"年収三千万円の嘘" 第2話
夫の言い訳
美が逃げるようにった、私は健太を寝へかせた。
「お母さん、しお父さんと事なお話があるから、先にお布団に入っていてね」
健太は何かを察したようにげな瞳を向けたが、素直に頷いて部のドアを閉めた。息子が本当に眠りについたかを確認してから、私はリビングのソファに腰をろし、向かいにつ康太を見据えた。
「美さんと、いつからああいう付きいをしているの」
「ああいう付きいって何だよ! ただのクラブ仲だって言っただろ!」
「夜に、妻が留守だとい込んでに連れ込む関係を、ただのりいとは呼ばないわ」
「だから! あいつはシングルマザーでいろいろ変なんだよ。俺が主夫で昼けるから、愚痴を聞いたり相談に乗ったりしてただけだ。ろ暗いことなんて何もないね!」
康太は振りを交えて声をした。
証拠でもあるのか、やましいことがないのに浮気扱いするな、と逆に被害者のようにり狂う。
医師という職業柄、私は頃からなパニックに巻き込まれず、客観事実とエビデンスに基づいて状況を切り分ける習慣がついていた。いまここで鳴りいを演じたところで、相が頑なに否定する以、の消耗戦にしかならない。
私はく、落ち着いた声で告げた。
広告
「事実関係はともかく、つだけはっきり言っておくわ。今、健太を放置して彼女と密会するようなことがあれば、私は即座に婚を申してます」
「……は? 婚?」
「それから、活費とは別にあなたに渡している毎のお遣いも、幅に減額します」
「なっ……なんでだよ! 急にそんなの困るだろ!」
「このの計は、居費から費、あなたの輪代まで百パーセント私の与からているわ。族として暮らすための活費は全額すけれど、で浮気まがいの見栄を張るための遊興費まで、私が汗流して稼いだからす筋いはないのよ」
「見栄なんて張ってない!」
「なら、お遣いが減っても困らないはずよね」
康太は悔しそうに唇を噛み締めたが、それ以はいがってこなかった。
現のマンションの名義は私であり、彼の名義の目った貯蓄などない。専業主夫として経済に完全に私に依しているである以、私が本気でくだり半を突きつければ、に迷うのは自分だと理解したのだろう。
それから数週の、康太の態度は目に見えて変した。
朝起きてくれば朝が並び、シンクに洗い物が溜まることもなく、夜帰宅すれば「まりな、今も遅くまでお疲れ様」と笑顔で迎え入れてくれる。健太のサッカーの送り迎え以で審に歩く様子もなく、夫として、父親としての務めをに果たしているように見えた。
広告
「康太、いつもを綺麗にしてくれてありがとうね」
「いいよ、これが俺の仕事なんだから。今まで甘えてて悪かったよ。これからは族第でちゃんとやるからさ」
過酷な当直けの体に、夫の改が染み渡るようだった。
もしかしたら、私が仕事を詰め込みすぎたせいで夫を寂しくさせ、へ目を向けさせてしまったのではないか――そんな自責のすら湧いてきて、私は病院に当直数の見直しを相談しようかと本気で考え始めていた。
だが、現実はそれほど甘くはなかった。
ある平の夕、リビングで宿題を広げていた健太が、消しゴムをかすを止めてふと私を見げた。
「ねえ、お母さん」
「ん? どうしたの、健太」
「お父さんとさ、彩ちゃんのお母さんって、やっぱりすごく仲良しなの?」
背筋がら寒くなった。
「……どうしてそんなこと聞くの?」
「今ね、サッカーの練習が終わったあと、みんなでくのファミレスにったんだよ。でも、お父さんと彩ちゃんのお母さん、『ちょっとの買いしにってくるから』って言って、俺と彩ちゃんだけ席に残して、くらい戻ってこなかったんだ」
私のので、警告音がけたたましく鳴り響いた。
「……きりで残されたの?」
「うん。ポテトとパフェ頼んでくれたからべて待ってたけど、すっごくくて退屈だった」
ちょうどその、洗面所から交じりに康太がリビングへ戻ってきた。
私は努めて平坦な声で、夫の顔を見据えた。
「康太。今の練習のあと、美さんとでどこへっていたの?」
康太の顔から、瞬でが消え失せた。
「……あ? いや、ちょっとくのショッピングモールで、クラブで使う備品を見てただけだよ」
「も?」
「モールが広くてさ、レジも混んでたんだよ」
