"大家だった姑の逆転" 第12話
窓の向こうにが見える
季節がつ変わる頃には、しい部にもすっかり慣れていた。
朝起きてカーテンをけると、くに青いが見える。反対側には緑のがあり、れたは空との境目までくっきり見えた。夫と若い頃、旅先で「いつかこんな所にめたらいいな」と笑っていた景にし似ていた。
あの頃は、そんな暮らしはのまただった。
息子がさく、私は毎働くことで精いっぱいだった。アパートから得た収入も、そのまま贅沢に使えるわけではない。修繕のために残し、将来のために蓄え、息子の学費を準備した。
億円という数字だけを聞けば、嫁には「何もしなくてもおがある老」に見えたのかもしれない。
けれどそのおは、数というの積みねだった。
夫が残してくれた台。
私が働いて得た収入。
使わずに残したお。
失敗もありながら続けてきた運用。
それらがなった結果だった。
何より、私はずっと「このおは息子のためにも残そう」とっていた。
自分がくなったあと、困ることがないように。
族ができたなら、その活がしでも楽になるように。
だから息子が結婚すると聞いた、居のおが必なら協力してもいいとから考えていた。
もしあの、嫁が「で暮らしたいのでし助けてもらえますか」
広告
と言っていたら、おそらく私はんでしていただろう。
けれど嫁は同居を選んだ。
そしてかけて、私をの隅へ追いやった。
最には、私が息子に寄していると決めつけ、「てけ」と言った。
息子は、その横で私を守らなかった。
だから私は、自分のために使うことにした。
このマンションの費用を払った、通帳からきな額が減った。以の私なら数字を見てになったかもしれない。
けれど今は、悔していない。
誰にも慮せず使える台所。
好きなに座れるリビング。
窓から見える。
困ったには相談できる環境。
それらを、自分のおで買ったのだ。
息子夫婦は、今も楽な暮らしではないらしい。息子は昼夜働き、嫁も最終には仕事を探さざるを得なくなったと聞いた。
それを「ざまあみろ」とはわなかった。
ただ、自分たちで選んだ活を、自分たちで支えるが来ただけだとった。
毎届くは、今もけていない。
いつか読みたいとうが来るかもしれない。
来ないかもしれない。
それも今は、私が決めればいい。
ある夕方、窓際の棚を拭いていると、夫の写真が目に入った。
昔と変わらない笑顔だった。
私は子に座り、写真てをに取った。
「あなたなら、あの子を助けてあげろって言うかしら」
もちろん、返事はない。
それでもく緒にいたから、何となく夫が言いそうなことはわかる。
広告
息子は助けてやってもいいんじゃないか。
でも、あの嫁は別だな。
そんな冗談を言って笑っているような気がして、私はわず吹きした。
「まだいわよ」
写真に向かって言った。
「まずは自分で頑張ってもらわなくちゃ」
私は写真を元の所に戻し、窓をけた。
夕に照らされたが、きらきらとっていた。
以の私は、母親なら子どものためにして当然だとっていた。
自分の欲しいものは回し。
自分が嫌ないをしても、族がうまくいくなら黙っていればいい。
でも、それでは誰も幸せにならなかった。
息子は私が何をしているのか考えなくなり、嫁は私が何をしても受け入れるとうようになった。
そして私は、自分のなのに自分の居所を失った。
あの、嫁から「アパートをてけ」と言われたことは、本当にしかった。
けれど今になってえば、あの言がなければ、私は今も同じ部で嫁の嫌をうかがいながら暮らしていたかもしれない。
私はてきた。
アパートも譲った。
そしてようやく、自分のを取り戻した。
夕のになり、私はキッチンへ向かった。
今は自分で魚を焼き、噌汁を作る。
誰も「台所に入らないでください」とは言わない。
来がった料理をリビングのテーブルへ運び、私は窓のを眺めながら箸を取った。
なのに、議と寂しくなかった。
寝で息を潜めながらべていたあのより、ずっと温かい卓だった。
そして私は、誰にも聞こえない声で夫の写真に言った。
「ねえ。やっと私も、自分のためにきていいってわかったみたい」
窓の向こうでは、青いと緑の々が夕を浴びて輝いていた。
今度こそ、この暮らしを誰にも邪魔させるつもりはなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
離婚翌日、父と食事中の私を「また金持ちに寄生か」と笑った元夫の末路
結婚生活のすべてを一円単位で折半しながら、家事だけは妻に押しつけていた夫・亮介。「お前は寄生虫だ」と離婚を突きつけられた綾乃は、静かに別れを受け入れた。 その翌日、実父と高級ホテルで食事をしていると、偶然現れた亮介と不倫相手が「もう次の金持ちを捕まえたのか」と嘲笑する。因果応報|夫婦|真実|金銭問題|修羅場|不倫1.9万字5 11 -
