みかん小説
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"消えた路地の矢印" 第12話

図にない

オリンピックが終わっても、京の事は止まらなかった。

の舗装は続き、古い建物が取り壊され、しいビルの骨組みが空へ伸びていった。駅にはしいができ、バスの経も変わった。々は、便利になったと話しながら、次にどこが変わるのかを気にしていた。

松横丁があった所には、もうの形は残っていなかった。の端には歩がい、がすれ違える幅ができていた。消防が入れなかった所に、今なら救急も消防も通れる。事の目は、確かに果たされていた。

ただ、以そこにあったの名は、面から消えていた。枝活版所は別の所で仕事を続け、青果は先をし移した。診療所は残ったが、通っていた患者のには、くなったを歩くのが難しくなり、族に付き添ってもらうようになったもいた。

俊は、会社でしい仕事を任されるようになっていた。標識の取り付けに現を歩き、標識の向きや見え方を確認する役目だ。杉は、以よりも頻繁に彼へ質問するようになった。

「ここに矢印をしたら、歩者はどこで渡る」

「の運転から、標識は見えるか」

「夜になったとき、文字は読めるか」

問いは細かく、答えはひとつではなかった。俊は、標識を描くに、そこを通るのきを考えるようになった。

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図に線を引いて終わりにせず、実際に歩き、ち止まり、振り返ってみる。標識は、描いたの満のためにあるのではなかった。

ある、野診療所から連絡があった。松稲荷の裏を通る仮設ルートは、事が終わったため、来で閉じることになったという。神社側は、いつまでも通をけておくことはできない。俊も、最初からそれをっていた。

彼は診療所へ向かい、野医師と野寺、直子、町内会のたちと話しった。仮設ルートを永久に残すことはできない。だが、しいの歩から診療所へ向かうを、もっとわかりやすく示すことはできる。途の角に案内板を設け、段差のないを選び、休める所も示す。神社の通が閉じたは、しくても、公だけでけるへ誘導する。

「はなくなりますね」

直子が言った。

「はい。でも、がなくなったことをらずに来るを、迷わせたくありません」

俊は、そう答えた。

直子はさく頷いた。枝活版所の仕事は、移転の半分ほどに減ったままだった。父の源治は、以ほどきな注文を受けられないことを悔しがっていたが、最はさな案内札やの名刺を刷る仕事を事にしていた。町のが所を変えるたび、しい所をらせるが必になるからだ。

「父は、が変わることをまだ好きにはなれないみたいです」

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直子は言った。

「でも、変わったを歩くがいる限り、案内を刷る仕事はあります。の町をそのまま残すことはできなくても、次の町で迷わないようにすることはできるんです」

話しいのあと、俊はしい案内板を作った。青い矢印のに、診療所、郵便局、青果、枝活版所の名を並べた。枝活版所だけは、今の所がしれているため、距と曲がる角を追加した。案内板の端には、「歩者は横断歩をご利用ください」と記した。

正式な標識として設置できる所には、会社の標識を置いた。診療所の入と商の掲示板には、直子が刷ったさな図を貼った。そこには、役所の図に載らない、歩者のための目印が描かれていた。赤い根の、壇のある角、休めるベンチ。の名ではなく、実際に歩くが見つけられるものを掛かりにしていた。

最に、俊は1枚のの板を作った。正式な標識ではない。会社の名も、役所の印もない。板には、濃い青の文字でこういた。

「診療所・商へ 歩いてく方はこちら」

矢印の先には、公だけを通るが描かれていた。し回りだが、いつでも通れる。神社のが閉まっても、事柵がいても、そのものがなくならない限り、誰かを案内できる。

俊は、その板を診療所の入くに取り付けた。

野寺が位置を確かめ、直子が見やすいさに直し、野医師が入から読めるかどうかを見た。何度か所を変え、ようやく、歩いて来るの目に入る位置が決まった。

翌朝、杖をついた女性が、板のでを止めた。以、俊が診療所まで案内した女性だった。彼女は矢印を読み、くの角を見てから、ゆっくり歩き始めた。

俊は声をかけようとして、やめた。彼女はもう、自分でを選べていた。

その数週、いがり、診療所のの案内板は端が浮いてしまった。俊が直しにくと、すでに野寺が布でを拭き、町内会の当番が釘を用して待っていた。板をしてみると、がを吸ってし反っていた。いつまでも同じ板を使うことはできない。直子は活版所で、しい案内札を刷ることを申した。の図はにいが、必なときに何枚でも刷り直せる。の板は持ちするが、が変われば描き直すがかかる。用途によって、案内の形も変える必があった。

俊は、の板をすぐに捨てず、乾かしてから塗り直した。矢印の線はし太くなり、文字の隔も変わった。最初に描いたときより、格好になったかもしれない。それでも、のにどこが見えにくくなるかをったの板だった。

しい案内札は、診療所の待にも置かれた。

患者は1枚を持ち帰り、族にを説できるようになった。町内会の掲示板には、通が変わった付としい順が貼られた。を案内する仕事は、板をてて終わるのではなく、使うと緒に直し続ける仕事になっていた。

その横を、学の男の子がってきた。板を見げ、俊に尋ねた。

「これ、図に載ってないなの?」

俊は、の板に残った刷毛の跡を見た。図に載っていないわけではない。の図とは別のに、別の目印で描かれているだけだ。けれど、その違いを説するには、まだしい話が必だった。

「図によって、描いてあるが違うんだよ」

俊は答えた。

「が通るをりたいもいるし、歩いて診療所へきたいもいる。どちらも本当のだけど、同じ図には描ききれないことがあるんだ」

男の子はよくわからないという顔をしたが、やがて頷き、友達の待つ角へっていった。

夕方、俊は会社へ戻るに、もう度その板を見た。塗料は乾き、矢印はまっすぐ伸びている。板は、オリンピックの記録にも、都計画の図面にも残らない。いつかに打たれ、がれ、取り替えられるだろう。

それでも、誰かがそこにち止まり、き先を確かめる。そのさなを支えるために、板はそこにあった。

京は、これからも変わっていく。

しいができ、古いが消え、図は何度も描き直される。俊はもう、変化を止めようとはわなかった。ただ、線を引くに、そこを歩くの元を確かめたいとった。

がしくなるとき、消えてしまうものはある。

だからこそ、次のを見つけるための矢印まで、消してはいけないのだ。

翌週、杉は俊に、しいの歩者案内を見直す仕事を任せた。そのものの形を決めることはできない。それでも、交差点でどこを見ればよいか、目まで何回曲がるのか、途に危険な所はないかを調べることはできる。俊は、最初に描いた青い矢印をいした。あの矢印は違ってはいなかった。ただ、矢印の先につの姿を、彼は考えていなかった。

今度は、標識を取り付けるに、必ず自分でそのを歩くつもりだった。できれば、荷物を持つと、の遅いと、初めて来たにも歩いてもらう。ひとつのが誰にとっても同じように見えるとは限らないことを、忘れないために。

翌週、杉は俊に、しいの歩者案内を見直す仕事を任せた。そのものの形を決めることはできない。それでも、交差点でどこを見ればよいか、目まで何回曲がるのか、途に危険な所はないかを調べることはできる。俊は、最初に描いた青い矢印をいした。

あの矢印は違ってはいなかった。ただ、矢印の先につの姿を、彼は考えていなかった。

今度は、標識を取り付けるに、必ず自分でそのを歩くつもりだった。できれば、荷物を持つと、の遅いと、初めて来たにも歩いてもらう。ひとつのが誰にとっても同じように見えるとは限らないことを、忘れないために。

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