みかん小説
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"三十八年目の帰る場所" 第4話

私の部はどこにあったのだろう

昼になると、今度は彩佳から話がかかってきた。

着信画面を見て、し迷ってからた。

「もしもし」

「お母さん?」

いつものるい声ではなかった。

「どうしたの」

「あのね、お父さん、朝からずっと嫌悪くて」

私は庭の柿のを眺めながら黙って聞いた。

「陽斗も、ご飯がおいしくないって言ってて……」

「蔵庫に分のおかずがあったでしょう?」

「あったんだけど」

彩佳は言いにくそうに声をさくした。

「お父さんが昨の夜、ほとんどべちゃったみたい。煮物も照り焼きも。きんぴらもししか残ってなくて」

「そう」

「今朝になったら何もなくて。お父さん、ご飯の炊き方も分からないって」

私は瞬、以の癖で「炊飯器の横に計量カップがあるでしょう」と言いそうになった。

けれどやめた。

幸は歳ではない。

私より歳の歳だ。

でご飯を炊くことくらい、覚えようとえば覚えられる。

「お母さん、いつ帰ってくる?」

彩佳が聞いた。

「まだ決めてないわ」

「でも泊って言ってたじゃん」

「そうね」

「お父さん、本当に何をどうしたらいいか分からないって」

私はし黙った。

それから、できるだけ穏やかな声で言った。

「彩佳。あなた、昨言ったわよね」

「何を?」

「私がいないほうがのは平だって」

話の向こうが静かになった。

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数秒して、彩佳がさく言った。

「あれは冗談でしょ。みんな笑ってたし」

「そうね。みんな笑っていたわね」

私はそれ以、責める言葉を続けなかった。

責めれば彩佳は言い訳をする。

「あんなつもりじゃなかった」

「お父さんにつられただけ」

そう言うだろう。

けれど、言われた言葉が消えるわけではない。

「また連絡するね」

彩佳はそう言って話を切った。

午、恵さんと町のさな堂へった。

焼き魚の定をべている途、恵さんが箸を止めた。

「みっちゃんは昔から、のことばかりしてたねえ」

「そうでしょうか」

「そうだよ。お母さんが病気になったも、お父さんが倒れたも、今度は旦さんのお母さんでしょう」

私は苦笑した。

「そういう役回りだったのかもしれません」

恵さんは湯のみを両で包んだ。

「役回りじゃないよ。みっちゃんが引き受けてきたんだ」

その言い方は責めるものではなかった。

だからこそ、胸に残った。

「ねえ、みっちゃん」

「はい」

「あんた、自分のための部をつでも持ったことあるかい?」

私は答えられなかった。

結婚した当初はDKの社宅だった。

寝は幸と共用。

彩佳がまれれば、部は子供部になった。

今のを建てた、幸には畳の斎を作った。

「仕事をですることもあるから」と言われ、私は当然だとった。

彩佳にも個を作った。

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義母が同居するようになったは、階のを義母の部にした。

私はどこにいたのだろう。

寝るのは幸と同じ寝。

は台所。

で本を読みたいは、ダイニングの端に置いたさな子。

裁縫をするも、計簿をつけるも、そこでしていた。

「私の部……ありませんでした」

にしてみると、自分でも驚いた。

。

度も。

「じゃあ、ここでつ作ればいいじゃない」

恵さんは簡単に言った。

「お父さんの、部余ってるんだから」

私は笑った。

「そんな簡単な話じゃないですよ」

けれど、その夜。

使っていなかった奥の畳をけ、窓を拭き、古い座卓を壁際へかした。

そこに座ってみた。

窓からがし見えた。

さな机を置けば、本も読める。

昔好きだった裁縫もできる。

誰かのためではなく、自分のために使う部。

そう考えた瞬、妙に胸が鳴った。

その、携帯話が鳴った。

幸だった。

私はし迷ってから話にた。

「もしもし」

「おい」

声からすでに苛っているのが分かった。

「いつ帰ってくる」

「まだ決めていません」

「何を言ってる。もう経つぞ」

私は窓のの暗いを見た。

「しばらく、こちらにいようとっています」

話の向こうが静まり返った。

そして次の瞬、幸の声がきくなった。

「勝なことを言うな。誰のおかげでえてるとってるんだ!」

、何度も聞いた言葉だった。

けれどその夜だけは、議なほどくから聞こえた。

そして幸は、決定な言をにした。

「そんなこと言うなら婚だ。ていくのはおだ。あのは俺のなんだからな」

私は黙ったまま、父の部の棚に置いた茶筒へ目を向けた。

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