"大正11年、幕開けの土下座から始まった女優の再起" 第17話
古い集会所の条件
紹介された集会所は、港の労働者たちが集まるために建てた古い造の建物だった。昼は用事のある者が入りし、夜は読会や寄に使われている。管理の田井は、腰の曲がった代の男で、台を見るなり言った。「ここは劇じゃない。だってを勢入れるようにはできていない」。はでを踏まず、柱の位置と梁の具を見て回った。志乃は座れる数を減らしてもいいと答えた。
田井がした条件は厳しかった。入できる数を決めること。通を塞がないこと。夜は所の迷惑になるほど音をさないこと。万、や建具を傷めたは、座が直すこと。志乃はつずつ帳面へいた。所を借りられるびより、守る約束が増えるみの方が先に来た。それでも、初めてを配せずに芝居を続けられる所だった。
準備、客のからひとつの話が届いた。福栄座で止になった券を持つ者へ、相良が部の代を返し始めたという。ただし全員ではなく、劇の窓で買ったを先に扱っていた。商で売った券を持つ客は、「黒川を捜せ」と言われている。志乃は慎吾と相談し、券を買った所ごとの窓と、申しを受けた付を分けて記すことにした。
公演の、宗は古い台本を抱えて集会所に来た。
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伊之助のいた頃なら見せなかった疲れが顔にていた。「座を辞めようとう」と唐突に言う。志乃は具を置いた。「どうしてですか」。宗はしばらく答えず、へ座った。「俺は役者を連れて歩いてきたが、何も決めさせてこなかった。黒川に任せ、伊之助がいるからと甘え、どこへくかさえ俺の腹ひとつで決めてきた。おたちを困らせたのは、俺だ」
志乃は宗の隣へ座った。「それなら、これから変えればいいんです」。宗は首を振った。「役者にはがある。俺には残りがない」。志乃はすぐに慰めなかった。彼が音を吐くのを初めて聞いたからだった。しばらくしてから言った。「座を辞めるかどうか、ひとりで決めないでください。今度はみんなへ聞いてください」。宗は顔をげ、初めてさく笑った。
その夜、役者たちが集まり、これからの座について話した。宗をろしたい者はいなかったが、の扱いと興の決定は数で確かめることにした。宗は座として芝居をまとめ、志乃が帳面をつけ、おとがそれぞれ装と台の準備を取りまとめる。惣太は自分にも役目が欲しいと言い、番付を配りながら客の声を聞いて回ることになった。誰かの才覚ではなく、の届くところからやり直す。それがさな座にできる、初めての決め事だった。
集会所の管理・田井は、公演が始まるに志乃へ別の話をした。「ここで寄をする連には、役者を信用しない者もいる。派な暮らしをしてを持ち逃げすると決めつけているんだ」。志乃は初の失敗をいした。「そうわれても仕方ないことが起きました」と答えた。田井は首を振った。「仕方ないとは言わん。ただ、信用というのは度の芝居で戻るものでもない」。集会所の利用誌を見せながら、彼は予約したと片づけの約束をきちんと守るようを押した。志乃は芝居を褒められるより先に、その約束を守ろうと決めた。
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