"大正11年、幕開けの土下座から始まった女優の再起" 第14話
名を貸す者、働く者
町のに朝座のしい芝居を見たいと言うがしずつ増えた頃、わぬ噂が流れた。「座は客からを度取るつもりだ」。福栄座で止になった切符を持つ者に、倉の公演でも別料を払わせることを非難する声だった。志乃たちはしい公演との興が別契約であることを説したが、事をらないには弁解に聞こえる。志乃は慎吾へ相談し、番付とは別に枚の案内を刷ることにした。払い戻しの申し先、黒川の連絡先、劇との交渉の現状をくいたものだった。
「ここまでけば、相良は腹をてるぞ」と慎吾は言った。志乃はうなずいた。「でも何もかなければ、客はどこへればいいのかも分かりません」。案内を配り始めると、客の反応は変わった。りが消えたわけではないが、「はどこへった」と問う相がはっきりしたのである。相良は商会の世話役に呼ばれ、黒川と緒に売りを別に計算するよう求められた。
方、座の内側では別の満が芽えていた。志乃が勘定をつけ、台本をき、番付にも名をきく載せられていることに、栄助が反発したのである。「女優が座をかしているみたいじゃないか」。志乃が言い返すに宗がをいた。「俺が頼んだことだ」。栄助は顔を赤くした。
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「じゃあ俺たちの見はどこへくんです。伊之助がいなくなったも、次の芝居が決まったも、みんなから聞かされた」
宗はその言葉に沈黙した。今まで座のことは座と興師が決め、役者は稽古をして芝居を見せるのが当然だった。だが、その仕組みが今回の苦境をくした。志乃は帳面を閉じて言った。「次の公演をするかどうか、私だけで決めたくありません」。全員がひとりずつ、残るか、別の町へくか、ここで公演を続けるかを話した。誰もが同じ答えではなかった。
装係のきぬは、翌週故郷へ帰ると言った。病気の母をく留守にしておけず、これ以無で旅を続けられない。「ここまで緒に来たんだから最まで」という宗に、きぬは首を振った。「その言葉で働きました。今回だけはへ帰らせてください」。志乃は引き止めなかった。むしろ未払いのを帳面に記し、支払う期を緒に決めた。別れ際、きぬは装の縫い目を確かめ、「この袖はいから、るとき持ちげるんだよ」と志乃へ教えた。
その夜の稽古は、いつもより静かだった。るだけで楽には目に見える隙ができる。だが志乃は、残った者だけで台を作る覚悟がしはっきりしたとじた。宗も初めて公演の収支を全員ので読みげ、が払えないは誰がどの仕事を引き受けているのかまで確かめた。
座がをげると、は言った。「謝るより、次からそうしよう」。そのい言葉で、く張りつめていた部の空気がしほどけた。
きぬの荷をえる夜、志乃はさな呂敷を渡した。には針と糸、それに座の古い番付が入っていた。きぬは「そんな物、へ持って帰っても仕方ない」と笑ったが、番付をくとしばらく眺めていた。そこには役者の名しか載っていない。装係のきぬの名はどこにもなかった。「いつか裏方の名も刷ってくださいね」ときぬは言った。志乃は「必ず」と答えそうになり、言葉を止めた。できるか分からない約束ではなく、次に刷るに本当に名を入れようとった。きぬはその迷いを見てうなずき、番付を丁寧に畳んだ。
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