"昭和29年、棟梁が祝いの柱を割った理由" 第6話
嫁ぎ先の梁
娘の縁談は、昨に決まっていた。相は町れで米穀を伝う青、男である。穏やかで仕事な男だが、父親をくにくし、母とで業を続けてきた。来には古いを改築して文を迎える予定で、今は増築した部に母親が暮らしている。源吉はその増築を別の棟梁に任せていたため、どの材が使われたか詳しくらなかった。
「父さんの判があるから、うちを壊すってこと?」
文が淡々と聞くと、源吉は首を振った。「まだ悪い材が使われたと決まったわけじゃない。見てからだ」と答えた。娘は鳴りも泣きもしなかったが、縁談が危うくなる能性を理解していた。建築に問題があれば、嫁ぎ先の母親がを抱くのは当然で、先方が責める相は材商より源吉になるだろう。
源吉は翌朝、男のへ向いた。事を聞いた母親の澄は、湯呑みを置き、「結婚の話は度考えさせてください」と言った。その声にはりより恐れがあった。増築の費用は夫の残した蓄えを崩して支払い、には澄自がそこで寝ていた。源吉は何度もをげ、りいの川島に見てもらうための取りを尋ねた。
男は母親をなだめ、「が直せるなら直せばいい。文さんが悪いわけじゃない」と言った。しかし澄は「岩崎さんが分からなかった傷みを、誰が見て分かるんだい」
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と聞いた。源吉には答える資格がなかった。を選ぶ目に自信があるからを続けてきた。その自信を疑うことが、今まで以に怖かった。
川島が町へ来たのはだった。齢は源吉よりし若いが、社寺の修繕も掛け、古材の傷みを見慣れている。まず柴田の問題の柱から切りした片を見せた。川島は指で押してから「これはいところだけ見ていても分からん。芯が傷んでいる」と言った。原因の断定には実物を詳しく見なければならないが、なくともい荷を任せられる状態ではないと致した。
次に松岡と男のを訪ねた。男の増築では、部の材に同じような柔らかい所があったが、柱や梁全体がすぐ危険だとは言えなかった。川島は源吉へ、怖がらせるために「全部危ない」と言ってはならないと釘を刺した。「悪い箇所を悪いと言うのと、分からん箇所を危ないと言い切るのは別だ。そこを違えたら、客は何も信じられなくなる」と語った。
源吉はその言葉を帳へいた。川島はさらに、同じ置のだからといって全部を捨てるのも乱暴だと言った。切なのは本の材がどこで、どんな荷を受けているかを見て判断することだった。源吉はく結論をしたい焦りを抑え、度にをにさせる言い方を慎むと決めた。
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以、材の所が同じであっても、点検で確認された事実と疑いを分けて記すことにした。これまで職の勘だけで通してきたことを、誰にでも追える形へ変えようとする。文はごとに枚のを作り、所、使用材、点検、補修の必性、依頼者の承をけるよう罫線を引いた。
夕方、原田の若い従業員・豊が姿を見せた。帳から消えた伝票を探していたら、原田が別の束を焼こうとしていたという。豊が止めると、原田は「先代から残る使わないだ」と答えたらしい。豊は燃え残った伝票の端だけを持ってきた。そこには元の仕入れ先として、奥で数に閉じた製材所の名が記されていた。
源吉はその名を見て息を呑んだ。閉じた製材所なら、荷したがく積み置かれていた能性がある。だが、廃業のよりもっと気になることがあった。その製材所を最に請け負っていたのは、源吉自の弟・清次だったのである。
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