"正月に八人で来る嫁へ、家は売りました" 第8話
侵入者の宴と、折れた枝
「使わせてもらったって……ここは私のよ! あなた、どうやって入ったの!?」 私の気に満ちた問いに、彩佳さんは肩をすくめ、で笑った。
『どうやってって、直さんの鍵を借りたに決まってるじゃないですか。直さん、今は会社のゴルフコンペで来られないから、鍵だけ預かってきたんですよ。留守のに親戚が泊まってあげたんだから、防犯になってむしろ謝してほしいくらいですよー』
直はの頃から、このの鍵を本持っていた。社会になり、をて結婚したも、返すように求めたことはなかった。 まさかその鍵が、母親の留守を狙った法侵入の引きに使われるなど、にもっていなかった。
妹の美さんが、青ざめた顔でおずおずとづいてきた。 「川さん、本当に申し訳ありません……! 姉が川さんから『留守の自由に使っていい』と許をもらっていると言っていたので……」 「私、そんな許、度もしていません」 私がたく言い放つと、美さんは姉を睨みつけた。 だが、彩佳さんはトングで焦げた肉をひっくり返しながら、平然と言い放ったのだ。
『もう、お母さん、そんな堅いこと言わないでくださいよー! どうせ将来は、直さんと私たちが相続してむなんですから! 今から慣れといた方がいいでしょ? お母さんでこんな広いにんでるなんて、宝の持ち腐れなんですからね!』
広告
――将来、私たちが相続してむ。 その傲な言が、バーベキューの油煙とともに、私の顔に叩きつけられた。 鳴り散らしたい衝が全を駆け巡った。 しかし、芝のでは、何もらぬさな湊君と杏ちゃんが、無邪気にボールを追って笑っていた。 鍵を渡したのは、でもない私の実の息子だ。 子供たちのでが警察汰の仕を演じる無残さを像し、私は奥歯をギリギリと噛み締めて踏みとどまった。
台所へ戻り、散乱したビールの空き缶をゴミ袋にまとめていると、歳になった孫のリクが、申し訳なさそうに音を忍ばせて入ってきた。 「ばあちゃん……ごめんね。お母さんが、ばあちゃんはいいって言ってるって嘘ついたんだ……」 「リクが謝ることはないのよ。お昼ご飯はちゃんとべたの?」 リクはさく頷き、私がまとめたいゴミ袋を、無言でのゴミステーションまで運んでくれた。 この、こので私にまともな謝罪の言葉をにしたのは、歳の孫と、の妹夫婦だけだった。
夕方過ぎ、がようやく撤収の準備を始めた頃、庭の奥から健さんの鋭い声が聞こえてきた。 『おい、彩佳さん。例の件、頼むよ。うちだってこれ以待てないんだからな』 『分かってるってば! こんなとこで声さないでよ!』 彩佳さんが健さんの腕を払いのけるようにして、そそくさとへ乗り込む。
広告
例の件――その気な響きに胸騒ぎを覚えたが、問い質す気力すら残っていなかった。
「彩佳さん、その鍵、返してちょうだい」 玄関先でを差しした私に対し、彩佳さんは鍵を差し指に引っ掛けてクルクルと回しながら、笑いを浮かべた。 『えー? これ直さんの鍵なんで、直さんに返しときまーすw』 そう言い残し、ミニバンは坂を猛スピードでっていった。
がったの庭にち、私は息を呑んだ。 芝のには、炭の黒い油染みが焼け焦げた痕となって残り、散らかったの燃え殻が散乱していた。 そして――何よりも私の胸を引き裂いたのは、庭の隅の柿のだった。 子供がよじ登って乱暴に揺すったのだろう。 夫が塩にかけて育て、毎甘い実をつけていた太い枝の本が、根本から無残に裂け、皮枚で無残に垂れがっていたのだ。
その夜、京の息子に話をかけた。 『留守のに、彩佳さんが勝に美さんたちを泊めてバーベキューをしていたわよ。柿のの枝まで折れて……』 しかし、受話器の向こうの直から返ってきたのは、欠伸混じりの淡な声だった。 『あー、聞いた聞いた。母さん留守だったんだから、別に減るもんじゃないし、いいじゃん。族なんだからさ。彩佳なりの気遣いだよ』
気遣い。 勝にのにがり込み、料をい散らかし、いのをへし折ることが「気遣い」
だというのか。 『それよりさ、鍵は今度持ってくから。正も彩佳が楽しみにしてるんだから、変なこと言って揉めないでくれよなー』
ガチャリと話が切れた。 まだだというのに、息子ののでは、次の正も当然のようにこので無料の宴会がかれることになっていた。 私はその夜、仏の気を消し、かりのにく浮かびがる折れた柿のの枝を、で見つめ続けた。 涙はなかった。 ただ、守り続けてきたがに対する未練の最の滴が、たく凍りついて消えったのをじていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
七〇二号室の秘密
