みかん小説
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"大正11年、幕開けの土下座から始まった女優の再起" 第13話

志乃の

沢から戻ると、座ではしい台本の読みわせが始まっていた。『浜の灯』は従来の男主公の帰還譚から、浜で働く女たちの暮らしを描く芝居へ変わりつつあった。おは最初、女が勘定をつけたり取引先へ文句を言ったりする面に首をかしげた。「客は理屈を聞きたいわけじゃないよ」。志乃は答えた。「理屈ばかりにしたいんじゃありません。ただ、女が待っているにも朝は来るんです」

おは黙っていたが、次の稽古では自分からしい台を試した。かつておは、夫の病気で芝居かられ、く内職をして暮らしたことがある。布を縫っても縫ってもがりず、夜けに井戸へを汲みにった。その記憶が台の女のきへ入ると、志乃の原稿にはなかったみがまれた。惣太も拍子を使いすぎず、漁の綱を引く面では無音を残すよう夫した。

宗は志乃の芝居を見つめ、「おがきたかったのは、こういうことだったのか」と聞いた。志乃はうなずいた。子どもの頃、座へ入った志乃はよく客席の暗がりからの芝居を見ていた。女は待ち、泣き、男が帰るとぶ。その面で観客は涙を流す。けれど本物の女たちは、そのも米を買い、賃を払い、病をる。芝居の幕がりたに残る暮らしを、台のでしだけ見せたいとっていた。

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そんな、菊に福栄座の元女が訪ねてきた。名はお滝といい、半ほどに劇を辞めていた。志乃が帳面を調べていると聞き、気になって来たのだという。お滝は相良をただの悪とっていなかった。「あの旦、には座布団まで売って劇の修理をしたんです。でもを借りたには、いつまでも借りたままの顔をさせる」。お滝の言葉に、志乃は胸を突かれた。守りたいもののために、を縛ることがあるのだ。

お滝が持ってきたのは、劇の古い仕入れ控えだった。福栄座の倉庫へ運ばれた座の割と、劇自の具が、同じ保管費として計されている。「あの、私が荷を受け取ったんです。帳面を見れば分かるとって」。志乃は礼を言い、慎吾と緒に付を照らした。相良の請求していた保管費は、座の物だけにかかった費用ではなかった。必ずしも全部が当だとは言えないが、細を分けなければ話がまない。

その晩、志乃は最の面をき直した。主公の女がで灯を守るだけでは、誰かの助けを待つ話と変わらない。彼女は仲とを修繕し、港につ男たちへ「貸してくれ」ではなく「緒に働いてくれ」と言う。読み終えた宗が言った。「芝居では世が変わるのに晩でりる。でも本当は、晩じゃりない」

。志乃は笑った。「だから次の幕もけるんです」。その言葉を聞いて、おが初めて「それなら私も最までやるよ」と答えた。

志乃は自分が辺で育ったわけではないことを、稽古のたびに恥ずかしくじていた。そこで港へ通い、朝の荷揚げを見せてもらった。女たちはでえたを擦りながら魚を選り分け、声を掛けって箱を運ぶ。志乃が仕事を伝おうとすると、の女は「台のはくしておきな」と笑った。志乃はそので断らず、い箱の片側を持った。ほんのし運んだだけで腕が痛んだ。その痛みを覚えてから、台本の女は軽々しく『働く』と言わなくなった。見たことのない暮らしを描くには、まず聞き、り、違いを直す必があった。

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