"昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇" 第17話
苗の話帳
苗が島交通へ入ったのはだった。事務員として採用され、初めは乗務員の勤表を写し、話を取り、釣り銭を数える仕事ばかりだった。結婚も働き続けるのは珍しいと言われ、配の男性から「に入った方が楽だろう」と声をかけられたこともある。しかし父をくくし、母と弟を支える必があった苗には、働くことをやめる理由などなかった。
の事故が起きてから、苗は話帳の余に自分だけの印をつけるようになった。さな丸は問いわせのい留所、角は歩くのが難しい利用者からの相談があった所、角は商や公民館で案内を頼める所。最初は単なる覚えきだったが、数でそれは丘の民がどうバスを使っているかを示す図になった。
は彼女の帳面を見て、「こんなものを作るがあったのか」と驚いた。苗は笑った。「話を切ったに言くだけです。でも、の話には役につんです」。は『話を取るだけの仕事』とい込んでいた自分に気づき、し照れくさそうに「今度の会議へ持ってきてほしい」と頼んだ。
苗自も朝のを作るため、毎回りをして母親のに寄っていた。母は膝が悪く、材を持ち込まなければでは買い物が難しい。
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話で「分くらい待てるでしょう」と言いながら、相にとってその分がどれほどいかを考えないはなかった。清徳へ乗客の用事を尋ねるよう勧めたのも、族の事をる自分だからできたことかもしれなかった。
その会議で苗は、同じ刻に客が集する理由を説した。病院へ通う、番の仕事へく、へ買い物へ向かうは、目こそ違うが必な帯がなる。そこへ昔の通位置をらずにしい所へつと、昔の位置のまま待ってしまうがいる。刻表を数分変えるだけでなく、どの所から誰が乗りたいのかを教える方法が必だった。
運転のが「そんな細かな用事まで聞き取っていたら、が暮れる」と言った。苗は答えた。「だから私たちが聞くんです。運転席でずつ聞くより、営業所や先で先に分かれば、運転さんも困りません」。会議の席では初めて、事務員の仕事が運のへ入ってきた。
午、苗はハルの雑貨へ向き、留所の案内板を緒に作った。ハルは文字の並びを見て、「これじゃへくのかへくのか、寄りは迷うよ」と言った。苗が直すと、今度は子どもが「ここから歩くときは横断歩までくんだね」と指さした。案内板はの専の図面よりずっと格好だったが、使うの目で何度も確かめられた。
帰り、苗は商で母親に会った。母は買い物袋をげ、バスの所が変わったせいで回りになったとぼやいた。「あなたは会社のなんだから、もうしくへめてもらえないの」。苗は笑って答えた。「お母さん、それを私が勝に決められたら、今度は別のが困るでしょう」。母は「難しい仕事をしているんだね」と初めて言った。
苗はその言葉を何度もいした。これまで族にも自分の仕事内容を詳しく説したことはなかった。話を取る、刻表を直す、運賃を数える。そんな仕事のつつが、誰かのの選び方に結びついている。の朝は、それが切れる音を聞いたでもあった。
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