みかん小説
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"残高ゼロの通帳" 第10話

円の狂いもない未来

の旬、笠原から義母・節子が退した。

隣町の駅から徒歩分、築の造アパート。畳にさな流し台とユニットバスがついた、賃万千円の部だった。

敷と引っ越し費用は、節子の定期預から全額が支払われた。節子は荷造りの、「親を追いす親孝者」「な嫁の言いなりになりやがって」と信吾を罵倒し続けたが、もはや信吾がその言葉に怯むことはなかった。

「母さんの万なら、賃を払っても万残る。費も気代も体も、全部その万円のでやりくりしてくれ。俺はもう、円も仕送りはできないから」

信吾が突き放すと、節子は絶望したように黙り込んだという。

自の温泉旅は、違約を払ってキャンセルせざるを得なくなった。友たちには「嫁におを奪われた」と言いふらそうとしたが、子が事に釘を刺していた通り、事実無根の誹謗傷を続ければ名誉毀損で訴えると弁護士名義の内容証が届き、節子は完全にを封じられた。所のお茶み友達からも、次第に距を置かれるようになっていった。

方、信吾は広すぎる古マンションに取り残された。

毎の宅ローン万円を払い、自炊をし、洗濯を回し、散らかった部をで掃除する々。

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妻がどれほどの労働と経済負担をで背負ってくれていたのかを、失ったに骨の髄までいらされていた。

何度かゆきの元へ「やり直したい」「度だけでも会ってほしい」とメッセージが送られてきたが、ゆきが返信することは度となかった。

がけた。

ゆきは会社の同僚や司に見送られながら、れやかな笑顔で退社を迎えていた。

元には、弁護士を通じて公正証を作成し、正式に成させた婚届の受理証があった。マンションの財産分与として、結婚期の信吾の積預から正当な半額を清算させ、過にゆきが当に負担させられた活費の部として百万円の解決を括で支払わせた。

会社の最寄り駅から駅れた閑静な宅に、ゆきはしい部を借りていた。

当たりの良い向きのリビング、清潔なコンロのキッチン、そして独代から切にしてきた仕事用のデスクと、祖母の形見の着物が収まった箪笥。

窓をけると、爽やかなのが吹き抜け、しいカーテンを優しく揺らした。

毎、ネットの座には、ゆきが自らの性と労働で稼ぎした万千円の与が、円の狂いもなく正確に振り込まれる。

賃を払い、費を払い、バランスの取れた材を買い、残りは将来のために自分で決めた投資信託へと積みてていく。

誰の顔を窺う必もない。誰かの嫌を取るために、自分の尊厳を切り売りする必もない。

ダイニングテーブルのには、お気に入りの雑貨で見つけた純のマグカップがつ、湯気をてていた。

ゆきは温かいコーヒーを含み、く、く、自由な呼吸を肺いっぱいに満たした。

帳簿の数字と同じように、自分のの貸借対照表は、ようやく完璧な均衡を取り戻したのだ。

自分のでち、自分ので稼ぎ、自分ので未来を選び取っていく。その当たりで、何よりも誇らしい幸福を噛み締めながら、ゆきは窓のに広がる青空に向かって、静かに、そして力く微笑んだ。

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