"大正11年、幕開けの土下座から始まった女優の再起" 第19話
切符のさ
商会の世話役を交えた勘定の話しいは、度目でようやく形になった。黒川の古い借と福栄座の使用料、売りの返に必なを、それぞれ別のに分けて記した。相良は最初、が増えることを嫌がった。「細かいことをしても、客には分からん」と言ったが、志乃は黙って受領印の位置を示した。客が分からないからこそ、売った側が分かる形にしておく必があるのだ。
劇の売り収入のうち、実際に相良の帳へ入っていた分からは、まず切符を持つ客への返に充てることになった。黒川が直接受け取ったについては、黒川自が返済計画をき、宗が確認した。座は未払いだった役者のの部を受け取り、残りはを決めて支払う約束を取り交わした。すべてが戻ったわけではない。相良と黒川の昔の借にも決着はつかなかった。だが、混ぜてしまったものを分けるだけで、誰に何を求めるべきかがしずつ見えてきた。
志乃は払い戻しの窓につことを申した。幕ががらなかったの客に、自分たちの顔を見せなければならないとったからだ。最初に来たのは、初には鳴っていた若い員だった。切符を差しし、「今度の芝居は見たぞ」と言った。志乃は驚く。若い男は「面かった。
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だからこそ、最初の分はきちんと返してくれ」と続けた。志乃はをげ、帳面に記したを渡した。
次に来た乾物商の女主は、券を返さなかった。「私は分をまとめて買ったけど、返ってこない芝居もあるとうことにするよ」。志乃は慌てて止めた。「それでは困ります。返の用があります」。女主は笑った。「あんたが返したいなら受け取る。でもそので、また枚買わせてもらうよ」。志乃は自分が泣きそうになっていることに気づき、急いでをげた。
には最まで納得しない客もいた。「座をしたからといって、返せば済む話じゃない」と言う老には、志乃は反論しなかった。老は若い頃、自分も商売でを預かったことがあるらしい。「客がへ帰ってからも、約束は残るんだ」と言った。志乃はその言葉を帳面の余にいた。公演が終わったに残るものまで含めて、つの興なのだとった。
話しいの最、相良は宗へ言った。「福栄座の台へまたがりたいなら、相談には乗る」。相良の声には以のような余裕がなかった。志乃は宗の横顔を見る。座はし考え、「いつか、互いの取り分を最初に決めて、客に胸を張れる約束ができたら、そのはお願いします」と答えた。相良はで笑ったが、追い返しはしなかった。それが解なのか、単なる休戦なのかは、まだ誰にも分からなかった。
黒川は客に返するため、次の町で予定していた興の利益の部をあてると言った。宗はその説を聞き、以ならすぐに承しただろうとった。だが今回は「次の役者たちのまで削るな」と言った。黒川は顔をげた。宗は続けた。「俺たちへ返すために、別の座を泣かせたら同じことだ」。返すが度に集まらないのは歯がゆかったが、何もかも急いで解決しようとすることが、しい無理を作る。志乃は支払いの期を確かめ、黒川の署名をもらった。遅れているという事実まで、あいまいにしないためだった。
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