"正月に八人で来る嫁へ、家は売りました" 第11話
回らない鍵と見らぬ表札
令、元の正午過ぎ。 え切ったのが吹き抜ける郊の宅、見通しの良いなだらかな坂を、台のミニバンがエンジン音を響かせて登ってきた。 先するのは直の運転するシルバーのワンボックス、そのろには妹の夫・健さんがハンドルを握る黒のワゴン。 旅の疲労を吹きばすように、助席から勢いよくびしてきた彩佳さんは、きく両を伸ばして呼吸をした。
「ついたー! あー、疲れた! ほら、みんな荷物ろして! お母さん、もうお部めてご馳並べて待ってるはずだから!」 彩佳さんの声にわせ、部座席から子供たちが先にとびしてきた。 「ばあちゃんちだ!」「お腹すいたー!」「お寿司べる!」 歳のリク、学の真央、そして妹の湊君と杏ちゃんのが、音をバタバタと響かせて玄関へと駆け寄る。 たちもトランクをけ、泊分の着替えが詰まった型ボストンバッグつ、酒の段ボール箱、子供たちのゲームの入った袋を次々と面へろした。
しかし、扉をくぐり、玄関ポーチの階段をがったところで、先を歩いていた彩佳さんがピタリとを止めた。 「……あれ?」 カーポートに見慣れないい軽自が然とめられている。 そして、玄関ドアの横に掲げられた御の表札。
広告
そこには、見慣れた『川』の文字ではなく、端正な彫り文字で『塚』と刻まれていたのだ。
「ちょっと、直さん! これ何よ? お母さん、表札なんか変えたの? 塚って誰よ?」 追いついてきた直が、怪訝そうに首を傾げた。 「え? 塚……? いや、らねえよ。母さん、防犯のために偽名でも掲げたのか? いいからく入れよ、寒いだろ」 直はポケットから、の頃から持ち歩いている季の入った鍵を取りし、鍵穴へと差し込んだ。
カチッ。 鍵は、半分ほど入ったところでい属の抵抗に遭い、それ以奥へまなかった。 「……あれ? 入らねえぞ」 「何やってんのよ、くしてよ!」 ガチャガチャ、ガチャガチャ。 直が力任せに鍵を押し込み、無理やり回そうとするが、ビクともかない。 属が擦れうな音が、寒のに響き渡る。 の気の、直の額からジワリと脂汗が滲みた。
「おい、かねえぞ……鍵穴が……違う……?」 「はあ!? お母さん、鍵勝に替えたんじゃないの!? 信じらんない、々嫌がらせ!?」 彩佳さんが苛ちを爆発させ、ドアノブを乱暴にガタガタと揺らした。
そのだった。 カチャリ、と内側から鍵のくな音が響いた。 ゆっくりときにいたドアの隙から現れたのは、仕ての良いグレーのセーターを着た、代半ばの見らぬ男性だった。
広告
男性の元には、父親のズボンの裾をぎゅっと握りしめた歳の女の子が、怯えたようにこちらを見げている。
「……あの、どちら様でしょうか? 何かご用ですか?」 玄関に陣取っていたが、瞬にしてのように凍りついた。 直のから、鍵がカランと音をててポーチのタイルへ滑り落ちた。
「え……? いや……ここ、俺の実なんですけど……」 直の掠れた声に、男性――塚さんは、困惑したように眉を寄せた。 「実……? いえ、こちらは先週、所者の川様から正式に買い取り、私ども塚が入居した自宅ですが」
「は……? 買い取り……? ちょっと待ってよ!」 彩佳さんが鬼のような形相でに割り込んだ。 「ここ、主の母のですよ!? 川頼子のです! 勝に何言ってるんですか!」
「ですから」塚さんは落ち着いた、だが毅然とした声で答えた。 「川頼子様より、に所権移転登記を完し、残決済を経て引き渡しを受けました。入居に防犯のため鍵のシリンダーも交換しております。……何か違いでしょうか?」
のに、真の氷が浴びせかけられた。 玄関の奥からは、居の温かなの匂いと、塚さんの奥様がの子をあやす声が微かに漏れ聞こえてくる。 そこにあったのは、自分たちの帰る所ではなく、の庭の、温かなの常だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
七〇二号室の秘密
入籍12日目、初めて義実家を訪れた遥香は、豪華なすき焼きの陰で、義姉・真帆が水をかけた冷や飯だけを食べさせられている姿を目撃する。 真帆から託された住所を訪ねると、そこには夫・直樹がいた。彼は義姉の避難部屋を用意しながら、兄と母を恐れて救出を先延ばしにしていたのだ。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|真実|裡の顔|修羅場2.0万字5 16 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 122 -
