"昭和29年、棟梁が祝いの柱を割った理由" 第19話
遅れてきた棟げ
のれた朝、柴田ではさな祝いがかれた。のような勢の客は呼ばず、族と事に関わった職だけが集まった。しい根には瓦が然と並び、階の窓から見える町の景も、ようやく落ち着いて見えた。忠蔵は仮の神棚へ酒と塩を供え、源吉へ礼した。源吉はれ着ではなく、洗ったばかりの仕事着を着ていた。
「今を棟げと呼ぶのは、おかしいかもしれんな」
忠蔵が言うと、川島は笑った。「根が載ってからでも、の無事を願うのはおかしくありません」。皆がさく頷いた。律子はすでに子を産んでいた。男の子で、名を信という。赤ん坊は母の腕ので眠り、の声にしだけ顔をしかめた。忠蔵はその寝顔を見るたび、しい柱を見げる。
源吉は建物の完成を誇らしくいながらも、初めの棟式の朝を忘れていなかった。傷みの兆しにく気づき、材を調べていれば、忠蔵を何かも待たせずに済んだ。自分が斧を振るったことは違いではなかったが、それだけでよい棟梁だったとは言えない。祝いの席で「おが救った」と言われたら、きっと居が悪かっただろう。
幸い、誰もそんなことは言わなかった。健太郎が作業に見つけた建具の癖を話し、文が届けた見積りの控えを忠蔵の妻ふさが丁寧にしまう。
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豊は屑を掃き集め、正吉もしい仕事の休みをもらって顔をした。久しぶりに集まった職たちは、互いの鉋の刃の減り具を見て笑った。仕事へ戻ってきたような賑わいがあった。
事の途、忠蔵が源吉へさな桐箱を渡した。には、しい墨壺の糸が入っていた。先代がの飾り棚に置いていた古い具を、使えるように直してもらったのだという。「まだうちの仕事が終わったわけじゃないが、これからは最初に真っすぐな線を引いてくれ」と忠蔵は言った。源吉はに取り、細い糸を指で引いた。弾くと澄んだ音がした。
午、忠蔵は源吉を階へ招いた。子どもの寝る部には、さなの揺り籠が置かれている。律子はそのそばで縫い物をしていた。しいの匂いに混じって、炊事の湯気と赤ん坊のの匂いがある。源吉はのが本当にになるのは、がそこで毎の仕事を始めてからだとじた。
「岩崎さん、つお願いしてもいいですか」
律子がを止めた。源吉が頷くと、彼女は柱の脇にさな印を残してほしいと言った。斧の傷ではなく、を建て直したと職の名だけが分かる印を、普段は見えない所へ付けておきたいという。「信がきくなった、このは度止まって、それでもちゃんと直して建ったと話したいんです」
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と言った。源吉はし迷ったあと、梁の見えにくい側へさく号と自分たちの名を記した。
その夜、源吉はへ帰り、つねに祝いの様子を話した。妻は元気を取り戻していたが、く寝込んだため無理はできない。で茶をみながら、源吉は「今、ようやくつ終わった」と言った。つねは「終わったんじゃなくて、み始めたんでしょう」と答えた。源吉はその言い方が気に入り、何度もさく頷いた。
片づけの、忠蔵はの隅から古い祝い餅の箱を持ってきた。の付が墨でかれたままで、箱の角にはに濡れた跡が残っていた。捨てようとっても捨てられなかったという。源吉が「しい箱へ替えましょうか」と言うと、忠蔵は首を振った。「この箱でもう度、餅を配れたからいい」。源吉は箱を持ちげ、乾いたの軽さをじた。
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