みかん小説
本棚

"昭和29年、棟梁が祝いの柱を割った理由" 第3話

戸の向こう

松岡佐のは町の側にあった。完成した平で、赤い瓦が夕方のを受けている。佐は郵便局を退いたばかりで、妻きぬと、孫が休みに来るのを楽しみにしていた。源吉が訪ねると、佐は縁側へ通し、庭に植えた若い柿のを自した。源吉は茶を受け取るに、柱を点検させてほしいと切りした。

「今さらどうした。漏りもせんし、戸もちゃんと閉まるぞ」

「建てるに使ったの部に、気になることがあるんです。壊すためじゃありません。見てからしていただきたい」

佐は顔を曇らせた。のと貯をわせ、子どもに頼らず建てただったからだ。庭へ職が入りしてをのぞけば、町のがまた何か言うだろう。源吉は無理には入らず、図面と自分がいた施の覚えを見直した。主な柱は別の仕入れだったが、縁側の部と台所のを支えるは、原田の置からに運ばれている。

きぬが台所からてきた。「側の部、のあとだけ何か匂うんですよ」と言う。佐は「昔のだって湿れば匂う」と笑いばしたが、きぬはのから箪笥の裏にかびがていたことを打ちけた。源吉はの構造とは別に、の湿気や通しを調べる必があると説し、の承を得てさな点検から入った。

広告

は暗く、くったのためが湿っていた。健太郎が提灯を持ち、源吉が探りでの状態を確かめる。目につくのは台所の束がし沈み、材がへすぎる所だった。太い横の部に指が入るほど柔らかい所があり、先端にさな傷をつけると暗いの屑が落ちた。側は塗ってあるため、からは分からない。

「このは危ないのか」

からた源吉に、佐が詰め寄った。源吉は曖昧なをにしなかった。「今すぐ倒れるとは言えません。ただ、このまま何も使ってよいとも言えません。傷んだ所を確かめて必なら支えを入れ、部材を替えます」と答えた。佐はしばらく畳を見つめ、やがて自分で建てたさな神棚に目をやった。

「わしは、このでぬつもりだった」

その言葉に源吉は返事ができなかった。を建てるのは族が暮らす所をつくることで、来がったものに疑いを向けることではない。自分はその当たりを客から取りげようとしている。だが黙って帰れば、疑いを抱えたまま見ないふりをした自分だけが楽になる。源吉は佐に、なくとも傷みがある部のへい荷を置かず、補修まで使い方に注してほしいと頼んだ。

へると、塀のに津久田の自転があった。本は向かいで煙を吸い、こちらを見ている。

源吉がづくと、「よそのまで騒がせるな。おは仕事が欲しくないのか」と静かに言った。源吉は答えず、松岡の縁側と柴田のしい柱をい浮かべた。同じ材かどうかはまだ分からないが、傷み方には見覚えがあった。

帰宅すると、文が印刷所で借りた古い町の図を広げていた。父の施帳にかれた現を、所ごとに赤鉛で囲んでいる。から今にかけて、原田の材置から追加のを受けたはったよりい。文が指で数え、ふときを止めた。

「父さん、この軒のうち、軒でも同じ傷みがあったらどうするの」

源吉は答えるに、仕事鞄の底から、の納品を確認した控えを取りした。そこには自分の跡で、い文字が記してあった。

《検品済み》。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: