"義父の古希祝いで母娘の席が消えた――予約名義は私" 第4話
取り残された袋
歩みてきたのは、本の主役である義父の哲夫(歳)だった。
背筋をピンと伸ばし、厳格な表を崩さない哲夫は、かつて元のでを務めていた実直な物だった。
「私がやる」
哲夫の々しい言に、義母のふみ子が取り乱して駆け寄った。
「あ、あなた! 今はあなたのお祝いなのよ!? なんであなたが百万円以も払わなきゃいけないの!」
哲夫はふみ子のを激しく振り払った。
「黙りなさい! 私の古希祝いなんだろう? 内の無礼の始末を、に押し付けてどうする! 支配さん、続きはこちらで引き受ける。案内してくれ」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
支配が哲夫を事務へ案内しようとした、私は支配に声をかけた。
「支配様、私がて替えていた付の万円はどうなりますでしょうか?」
「代表者様からのご入が確認でき次第、規定に基づき、当初の藤崎様のお座へ全額即返の続きを取らせていただきます」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
私はく礼した。
お祝いの席をめちゃくちゃに壊すつもりは毛なかった。ただ、を塗られ、踏みにじられたまま、勝な親族たちの財布代わりにされる筋いはミリもない。自分のを守るための正当な権利を使しただけだった。
広告
私は隣につを見ろした。は涙を懸命にこらえながら、私のを握り返してきた。
「、ここに残りたい?」
は無言のまま、しっかりと首を横に振った。
「こうか」
私たちが背を向け、エントランスへ歩きした瞬、啓介が慌てて追いかけてきた。
「な、菜央! 待てよ! お、親戚のでなんて恥をかかせるんだ!」
私はを止めることすらせず、たく言い放った。
「で話そうって言ったのは、あなたでしょう」
「待ちなさい、菜央さん!」
背から、続きを断した哲夫の鋭い声が響いた。私はち止まり、振り返った。
哲夫は苦渋に満ちた表で、私とを見つめていた。
「菜央さん……ちゃん。私は、こんなことになっているとは本当にらなかったんだ。すまない」
「お義父様がごなかったことは分かっております。でも、私たちはここにいるべきではありません。どうぞ、皆様でお祝いをなさってください」
の元には、まだあのさな袋が握られていた。
「、おじいちゃんにお祝い、渡す?」
私が尋ねると、は哲夫の顔をじっと見つめた。そして、しの考えた、袋を自分の胸元へとく抱き直した。
「……今は、渡さない」
のさな声は、しかしの欺瞞を拒絶する確固たる志に満ちていた。
「そうか……すまなかったな、ちゃん」
広告
哲夫がくをげた。義母や美、そして啓介が呆然とち尽くす、私とは度も振り返ることなく、豪奢なホテルをにした。
のたいが、ホテルの自ドアをた私たちの頬を刺した。
は黙ったまま私の隣を歩いていたが、通りにたところで突然を止め、そのにしゃがみ込んで泣き崩れた。
「ママ……っ、ぐすっ……私、本当におじいちゃんの族じゃなかったの……? べる資格なんて、ないの……?」
さな肩が激しく波打っていた。歳の女の純粋なが、信じていた族によって無惨に切り裂かれた瞬だった。
私はたいに膝をつき、を力いっぱい抱きしめた。
「そんなことない。に資格がないなんてこと、絶対にないよ。……が決められるのはね、自分の卓に誰を座らせるか、それだけなの。の本当の族が誰なのかを決めるのは、自なんだよ」
は私の胸に顔を埋め、声をげて泣き続けた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
妹の手術前に「家族やめれば?」――私はドナーを辞退した
幼い頃から父と継母に冷遇され、妹・直美の引き立て役として育った広美。家を出て新体操の夢を追っていた彼女は、重い肺の病気を患う妹を救うため、生体肺移植のドナー候補になることを決意する。 ところが手術前の食事会で、広美の席だけが用意されていなかった。 「なんで来たの? 家族やめれば?」 妹の冷酷な一言をきっかけに、広美は臓器提供を辞退する。さらに病院で見つかったのは、身に覚えのない署名がされた同意書だった。 家族の裏切りと隠された不正に向き合い、広美は自分の人生と夢を取り戻せるのか。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係2.9万字5 56 -
完結第20話
借金3億の旅館を継いだ私を捨てた夫の誤算
父の急逝により、43歳の真帆が引き継ぐことになったのは、信州の古びた温泉旅館と約3億円の借金だった。夫の拓也は「貧乏になる前に離婚してくれ」と冷たく言い放ち、ただ一人、17歳の息子・勇気だけが母について行くと決める。 亡き父の宿を守ろうとする真帆だったが、遺された宿日誌から夫の恐ろしい裏切りが発覚。さらに離婚協議では、16年間つけ続けた家計簿が思わぬ反撃の切り札となる。 夫に見捨てられた母と息子は、3億円の借金を抱えた旅館で新たな人生を切り開けるのか――。人生逆転|真実|孤獨|親子関係2.4万字5 1 -
完結第16話
庭付き新居に押しかける長男夫婦、引越し当日に絶句
夫を亡くした62歳の田所美津子は、長年暮らした家を売り、菜園付きの一軒家で新生活を始めようとしていた。 ところが長男の琢磨と嫁の真理亜は、相談もなく同居を宣言。「断るなら一生介護しない」と脅しまでかけてくる。 夫の葬儀で遺産を要求された美津子は、もう息子に振り回されないと決意していた。 長女の美香と密かに進めていたのは、誰にも知らせていないもう一つの引っ越し計画。 何台ものトラックを連ね、当然のように新居へ乗り込んだ長男夫婦。だが引っ越し当日、二人は思いもよらない事実を知ることになる――。人生逆転|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|介護2.4万字5 0 -
完結第14話
「3月末に出ていけ」離婚を迫る夫が知らない真実
結婚17年目、42歳の立花伊佐美は、単身赴任中の夫・秀哉から突然離婚を突きつけられた。 「3月末までに息子と家を出ていけ」 長年家庭を支えてきた妻に、夫はわずかな解決金しか渡さないと言い放つ。ところが、赴任先を訪れた伊佐美は、夫が別の女性と6歳の息子を育て、もう一つの家庭を築いていた事実を知る。 絶望する伊佐美に手を差し伸べたのは、夫と不仲だった義父・信造だった。 そして3月28日。新しい妻子を連れて家を奪いに来た秀哉は、まだ知らなかった。自分の知らないところで、すべてが変わっていたことを――。夫婦|真実|親子関係|修羅場|不倫1.9万字5 99 -
完結第20話
「嫁には1円もやらない」義母へ、家族3人の決断
義父の死後、義母との同居を始めて十年。40歳の香織は仕事と育児を両立しながら、家事も義母の世話も一人で担ってきた。 しかし義父の法事の日、義母は親族の前で「遺産は全部娘に渡す。嫁には一円もやらない」と笑いながら宣言する。 限界を迎えた香織が「では出ていきます」と告げると、夫も五歳の息子も一緒に家を出ることを決意。 三人が去った途端、義母の生活は崩れ始める。さらに、香織が十年間隠し持っていた亡き義父のノートには、誰も知らない前田家の秘密が記されていた――。人生逆転|嫁姑|介護|金銭問題2.4万字5 88 -
完結第22話
離婚裁判で7歳の娘が見せた秘密の映像
夫の健太郎から突然離婚を突きつけられた詩音。七歳の娘・柚月の親権も、自分が貯金を出した家も奪われようとしていた。 夫が提出したのは、詩音を「母親失格」に仕立てる写真と専門家の意見書。しかし、資料の矛盾や消えた預金を調べるうちに、夫の隠された計画が浮かび上がる。 そんな中、柚月は画面の割れた古いタブレットを頑なに手放そうとしなかった。 そして裁判の日、娘が口にした思いがけない言葉。 「裁判長、ママも知らないもの、見せていい?」 七歳の娘が守り続けていた秘密とは――。人生逆転|夫婦|裡の顔|親子関係3.1万字5 74 -
完結第18話
「家は俺が守る」息子を信じた母、4年後の衝撃
骨折をきっかけに高齢者施設へ入った72歳の黒田春江。息子の直樹は「家は俺が見ておく」と約束したが、回復後も「家が傷んでいる」と帰宅を拒み続けた。やがて面会も途絶え、気づけば四年。76歳になった春江は、相談員の助けを借りて自宅を訪ねる。ところが、荒れているはずの家は美しく整えられ、鍵まで交換されていた。さらに玄関の向こうから聞こえてきたのは、誰かの足音。息子が隠していた秘密とは何なのか。家族への信頼と、自分の人生を取り戻すための静かな反撃が始まる。親不孝|親子関係|介護|金銭問題2.5万字5 109