完結第13話
三年前に署名させた離婚届
「息子は金髪美女と再婚するのよ」――玄関先で勝ち誇る義母が突きつけてきたのは、一方的な離婚届だった。大手商社勤務の夫に裏切られ、三ヶ月の海外出張中にも不貞の影に苦しめられていた妻のナナ。だが、見下され続けた妻は取り乱すどころか、冷ややかに微笑んだ。義母も夫も知らなかったのだ。三年前に署名させた一枚の用紙と、水面下で集められた決定的な証拠の存在を。鳴り止まない何十件もの着信を前に、彼女は静かに告げる。「離婚届なら、とっくに提出済みですよ」嫁姑|夫婦2.0万字5 148 -
完結第18話
父の一周忌、兄が追い出そうとした母子の契約書
父の一周忌を終えた翌朝、45歳の西村綾子は、空き家のはずの実家で見知らぬ母娘に出会う。兄の正人は「不法占拠だ」と警察を呼ぶが、12歳の少女が差し出したのは、亡き父の署名が入った三年間の賃貸借契約書だった。さらに兄は、綾子に無断で実家の売却を進めていたことが判明する。父はなぜ、家族にも知らせず母娘を住まわせたのか。そして、兄がそこまでして家を売ろうとする本当の理由とは。父の遺した一枚の契約書から、家族が隠してきた秘密が次々と明らかになっていく――。怒り|真実|絶縁|親子関係|修羅場2.2万字5 0 -
完結第10話
出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜
札幌へ出張中の宮崎亮平に、深夜十一時、八歳の娘・美和から一本の電話がかかってきた。 「パパ、ママと物置で寝かされてるの。寒いよ……」 半年前から同居を始めた母の貴子は、妻の早苗と娘を冷遇していた。しかし亮平は、妻の訴えを「母さんに悪気はない」と聞き流し続けていた。 翌朝、急いで帰宅した亮平が見つけたのは、外から扉を固定された物置で震える妻と娘。そして早苗が隠し持っていた一枚の契約書だった。 そこには、妻の不動産持分を妹へ無償譲渡するという信じがたい内容が記されていた。 家族を守るはずの家で、母と妹はいったい何を企んでいたのか――。祖父母と孫|真実|裡の顔|真相|親子関係1.5万字5 0 -
完結第18話
出産の日に捨てられた私の逆転
身分を隠し、愛する夫との平凡な幸せを選んだスー・ジーイェン。 しかし出産を目前にした日、夫のティンフォンは別の妊婦に付き添い、破水した妻を病院で見捨てた。 「俺が戻るまで勝手に産むな」 助けを求めても冷たく突き放され、絶望の中で彼女が押したのは、七年前に父から渡された銀色のペンダントだった。 その五分後、病院の空気が一変する。 身寄りのない女だと見下されていた彼女には、誰も知らない秘密があった。 夫の裏切りから始まった悲劇は、やがて病院全体を揺るがす巨大な不正へとつながっていく――。夫婦|第二の人生|親子関係|修羅場|不倫2.1万字5 0 -
完結第20話
昼寝ばかりの嫁が、潰れかけの餅屋を救うまで
借金四千三百万円を抱え、閉店寸前の老舗餅店。家族が寝る間も惜しんで働く中、嫁の美穂だけは店の隅で昼寝を続けていた。 ところが大口注文で二百万円を売り上げても、残ったのは六十万円の赤字。美穂は帳簿を分析し、赤字商品や無料配達、掛け売りを次々と整理していく。因果応報|人生逆転|嫁姑|親子関係|修羅場2.6万字5 34 -
完結第13話
母の遺品と千万円の組紐
「これをどこで手に入れたんですか?」――家賃三ヶ月を滞納し、退去通告を突きつけられた三十九歳のシングルファーザー・大輔。六歳の娘を抱えて困窮する彼は、七十歳で逝った母の遺品である反物と組紐を売ろうとするが、店員に数百円のゴミ扱いされる。だが路地裏の老舗呉服店へ持ち込んだ瞬間、女主人は青ざめ指を震わせた。生前「古臭い」と見下していた母の手仕事。仏壇の奥から見つかった桐箱と、三十年分の手帳に記された数千万円に及ぶ謎の記録。母は何者だったのか? 箱の底に残された「困った時の支えにしなさい」というメモの真意とは――。親子関係|金銭問題1.9万字5 146