みかん小説
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"雨宮停留所の黄色い傘" 第10話

会いに来た

信夫の娘の名は美咲だった。写真の裏には、の所が記されていたが、すでに古い。私は塚と相談し、当の町営バス会社の記録と、信夫のにかれた勤務先を調べた。会社は吸収併されていたが、元同僚のが、信夫が県で暮らしていると教えてくれた。

私は突然、本へ連絡することはしなかった。佐子さんのを確認し、施設の相談員にもち会ってもらった。彼女は、会いたいと言った。ただし「息子が会いたくないなら、無理に呼ばないで」と付け加えた。

元同僚から伝えてもらったところ、信夫はいあいだ迷った末、話をかけてきた。母のことをりたい、でも今さら会っても母を傷つけるだけではないか、と何度も尋ねたという。

私は話で、佐子さんがを読んだことと、彼女が会いたいと話していることを伝えた。

「母は、僕を覚えていますか」

「あなたの名と、帰りのバスのは覚えています」

信夫は息を呑んだ。

「そうですか。あのは、ずっと待っていたんですね」

「はい。でも、待つことを望んでいたわけではないといます」

彼は、に町へ来ることを決めた。

その夜、私はまた、宮の留所へった。はっていない。ベンチのに、誰かが黄い傘を置いていた。柄はひび割れ、布はあせていた。

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私は傘を持ちげると、内側に名がかれているのを見つけた。

『佐子』

信夫のものではなかった。傘は母親のものだった。息子が傘を忘れていったのではなく、母が息子に持たせようとしていた傘だったのだ。

そのとき、留所の向こうにが現れた。彼は黄い傘を見て、初めて笑った。

「それは母さんの傘だよ」

「じゃあ、あなたは何を持って帰ったの」

「母さんがくれたもの」

は胸元を指した。制のポケットから、い布の端が見えている。私はづこうとしたが、彼は歩がった。

「、僕はけるかな」

「あなたは、もうかなくてもいい」

は答えず、宮の留所名を見げた。

「母さんが、僕を待つのをやめるまで」

その言葉のあと、彼の姿は灯のかりのへ溶けていった。

信夫へ連絡を取る、私は彼の元同僚に、母の記憶がれていることを伝えてよいか尋ねた。彼は、隠さず伝えてほしいと言った。母が自分を覚えていないがあるなら、それをったうえで会いたいのだ。

話で話した信夫は、母のことを「佐子さん」と呼んだ。い、母と呼ぶことを避けていたのだろう。彼は、母に会えば謝罪を求めてしまうかもしれないと恐れていた。私は、謝罪を求めるかどうかも、会ってから決めていいと伝えた。

「母が僕を覚えていなくても、僕が母を覚えていることは変わりません」

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彼は話を切るに、訪ねるを決めた。私はその付をカレンダーにき、佐子さんにも伝えた。彼女は、何度もそのを確認した。

信夫は、母に会うに娘の美咲へ話をした。娘は、祖母のを聞かされていなかった。信夫は、幼いころから「母とは縁を切った」とだけ説していたという。

「自分がされたように、娘にも母親をざけていたのかもしれません」

彼は、娘に真実を話すと決めた。美咲はすぐに理解できなかったが、祖母に会ってみたいと言った。信夫は、母の状態を伝え、無理に会わせることはしないと約束した。

彼は私に「母に会うことだけでなく、自分の娘にも族のことを話す必があった」と言った。の沈黙は、の親子だけでなく、次の世代にもを落としていた。

美咲が来るかどうかは、本に任せることになった。

信夫は、母に会う夜、娘から「おばあちゃんに会ってみたい」と言われた。彼は、母が孫を覚えているか分からないと伝えた。美咲は「覚えていなくても、会った事実は残るよ」と答えた。その言葉に、信夫は自分が母から受け取れなかったを、娘に繰り返さないと決めた。

信夫は、娘の美咲に母のを通見せた。美咲は「おばあちゃんは、お父さんを待っていたんだね」と言った。信夫はうなずいた。「でも、待たせたことを美談にはしたくない」

。は、祖母に会うときは自分たちの言葉で話すと決めた。

信夫は訪問を、今度は自分の帳にもき込んだ。

話を切ったあと、信夫はいあいだ窓のを見ていた。

信夫が施設をたあと、佐子さんは相談員に「今は息子が来た気がする」と話した。名をいせなくても、会った触は残っていたのだろう。職員は、その言葉を記録帳にき留めた。私はそれを読み、再会が彼女のに確かに残ったとった。

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