完結第23話
昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇
昭和53年7月30日。沖縄の交通が右側通行から左側通行へ切り替わった朝、55歳のバス運転手・新垣清徳は、32人の乗客を前に始発の発車を拒んだ。用意された旧型バスは、乗降口が車道側に開く危険な車両だったのだ。しかし欠便を恐れる主任は、若い運転手にその車を出すよう命じてしまう。やがて坂下から届いたのは、一人の少年が負傷したという知らせ。なぜ危険だと分かっていたバスが走ったのか。清徳は息子や同僚たちとともに、事故の責任と、誰も気づかなかった道路の危険に向き合っていく。職場逆転|時代|歴史|昭和|裡の顔3.0万字5 0 -
完結第10話
産後七日目の決別
帝王切開からわずか七日。傷の痛みと貧血に苦しむ真帆に、夫の直人は「産んだ人が自分で育てればいい」と冷たく言い放った。生まれたばかりの娘を守るため、真帆は実家へ避難する。ところが直人と義母は、彼女を「産後うつで勝手に家出した妻」に仕立て上げ、親族に嘘を広め始めた。追い詰められた真帆は弁護士に相談し、あの日の暴言が記された助産師の記録を手に入れる。そして、夫の勤務先から届いた一通の回答書が、直人の主張を根底から覆そうとしていた――。夫婦|裡の顔|修羅場|不倫1.9万字5 5 -
完結第14話
夫のいない四日間
人気ミステリー作家の安田里美は、無職の夫・博之と七歳の娘を養いながら、仕事も家事も一人でこなしていた。ある深夜、夫のスマートフォンに届いたメッセージから、博之が高校時代からの親友・裕子と不倫していることを知る。しかも二人の豪遊費は、里美の書斎から盗まれたクレジットカードで支払われていた。娘を思って離婚をためらう里美だったが、七歳の美香が口にした言葉で決意を固める。そして夫が裕子と沖縄へ旅立った朝、里美はカード会社と引っ越し業者に電話をかけた。さらに、夫の荷物には思いがけない届け先が指定されていた――。夫婦|親子関係|不倫2.0万字5 160 -
完結第22話
義両親をこき使う伯父に、嫁の私が反撃した日
法事の席で、義父母は親戚から召使いのように扱われ、会食代まで余分に払わされそうになっていた。八年間その光景に耐えてきた奈央は、夫の健太に「私、やり返してもいい?」と尋ね、ついに伯父へ反論する。伯父が振りかざすのは、二十四年前に義父母を救った二百万円の「恩」。しかし、その借金は十八年前にすでに完済されていた。古い家計簿と振込票が明かす義父母の苦労。そして押入れから見つかった業務日誌には、伯父の会社の創業にまつわる、誰も知らなかった過去が記されていた。長年の屈辱に終止符を打つため、家族はついに立ち上がる。裡切られた|怒り|兄弟姉妹|嫁姑|第二の人生|金銭問題2.2万字5 102 -
完結第18話
4億円の私の家を義弟に譲る義母――夫の一言で凍りついた古希祝い
義父母が住む場所を失った十五年前、黒田彩は自分名義の家を無償で貸した。ところが義母・文子の古希祝いで、突然「あの家は次男の公平に譲る」と宣言される。親族が賛同する中、普段は母親に逆らえない夫が立ち上がり、衝撃の事実を告げた。しかし義母は、彩が昔書いた一通の手紙を持ち出して反論。因果応報|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|金銭問題2.0万字5 176 -
完結第20話
消された十六番目の席
六十二歳の高田かず子は、亡き夫と二人で建てた家で、息子夫婦と暮らしていた。家事も生活費も負担し、家の中で自分の居場所を失いながらも、家族のために我慢を重ねてきた。ところが正月、十五人の親戚をもてなした末に、息子から「母さんの席はないから留守番で」と告げられる。嫁には「身内だけで楽しみたい」と笑われ、帰宅後の布団の準備まで押し付けられた。そんなかず子に、老舗寿司屋の大将から一本の電話が入る。因果応報|人生逆転|裡切られた|夫婦|親不孝|親子関係|修羅場2.6万字5 434 -
完結第20話
玄関のピンクのウサギ
六十歳の元教師・田島美香は、息子夫婦を助けるため、三年間にわたり孫の世話をしてきた。久しぶりに夫を驚かせようと自宅へ戻ると、玄関の暗証番号が変わり、見知らぬピンクのスリッパが置かれていた。台所から現れたのは、夫と二年近く暮らしていたという女性。さらに調べるうち、夫婦の貯金から消えた百五十万円、売られていた母の形見、そして自宅をめぐる恐ろしい計画が明らかになる。夫婦|裡の顔|第二の人生|修羅場2.8万字5 287