みかん小説
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"昭和29年、棟梁が祝いの柱を割った理由" 第9話

眠れない診療所

診療所の主、伊藤惣は町の医者だった。戦争に焼けた診察を建て直してまだで、平の朝には診察を待つ々がまで並ぶ。源吉は患者が帰った夕方に訪ね、事を説した。伊藤は診察鞄を片づけながら聞き、「診療を止めることになるか」と問い返した。「今は分からない。だからこそ、まず確認したい」と源吉は答えた。

点検は慎にわれた。根や主な柱に目つ異常はなかったが、薬品棚のにある組の本に、変と柔らかい部分が見つかった。直接きな荷を受ける位置ではないにせよ、い棚がに載っている。源吉はへ仮の支えを入れ、薬品棚の移を勧めた。伊藤は伝いの護婦と緒に棚をかし、夜のに保管所を変えた。

翌朝、町には「診療所が壊れるらしい」という噂が広まった。実際には部の材を取り替えれば診療を続けられる見込みだったが、怖がって来院を控えるがた。伊藤は玄関に説のを貼り、「診察は点検のうえ使用できる。待の角だけ修繕する」といた。それでも噂は収まらず、源吉は自分のらせ方がの活をすることを痛した。

伊藤は源吉を責めなかった。代わりに患者のとして、松岡佐を診察へ招き、「で眠れないが続いている」

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と本から聞いた。佐は仕事を失ったのではなく、して暮らす所を信じられなくなったことがつらいのだと言う。源吉は縁側に座って佐へ謝り、点検結果と補修の段取りを再度ゆっくり話した。説を終えたあと、佐は初めて「いつごろからして茶がめるかな」と笑った。

それでもの問題は残った。源吉は自宅の古い具と、父から受け継いだ良い鉋を売ることを考えた。つねが止めた。「父さんのから具を取りげたら、直せるも直せなくなる」と言う。健太郎は当を減らしてほしいと申したが、源吉は拒み、残った預を使って当面の支払いを続けた。ではつねが茶を買うのをやめ、文も印刷所からの帰りに歩く距を増やした。

ある晩、豊が源吉のへ来た。原田の置を辞めさせられたという。さな呂敷には着替えが入り、借の付だけが元に残っている。「俺が言ったとばれました。親方にはもう迷惑をかけられません」と豊はをげた。源吉は茶をし、働く所が見つかるまで健太郎の伝いをしないかと誘った。豊は材を見てきたがの技術はない。それでもの置き方、濡れた材を避けること、刻んだ印の位置を確かめることはっていた。

「俺があのに線をしたんです」と豊は言った。

源吉が顔をげると、豊は泣きながら続けた。「怖かったから言われるままやりました。柴田さんの柱も、俺が印を直した本かもしれません」。源吉は若い男を慰めようとして言葉を探したが、結局、「なら、どのだったか緒に確かめよう」と言うしかなかった。

翌、柴田の現からが来た。根が来かけたで、取り替えたはずの柱と似た傷みが別の梁にも見つかったという。津久田は「古い傷跡で問題ない」と説したが、施主の忠蔵は今回はそれを信じなかった。柱を斧で削ったあのをいしたのだ。忠蔵は使いを通じて、源吉へ初めて頼み事を寄こした。

「もう度、うちのを見てくれんか」

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