"大正11年、幕開けの土下座から始まった女優の再起" 第7話
町のに台を探す
町ので借りられる所は、いのほかなかった。寄所は祭りの相談に使われ、学の講堂は部の興に貸せないと言われた。倉庫はが悪く、がれば観客が入りきらない。おとは何度も港を歩き、志乃は慎吾の紹介で商会の世話役を訪ねたが、どこでも最に聞かれたのは同じことだった。「またがないと言われたら、誰が責任を取るんですか」
志乃は初に座したことをいし、用していたを見せた。入料の扱い、所を借りるために払える額、売れなかったの片づけのまでいた簡単な計画だった。きなことは約束しない。満員になるとも、次のに儲かるともいていない。ただ、受け取ったをそののうちに帳面へ記し、座と貸主の双方が確かめる、と決めた。世話役は読み終えると「ここまでく役者さんは珍しい」と言ったが、所は貸せないと答えた。
き詰まった志乃は、お鶴から港れの網元が持つ乾物倉を教わった。らく使われていないが、壁がく、はしのげる。持ち主の網元・坂巻は柄な男で、志乃の話を聞くとすぐに言った。「倉を壊されたら困る」。がを点検し、朽ちた板をしてしい板で補修する案をした。惣太は客がつまずかないよう通に縄を張ると説した。
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志乃は入へ掲げる避難の案内まで示した。
坂巻は座をじろじろ見回してから言った。「回だけだぞ。昼のるいに終えろ。は使うな」。灯の設備がない倉で夜の興は難しいが、午の公演なら窓からが入る。志乃はくをげた。坂巻はを振り、「礼はいい。終わったらきれいに掃除しろ」と言った。最にさな声で付け加えた。「うちの内が、初の切符を枚買っていた」
会が決まると、やることがのようにまれた。は荷で板を運び、おは客が座るためのむしろを借り集めた。惣太は伴奏に使う太鼓の皮を張り直し、栄助は台の袖に掛ける幕を縫った。稽古では志乃の声が裏返り、おに叱られた。「客に聞かせるつもりなら、柱のろまで届く声をしな」。志乃は何度も言い直した。台を覚えても、台の央へつとがかなかった。
印刷所で刷ったしい番付は、慎吾が先に貼った。志乃は最初の切符を、自分ので買おうとするのを止められた。「演者が客になってどうする」と慎吾は笑った。だが最初に切符を買ったのは、福栄座で返を求めていた乾物商の女主だった。彼女は志乃に言った。「私はあのの切符のことを忘れたわけじゃないよ。でも、今度はあんたが台へつと聞いたから、自分の目で見にく」
。志乃はその言葉を、励ましだけとは受け取らなかった。客はもう度、彼らを試しに来るのだ。
空の倉にっていると、志乃は台がただの板ではないと分かった。を入れるなら入がいる。暗くなるに終えるがいる。子ども連れの客が座りやすい所も、の悪いがつまずかない通もいる。福栄座では誰かが当たりのようにえていたものを、今度は自分たちで考えなければならなかった。は「芝居をする所を作るのが具方だとっていたが、客が無事に帰るまでが仕事だな」と言った。志乃はその言葉をの端へいた。気の利いた台より先に、確かめるべきことがある。
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