"桑の音が消えた村" 第20話
帳面の最の頁
の終わり、原で繭の荷が始まった。に比べれば、まだ分な量とは言えなかった。それでも各は自分たちが育てた繭を秤に載せ、数を確かめ、受け取る額を自分でき留めた。子は帳の横で戸ずつ記録をわせた。らないうちに増えたり減ったりする数字を、もう誰も望んでいなかった。
佐は受け取ったを布の袋へ入れると、子のところへ来た。「まずの借をし返すよ」。子は残額を見て「無理しないで」と言ったが、佐は「自分で決めた額だから」と笑った。はその横で学の教科を抱えている。今はしい制こそ買えなかったが、佐がに繕った袖はきれいに伸ばされていた。子はその族のろ姿を見送り、帳面へ返済額を記した。
原田は牛を売ったことを今も惜しんでいた。来のまでにもう買うのが目標だという。慎造が伝いを申しると、原田は度断ったが、から「がるにだけ頼む」と言い直した。は以のように親しいわけではない。それでも、仕事の予定をにできるようになった。子には、その器用なやりとりが何より確かな変化に見えた。
の総会では、しい取り決めが承認された。購入する資材は説や注を複数のが確認し、使用する所と期をき留めること。
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支払いを先に決めず、各戸の負担と見通しを示してから相談すること。そして組の会計はに預けきりにせず、定期に皆へ見せること。難しい約束ではなかった。けれどは、当たりの約束を守るのがどれほど難しいか、こので痛いほどった。
慎造は世話役を続けるつもりはなかった。の責任を考えれば当然だと本は言ったが、のにはもうだけ残って償うべきだと考える者もいた。話しいの末、別の者がしい世話役となり、慎造は畑の作業と帳簿の確認を伝う役に回った。誰かのにたなくても働けるとった父の顔は、よりし穏やかに見えた。
そのの夕方、子は祖母のへ荷の報告を持っていった。トヨは縁側で針仕事をしており、元には古い桑籠があった。「今もちゃんと繭になったよ」と言うと、祖母は笑った。「蚕が頑張ったね」。子は隣に座り、の朝から今までの帳面をいて見せた。損失、仕事、借入れ、繭の数。頁をめくるたび、で起きたことが静かに並んでいる。
トヨは最の頁を指で押さえた。「まだいところがあるね」。子は「来の分を残してある」と答えた。祖母は頷き、「じゃあ、そこへ何をくかは、まだ誰にも決められない」と言った。子は笑った。「今度はで決めないよ」
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。はしばらく、畑を渡るの音を聞いていた。
翌朝、子は番く起き、桑籠を持って畑へ向かった。のでは佐が畑のを抜き、坂では慎造が枝をえている。誰ものことを忘れてはいないが、今朝やるべき仕事もある。子は柔らかい葉を選んで籠へ入れ、葉の裏を返して枚ずつ確かめた。に透けた緑の向こうに、細い葉脈がはっきり見えた。
蚕へ戻ると、棚からさらさらと音が聞こえた。子はち止まり、その音をしだけく聞いた。の朝、から突然消えた音だった。今はまたここにある。子は桑を置き、帳面のしい頁をいた。
《昭。朝、異常なし。桑は側の畑より採取》
それから鉛を置き、祖母に教わったようにを洗って、蚕にしい葉を配り始めた。
※本作は昭代の信州の養蚕活と農の変化を背景にした創作です。物、、来事はすべて架空です。
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