みかん小説
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"雨宮停留所の黄色い傘" 第12話

最のバス

佐子さんは、信夫が帰ったあと、毎週のように彼のことを尋ねるようになった。信夫はに度、施設を訪ねた。彼女が息子をいせないもある。それでも信夫は、母の好きだった甘い卵焼きや、昔の町の話を持ってきた。

彼は、父の墓参りにもったという。墓で何を話したのかは、私には教えなかった。ただ、「父が何を考えていたかは、もう決めつけないことにした」と話した。

あるの、施設から佐子さんがいなくなったと連絡があった。職員が玄関の鍵を確認しているに、裏からてしまったらしい。私は塚と緒に宮留所へ向かった。

留所には、佐子さんがいた。彼女はベンチに座り、黄い傘を膝に置いている。信夫も、しれたところにっていた。彼は母を見つけると、すぐにはづかなかった。

「佐子さん、バスはもう来ませんよ」

私が声をかけると、彼女はゆっくり顔をげた。

「っています。今は、迎えが来るんです」

信夫が歩づいた。

「母さん」

佐子さんは彼を見た。しばらくして、目を細めた。

「あなた、信夫?」

「はい」

「帰ってきたのね」

「はい。帰ってきました」

彼女は、持っていた傘を息子へ差しした。

「濡れてるじゃない。これを持っていきなさい」

信夫は傘を受け取り、母の隣に座った。の肩が触れた。音が根を叩くなか、留所のを台のが通り過ぎた。

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そのたまりに、黄い傘のが映っていた。

は、今度は留所ではなく、を見ていた。彼はゆっくりとをげると、濡れたの向こうへ歩いていった。歩くたび、制の裾から落ちていたがなくなり、最にはだけが消えた。

私は信夫に、その姿を見たか尋ねなかった。

彼は母のを握ったまま、の向こうを見ていた。

その、佐子さんは施設へ戻った。帰り、信夫は私に礼を言った。

「母が待っていたことを、あなたが教えてくれた。僕はずっと、母は僕を忘れたとっていた」

「お母さんは、あなたの帰りのを覚えていました」

「それだけで、分です」

私は、そうはわなかった。分かどうかを決められるのは、彼らだけだ。けれど、信夫は母のもとへ戻り、母は息子に傘を渡した。その瞬だけは、の空が確かにほどけたように見えた。

宮留所は、翌に撤された。町の事で、根もベンチも取り払われた。最の、私はでそこへった。面には、古い柱の跡だけが残っている。

私は、もうの姿を見なかった。

ただ、帰りのバスの窓に、黄い傘が度だけ映った。座席には誰もいない。傘の柄には、佐子さんの名がく残っていた。

私は目を閉じた。

には、見えないものが見えることがある。けれど、それが何なのかを決めるのは、見たではないのかもしれない。

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私は今も、のる曜になると、あの留所をいす。

そして、誰かが帰ってきたとき、待つのところへちゃんと辿り着けるようにと願う。

留所が撤される、信夫は町へ来て、古いベンチの板を枚だけ受け取った。町の担当者が処分に切り分けてくれたものだ。彼はその板を、母の部に置くつもりだと言った。

「母がここで待ったを、きれいないにするつもりはありません。でも、全部を消してしまうのも違う気がします」

佐子さんは、ベンチの板を触り、目を指で追った。何も言わなかったが、帰りのに乗るとき、彼女は度だけ留所のほうを振り返った。

はっていなかった。たまりもなかった。それでも私は、の端にのがっているのを見た。彼は母へを振らず、信夫へも振り返らなかった。ただ、黄い傘を閉じて、ゆっくり歩きした。

留所を撤したあと、町は跡にさな植え込みを作った。信夫は、母が好きだった陽を株植えたいと言った。町のたちは、バスのベンチを処分するに、板を枚ずつ保管してくれた。

佐子さんは、ベンチの板を部の窓辺に置いた。彼女はそれを机のように使い、信夫が訪ねてくるは、そのに湯のみをつ並べた。片方は自分の、もう片方は息子のものだ。

彼女が息子の名を忘れたも、湯のみはつ並んでいた。職員が理由を尋ねると、佐子さんは「誰かが帰ってくるから」と答えた。

私は、その話を聞いても、もう留所に誰かがっているか確かめにかなかった。待つ所は、彼女のに移っていたのかもしれない。

撤作業の、町のがベンチを囲んで写真を撮った。林さんは、佐子さんが毎週座っていた所にを置いた。誰もげさな別れの言葉を言わなかった。留所はく町の景に溶け込んでいたから、なくなると聞いて初めて、皆がその所の記憶を持っていたことに気づいた。

ベンチの板は、施設の部に置かれてから、佐子さんのさな机になった。彼女はそこに折りやを並べた。々、板をなでながら「ここで待っていたの」と言う。職員はそれを否定せず、彼女の話を聞くようになった。

私は最に、留所の跡へ度だけをげた。

撤された所にも、待ったの跡は残っていた。

そのの、宮の跡に植えた陽が初めてをつけた。信夫と美咲、施設の職員、町のたちが見に来た。佐子さんはを見て「バスが来たのね」と言い、信夫の腕にそっと触れた。そのは、誰も帰りを急がなかった。

(完)※体験談のような語りで描く創作怪談です。

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