みかん小説
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"正月に八人で来る嫁へ、家は売りました" 第6話

腰の激痛と、放すべき荷

形科の診察で、い湿布の束を抱えながら、私は老医師から厳しく言い渡された。 「川さん、急性腰痛症、いわゆる度のぎっくり腰です。レントゲンを見る限り、腰椎の椎板がすり減っていますよ。い布団のげろしや、のち仕事は絶対に禁止です。今度無理をしたら、子活になりますよ」

うようにしてタクシーで帰宅したあのから、丸ヶ、私の腰は鉛のようにく痛み続けた。 朝、布団から起きがるだけで分くかかり、階段のすりを両で握りしめなければ階へがることもできない。 庭の柿のから落ちた無数の落ち葉は、掃くことすらできず、枯れの庭を侘しく埋め尽くしていた。

の半ば、そんな私の元へ、本の杖をついて見いに訪れてくれたがいた。 かつてクリーニングで以共に働いた、歳の元同僚・岡冴恵(さえ)さん(歳)だった。 冴恵さんもに夫をくしており、その翌、郊の軒を売却して駅のバリアフリーマンションへで移りんでいた。

「頼子さん、丈夫かい。……それにしても、暮らしで部がつもあると、を維持するだけでが終わっちまうでしょう」 湿布の匂いが漂うこたつで、冴恵さんは部を見回しながら、静かにみかんの皮を剥いた。

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「本当にそうね……。階の部なんて、正にあの子たちが泊まりに来る以、に度もがらないわ」

「頼子さん、よくお聞き。での丈にわないきなにみ続けるのはね、にんでいるんじゃないのよ。『にまわせてもらっている』のと同じなの。がの都にわせて、掃除や修繕に追われて、命をすり減らしているのよ。私もそうだったから、痛いほど分かるの」 冴恵さんの言葉は、私の胸の奥くに突き刺さった。

の初旬、腰の痛みがし引いた頃、私はとバスを乗り継いで、駅にある冴恵さんのマンションを訪ねた。 改札をて、平坦なペデストリアンデッキを歩いてわずか分。 階には営業のコンビニがあり、目のの横断歩を渡れば型スーパーとドラッグストア。駅の反対側には総病院がある。 オートロックを抜けてエレベーターでがった階の角部は、陽が燦々とり注ぐるいリビングと、寝がつ。 ベランダからはくの並みが見渡せ、掃除をかければ分ですべての部が綺麗になる。

「庭がないのは寂しくないの?」と尋ねる私に、冴恵さんはベランダのさな鉢植えを指差して笑った。 「これで分よ。むしりも、樋の掃除も、かきも、もう誰もしなくていいんだから。

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空いたでね、私、駅の公民館で彩画教に通い始めたのよ。……み替えるなら、自分ので歩ける元気なうちよ。寝たきりになってからじゃ、分の荷物の片付けなんて絶対にできないんだから」

帰りの線バスに揺られながら、私は窓を流れる景を見つめ、自分のこれからの暮らしをつひとつ数え直した。 郊のから駅までは、に本しかないバスで分。がれば留所で震えながら待ち、い買い物袋をげて急な坂をらなければならない。 毎に届く固定資産税の納税通は、と建物をわせて万円を超えている。 昨のに見積もりに来てもらった所の務は、根と壁の塗り替えだけで最でも百万円はかかると言っていた。 台所の湯器も、お呂のバランス釜も、いつ壊れてもおかしくない数が経っている。

柱には、学に入学したばかりの直の背丈を、夫が鉛で刻んだ線が今も残っている。 台所のクッションフロアには、私がち続けた所だけ、丸く表面がすり減っている。 どこを見ても、夫と私の汗と涙と、族のいが染み付いている。 だが――はき物だ。 夫と私と、幼かった直のが暮らすために買ったあのは、その役目をとうの昔に終えていたのだ。

の連休がけた朝、私は仏壇のに座り、夫の写真に向かって静かにをわせた。 「お父さん。もう誰かのために、でこのきなを抱え続けるのはやめにするわね。……あなたと暮らしたいは、全部私ののに連れていくから」 写真ののさんは、いつもの穏やかな笑顔で、うん、とうなずいてくれたような気がした。

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