"昭和29年、棟梁が祝いの柱を割った理由" 第4話
印のない帳面
源吉は自分の文字を見つめた。の、原田が追加で運んだ梁材と根太を、暑さので受け取っただった。帳面には寸法と本数が並び、最に「検品済み」とある。い返せば、あのは別のの根葺きもなり、源吉は置でをつつ見ただけで伝票へ印を押した。受け取りの数量を確かめたつもりだったが、面には品質まで確かめたように読める。
「これはおの失敗だといてあるんじゃない。だが、そう使われるだろうな」
妻のつねは帳面の端を指で押さえながら言った。源吉が普段なら嫌を損ねる調だったが、今夜は言い返せない。文は検品したの気を父に尋ね、別の帳面からその週にがったを探した。材の側が濡れていれば、の内部の変を見つけにくかったかもしれない。しかし候は言い訳にならない、と源吉はった。
翌、彼は原田の材置へでった。皮を剥がされた丸太が積まれ、鋸屑にはが溜まっている。原田は帳で算盤をはじいていたが、源吉を見ると子を引いた。「松岡さんのへもったそうだな」と言い、誰から聞いたのかはかさなかった。源吉は昨の控えを見せ、同じ印で荷したの仕入れ先を尋ねた。
「の印なら種類ある。よく似ているから職が取り違えたんだろう」
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原田はそう言い、積みの端に押された印を示した。方は「」、もう方は本の線がなった印で、確かに濡れたのでは区別しづらい。だが源吉が見た柱の印には、古い墨のにしい墨がくなっていた。原田は「仕入れの際に押し直すことはある」と言い、そこで話を終えようとした。
源吉はそので、材の良し悪しを調べたいと頼んだ。原田が拒んだため、勝には触れずに帰ろうとすると、置の若い男が荷のから声をかけた。「奥の古い丸太は見ない方がいい」と声で言う。名は好豊、歳。からここで働いていた。源吉が事を聞こうとすると、豊は周りを見てを閉じた。
夕方、津久田の使いが請求を持ってきた。柴田の棟げ止による祝儀代、客への詫び、期の延分が細かく積みげられている。請求額は源吉がか働いても残せないほどだった。源吉はまず忠蔵本に事を説したいと申したが、津久田は「施主への連絡は請負の仕事だ」と拒み、今は現へ入るなと通告した。
それでも源吉は翌朝、柴田へ向かった。忠蔵は先にており、こちらを見るなり障子を閉めた。しばらくして男の嫁の律子が戸をしけ、「父は会いたくないそうです」と告げた。源吉は修理に必な費用と、傷んだ柱の位置を記したを渡した。
「全なものへ替えるまでは、式を再しないでください」と頼むと、律子はを受け取ったまま、母が昨夜もしていないことを話した。
「父は岩崎さんを信用していたから、ほかの職には頼まなかったんです。母はそれが番つらいと言っています」
帰り、源吉ははじめて元が揺れるようにじた。の傷みを見つけるのは職の務めだが、見つけるまでに遅れた責任は自分にある。川向こうのまで来た、原田の置で働く豊が待っていた。誰もいないのを確かめ、荷のからい板切れを差しした。
板の端には、古い「」の印があり、そのに本目の線が描きされていた。豊は震える声で言った。「これ、俺がき直せと言われた印の見本です。の梅から、同じことを何度もしました」
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