みかん小説
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"昭和29年、棟梁が祝いの柱を割った理由" 第12話

弟子のる

正吉が別の事へ移る朝、源吉はいつも通り具を入れしていた。弟子入りしてになる若者は、父に似た器用な気質で、刻みを違えるたび源吉に叱られた。今朝は挨拶をしても源吉が顔をげないため、正吉は困ったようにち尽くした。やがて源吉が鉋を置き、「向こうでも怪をするな」と言うと、若者はようやくをげた。

「親方を嫌になったんじゃないです。うちの母が、今のを待ってるんです」

「分かっとる。だからけと言った」

源吉は正吉へ、先代から使っていたさな墨壺を渡した。まだ分使える具だった。正吉は受け取るのをためらったが、源吉は「しい現へ持っていけ。具だけはからすな」と押しつけた。若者がをたあと、つねは夫の隣へち、「今は仕事を失ったじゃない。教えた子がになるでもある」と言った。源吉は頷けなかったが、その言葉を忘れなかった。

柴田と松岡では、修繕が始まった。今度は川島が点検にち会い、源吉が加し、健太郎と豊が材の運びしを伝った。材は別の仕入れ先で選び、切りの状態を施主にも見てもらった。構造に関わる箇所では分な仮支えを組み、度にきな荷をさず作業した。それでも程は遅く、源吉の計を圧迫した。

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文は印刷所で働いたあと、夜に領収をき直した。ごとに入りしたを記録するためで、夫になる男も々算盤を持って伝った。男は米穀の仕事を終えてから来るので、帰るころにはいつも夜遅い。源吉は娘の縁談にまで迷惑をかけているとい、何度も礼を言った。男は「文さんにお願いされましたから」とだけ答えた。

しかしある夜、男の母・澄が訪ねてきた。息子が毎晩岩崎へ通い、の帳面よりの修理記録を気にしていると配している。「今の話が片づくまで、結婚の準備をめる気になれません」と澄は言った。文は黙って聞き、やがて「それなら縁談の返事も、落ち着くまで待っていただいてかまいません」と答えた。源吉は娘の顔を見た。彼女は泣いてはいなかった。

「文、俺のせいでおが……」

「父さんの仕事を伝うと決めたのは私よ。男さんにだって、自分で考えてもらう」

澄が帰ると、文は机へ戻り、また数字をき始めた。父は娘を守るために仕事を始めたとっていたが、娘はもう守られるだけの子どもではない。源吉はそのことを嬉しくいながら、同に胸が痛んだ。仕事の誇りを守るために、娘の暮らしまで狭くしているのではないかとう。

翌、津久田からしい条件が届いた。残りの事を源吉へ戻す代わりに、材に問題があったことをで話さず、過の検品記録は訂正しないという約束を求めてきたのである。

応じれば当が入り、弟子の仕事も戻り、文の縁談へのもいくらか減るかもしれない。源吉は条件をいたを読み終え、机の隅へ伏せた。

その晩、つねは何も聞かなかった。炊事を終えたあと、夫へ古い財布を差しした。には結婚したにもらったさな簪が入っていた。つねはそれを売ればししになると言ったが、源吉は押し戻した。「がりないなら俺が別の仕事を探す。おのいまで売る必はない」と答える。つねは静かに笑った。「じゃあ、いを守るためにも、嘘に判を押さないでおくれ」

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