みかん小説
本棚

"昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇" 第13話

運休の張り

がへ傾く頃、島交通の営業所のには枚の張りが並んでいた。枚は運再の案内。もう枚は午の事故についての説である。は何度も文面をき直し、最に『旧型両を適切に運用し、乗にお子さまが負傷されました』と記した。い文だったが、そこには会社が避けようとしていた言葉が含まれていた。

張りを読んだ所のが「けがをしたのは、運転のせいか」と尋ねた。は度息を吸い、答えた。「運を指示した会社の責任があります。運転した者の判断も含めて調べています」。それを聞いていた誠は、誰にも気づかれないように壁を見つめた。彼は運転席へ戻る許をまだ得ていなかった。朝、指示に従った自分が悪かったのか、断れなかった自分がかったのか、そのつをったり来たりしていた。

方、会社の社は別の考えを持っていた。夕方になって営業所へ駆けつけると、事務所でを叱った。「〇の初に事故をしたうえ、欠便まで増やしたのか」。社の言葉に運転たちは黙った。が指示をした経緯を説しても、社は首を振った。「運転に止める権限ばかり与えたら、からがなくなる」。

清徳はその言葉を聞いて、わずへた。「止める権限の話ではありません。

広告

危険を見つけた、確認が済むまでさないという順の話です」。社は彼をじろりと見た。「おが今の朝、真っ先に運休を言いした男か」。清徳は頷いた。社は机のの運表をに取り、「おのせいで失った運賃もある」と続けた。

「私が止めたことで困ったお客さんがいたのは事実です。ご迷惑もかけました」。清徳は度をげ、それから顔をげた。「でも、をしてはいけない理由があるなら、それも運転の仕事として扱ってください。断っただけが悪者になるなら、次は誰も危険を言わなくなります」。

しばらく沈黙が続いた。社は答えず、窓のへ目を移した。夕方の庫では備員が型のを覗き込み、疲れた顔で作業を続けている。きょう、運転していないもまた、しい交通のためにいていた。の故障を直す者、乗客へ話する者、の標識を付け替える者。その誰かが遅れるだけで、全体が止まることもある。

夜になり、事故に遭った浩の父から連絡があった。首の骨折が確認され、しばらく静が必だという。学は休みで、友達とへく約束をしていたが、当分はで遊べない。「息子は今が楽しみだったんです。が変わるところを見たいと言って」。勝の声は穏やかだった。その穏やかさが、清徳には鳴り声よりつらかった。

清徳は自分から見いにきたいと申した。勝は「今は来ないでください」と答えた。「いまはまだ、顔を見たくないんです」。清徳は受話器を置き、子へ腰をろした。謝りたい側に都のいい刻で、謝罪を受け取ってもらえるわけではない。違いのさは、相の暮らしへ入って初めて見えてくることもある。

事務所の灯りが消えていくで、苗だけが翌の案内をき直していた。清徳は彼女の隣へ座り、「は何から来る」と聞いた。「いつも通りのです」と苗が答える。は顔を見わせ、初めて苦笑した。もはや『いつも通り』が何をするのか、誰にもよく分からなくなっていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: