換がコードへを伸ばした。
司のが、それを押さえた。
「その話だけは、絶対につなぐな」
澄子はその命令に、度は従った。
そしてそののをかけて。
度と同じ命令には従わないと決めた。
話交換だった宮坂澄子にとって。
それが最まで残った、仕事の誇りだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 0 -
完結第20話
昭和34年、上野駅で名前を奪われた少女
昭和34年、青森から集団就職列車で上京した15歳の澄子。しかし迎えの男は、「佐藤澄子は昨日から働いている」と告げ、十二人のうち彼女だけを駅に置き去りにする。 工場では、石川鈴という少女が澄子の名前と勤務番号を与えられていた。さらに偽造された退職届、説明のない給与控除、未発送の手紙など、少女たちを名前と番号で管理する不正が次々と明らかになる。時代|歴史|昭和2.8万字5 39 -
完結第16話
昭和53年、棟梁が俺を毎晩残した理由
十五歳で大工に弟子入りした直人は、一年間、掃除と雑用ばかりの日々を送っていた。ところが昭和五十三年の春、厳格な棟梁・源造から突然、「今日から毎晩残れ」と命じられる。 鉋、墨付け、仕口、図面。三年かけて覚えるはずの技を急いで教え込まれる一方、棟梁の体は日に日に弱っていく。やがて直人は、夜の稽古が自分を酷使するためではなく、残された時間で技術を託すためだったと知る。 師のいない現場で家を完成させた直人に遺されたのは、「半人前」と書かれた道具箱。しかし、その紙の下には、棟梁が生涯口にしなかった本当の言葉が隠されていた。時代|歴史|昭和2.6万字5 77 -
完結第16話
昭和24年、帰還した夫の家に別の夫がいた
戦地から四年ぶりに帰還した清太を待っていたのは、妻・文子と見知らぬ夫、そして二人の幼い娘だった。「ここはもう私たちの家です」と告げられ、清太は自分が死者として扱われていたことを知る。 出征直前、文子の胎内にいた息子・浩はすでに八歳。しかし浩は母のもとではなく、山村の伯母夫婦に育てられていた。妻も家も息子も取り戻したい清太だったが、彼のいない四年間にも、それぞれが生き延びるために築いた暮らしがあった。 実父の清太、母と暮らす政男、自分を育てた伯父。三人の「父」を持つ浩を前に、清太は家族が奪い返すものではないと気づいていく。時代|歴史|昭和1.4万字5 124