"昭和29年、棟梁が祝いの柱を割った理由" 第14話
の夜の支え
の末、町にいが続いた。柴田の根は修繕のため部がけられ、除けの覆いを掛けたままになっている。健太郎は毎朝現へ寄り、仮支えの具とが入る所を確かめた。源吉は別のの補修に追われていたが、夜になるとやはり柴田が気にかかった。築のを途で止めた責任が、背へく載っているようだった。
ある夜、忠蔵の男が源吉のへ駆け込んできた。「覆いがれた。が階へ吹き込んでいる」と言う。源吉は着物のに蓑を着てびした。健太郎と豊も途で流し、暗い現へ向かった。でめくれた覆いを無理に根へがって戻すのは危ないため、からかせる範囲を押さえ、まずがたまらないよう簡単な樋をつくった。
翌朝、がまってから川島も来た。梁の交換が終わるまで、根の部は荷を掛けずに保たなければならない。濡れたところのを乾かし、必な補を確かめながらめる。忠蔵は庭のを見つめ、「最初の棟のに、全部終わっていたはずなのにな」と言った。源吉は返す言葉を探したが、「あのまま終わらせなくてよかったと、いつか言ってもらえる仕事をします」としか言えなかった。
忠蔵は源吉をへげ、古い帳面を見せた。呉を継いだ、先代が客の代をく待ち続けた記録である。
広告
戦争と戦の混乱で払えない客がく、は何度も傾きかけたという。「の暮らしを相にする仕事は、払えるまで待つこともある。だが待つと言いながら、相に黙ってを取ったら終わりだ」と忠蔵は言った。源吉はそれが建築の話でもあると分かった。
午にはががったが、今度は源吉のでつねが倒れた。が続き、しばらく寝込んでいたのを、族へ隠していていたらしい。文が医師を呼ぶと、過労と栄養のを配され、休ませるよう言われた。源吉は妻の布団の横に座り、仕事にかまけて様子を見なかった自分を責めた。つねはを伸ばし、「私が黙って働いたのも悪いんです」と言う。
源吉はしばらくに残ると決め、健太郎に現の段取りを任せた。しかし健太郎はへ戻るなり「親方がいないから直せないとわれたら、俺も悔しい」と言った。源吉は初めて、番弟子の仕事をつ丸ごと任せることにした。松岡の台の補修である。川島が確認に来る程も伝え、現の判断を健太郎へ委ねる。
、健太郎は補修を終えて帰ってきた。には、松岡のきぬが持たせた漬物の包みがある。「奥さんが、これで飯をべなさいと」と笑った。源吉は作業の様子をつずつ聞いた。順の違いはあったが、必な箇所を直し、点検の記録も残している。
広告
源吉は初めて、親方がいなくても仕事が続くことをべた。
補修に使った板の端を持ち帰ると、源吉はでみを測り、健太郎が選んだ材の触りを確かめた。自分がから指示しなくても、弟子は客のに必な仕事を見つけている。配だからと現へ何度も顔をす癖を、これからはし直さねばならないとった。源吉は板の端へ付をき、失敗した仕事の見本とは別の箱にしまった。うまく直せた仕事も残しておくためだった。
その夜、つねはしだけ起きがり、漬物で飯をべた。文は母の膳を片づけながら、「父さん、健太郎さんに任せられるなら、これからも頼ればいいよ」と言った。源吉は答えなかったが、翌朝の仕事帳へ、健太郎の名でしい現をいた。自分ですべてを守るつもりだった男が、ようやく誰かへ仕事を渡し始めていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 58 -
完結第20話
桑の音が消えた村
昭和三十五年、信州の養蚕村で、蚕が一夜にして全滅する。唯一無事だったのは、昔ながらの方法にこだわり、村人から笑われていた七十八歳のトヨの蚕室だった。 疑いを向けられた祖母だったが、原因は共同散布された新しい薬剤にあった。しかも農事組合を率いる息子・慎造は、事前に危険性を知らされていた。時代|歴史|昭和2.5万字5 78 -
完結第20話
金色の髪を隠して嫁いだ私と、無口な写真師の約束
昭和四十二年。英国人の父から受け継いだ金色の髪を「家の恥」とされ、黒く染め続けてきた月子は、写真師・湊のもとへ嫁がされる。 雨で黒い煤が流れ、秘密が露わになっても、湊は彼女を拒まなかった。月子は写真館で働きながら、母の手紙や父の存在、叔母が隠してきた過去と向き合っていく。 見世物のように利用しようとする町の男にも屈せず、「何を見せるかは自分で決める」と声を上げる月子。隠された少女が、自分の姿と人生を取り戻す物語。時代|歴史|昭和2.9万字5 66 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 227