入籍12日目、初めて義実家を訪れた遥香は、豪華なすき焼きの陰で、義姉・真帆が水をかけた冷や飯だけを食べさせられている姿を目撃する。 真帆から託された住所を訪ねると、そこには夫・直樹がいた。彼は義姉の避難部屋を用意しながら、兄と母を恐れて救出を先延ばしにしていたのだ。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|真実|裡の顔|修羅場2.0万字5 16 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 122 -
完結第13話
三年前に署名させた離婚届
「息子は金髪美女と再婚するのよ」――玄関先で勝ち誇る義母が突きつけてきたのは、一方的な離婚届だった。大手商社勤務の夫に裏切られ、三ヶ月の海外出張中にも不貞の影に苦しめられていた妻のナナ。だが、見下され続けた妻は取り乱すどころか、冷ややかに微笑んだ。義母も夫も知らなかったのだ。三年前に署名させた一枚の用紙と、水面下で集められた決定的な証拠の存在を。鳴り止まない何十件もの着信を前に、彼女は静かに告げる。「離婚届なら、とっくに提出済みですよ」嫁姑|夫婦2.0万字5 148 -
完結第18話
父の一周忌、兄が追い出そうとした母子の契約書
父の一周忌を終えた翌朝、45歳の西村綾子は、空き家のはずの実家で見知らぬ母娘に出会う。兄の正人は「不法占拠だ」と警察を呼ぶが、12歳の少女が差し出したのは、亡き父の署名が入った三年間の賃貸借契約書だった。さらに兄は、綾子に無断で実家の売却を進めていたことが判明する。父はなぜ、家族にも知らせず母娘を住まわせたのか。そして、兄がそこまでして家を売ろうとする本当の理由とは。父の遺した一枚の契約書から、家族が隠してきた秘密が次々と明らかになっていく――。怒り|真実|絶縁|親子関係|修羅場2.2万字5 0 -
完結第10話
出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜
札幌へ出張中の宮崎亮平に、深夜十一時、八歳の娘・美和から一本の電話がかかってきた。 「パパ、ママと物置で寝かされてるの。寒いよ……」 半年前から同居を始めた母の貴子は、妻の早苗と娘を冷遇していた。しかし亮平は、妻の訴えを「母さんに悪気はない」と聞き流し続けていた。 翌朝、急いで帰宅した亮平が見つけたのは、外から扉を固定された物置で震える妻と娘。そして早苗が隠し持っていた一枚の契約書だった。 そこには、妻の不動産持分を妹へ無償譲渡するという信じがたい内容が記されていた。 家族を守るはずの家で、母と妹はいったい何を企んでいたのか――。祖父母と孫|真実|裡の顔|真相|親子関係1.5万字5 0 -
完結第18話
出産の日に捨てられた私の逆転
身分を隠し、愛する夫との平凡な幸せを選んだスー・ジーイェン。 しかし出産を目前にした日、夫のティンフォンは別の妊婦に付き添い、破水した妻を病院で見捨てた。 「俺が戻るまで勝手に産むな」 助けを求めても冷たく突き放され、絶望の中で彼女が押したのは、七年前に父から渡された銀色のペンダントだった。 その五分後、病院の空気が一変する。 身寄りのない女だと見下されていた彼女には、誰も知らない秘密があった。 夫の裏切りから始まった悲劇は、やがて病院全体を揺るがす巨大な不正へとつながっていく――。夫婦|第二の人生|親子関係|修羅場|不倫2.1万字5 0 -
完結第20話
昼寝ばかりの嫁が、潰れかけの餅屋を救うまで
借金四千三百万円を抱え、閉店寸前の老舗餅店。家族が寝る間も惜しんで働く中、嫁の美穂だけは店の隅で昼寝を続けていた。 ところが大口注文で二百万円を売り上げても、残ったのは六十万円の赤字。美穂は帳簿を分析し、赤字商品や無料配達、掛け売りを次々と整理していく。因果応報|人生逆転|嫁姑|親子関係|修羅場2.6万字5 34 -
完結第13話
母の遺品と千万円の組紐
「これをどこで手に入れたんですか?」――家賃三ヶ月を滞納し、退去通告を突きつけられた三十九歳のシングルファーザー・大輔。六歳の娘を抱えて困窮する彼は、七十歳で逝った母の遺品である反物と組紐を売ろうとするが、店員に数百円のゴミ扱いされる。だが路地裏の老舗呉服店へ持ち込んだ瞬間、女主人は青ざめ指を震わせた。生前「古臭い」と見下していた母の手仕事。仏壇の奥から見つかった桐箱と、三十年分の手帳に記された数千万円に及ぶ謎の記録。母は何者だったのか? 箱の底に残された「困った時の支えにしなさい」というメモの真意とは――。親子関係|金銭問題1.9万字5 146