「健太と彩ちゃんをファミレスの席にだけで放置してまで?」
「学学だぞ? ドリンクバーもあるし、それくらい留守番できるだろ!」
そのき直った言を聞いた瞬、私ので張り詰めていた最の糸が、音をてて断ち切れた。
貞為の無など、もはやどうでもよかった。
幼い子どもたちを実に利用し、見らぬに何も置きりにして逢瀬をねておきながら、悪びれもせず「育児をしている」と言い張るこの男。
このとこれ以同じ根ので暮らし、健太の父親として仰ぐことなど、絶対に能だと悟った。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
二人きりのはずだった旅行
結婚以来、義母のわがままと、それを当然のように受け入れる夫・俊也に振り回されてきた由香。二人きりの結婚記念日旅行まで義母に台無しにされた翌年、夫は「今度こそ二人だけで行こう」と約束する。ところが出発当日、玄関には大きな旅行鞄を抱えた義母の姿が。「家族なんだからいいだろ」と開き直る夫に、由香は思い切った行動に出る。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題3.0万字5 33 -
完結第20話
娘の披露宴に新郎側が全員欠席――清掃員の夫が動いた
一人娘の紗良が待ち望んだ結婚式。しかし披露宴当日、新郎側の42席はすべて空席だった。ようやくかかってきた婚約者からの電話には、「結婚なんて冗談だ」という声と、清掃員の父を見下す家族の笑い声。泣き崩れる娘を抱きしめる母・千尋の隣で、いつも穏やかな夫・涼一が静かに言った。「あの一族は、もう切る」。翌朝から、新郎一家の電話が鳴りやまなくなる。三十一年間、黙々と床を磨いてきた夫には、家族さえ知らない一面があった。あの一言には、いったいどんな意味が隠されていたのか。因果応報|人生逆転|夫婦|第二の人生2.7万字5 115 -
完結第18話
昭和27年、戦争未亡人が開いた小さな店の50年
昭和27年の春。戦争で夫を亡くした三十歳の女性は、八歳の息子を育てるため、自宅の一角に小さなたばこ屋を開いた。初めて売れた一箱のピース。窓の横で宿題をする息子。毎朝やってくる常連客。決して楽な暮らしではなかったが、小さな窓の向こうには、いつも誰かの声があった。やがて息子は成長し、町には自動販売機が増え、馴染みの客も一人、また一人と姿を消していく。そして開店から五十年、彼女は店を閉める決心をする。時代|歴史|昭和|夫婦3.7万字5 26 -
完結第20話
「子なし」と笑われた私に、姪が吹雪の夜に土下座した
43歳の望は、子どもがいないことを理由に、義兄夫婦から嫌味を言われ続けていた。そんな望を慕ってくれるのは、8歳の姪・メイ。しかし正月の夜、猛吹雪の中、幼い妹を背負ったメイが望の家を訪ねてくる。「三千円だけ貸してください。大きくなったら返します」そう言って床に頭を下げる少女。事情を聞いた望と夫の剛は、義兄夫婦が隠してきた恐ろしい実態を知る。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|絶縁1.9万字5 84 -
完結第10話
赤ワインの余興
義妹・真由美の結婚披露宴で、突然赤ワインを浴びせられた美桜。義母も親族も「ただの余興」と笑い、夫の達也まで美桜を責め立てる。 結婚して三年。貧しい嫁だと見下され、家族の言いなりになってきた美桜だったが、実は誰にも明かしていない秘密があった。 しかも、名門病院の跡取りとの結婚を喜ぶ義妹には、恐ろしい裏の顔があった。美桜の手元には、披露宴前夜に録音された決定的な会話が残されている。 華やかな祝宴の裏で進む金と欲望の企み。美桜が静かにスマホを取り出したとき、すべてが動き始める。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生1.9万字5 90 -
完結第10話
母の農地を狙う夫と離婚――元義母が見た光景
母が女手一つで守ってきた農地を、会社の借金の担保に使いたい。夫・明の身勝手な申し出を拒んだ奈津美は、義母からも実家を見下され、ついに離婚を決意する。故郷へ戻った彼女は、農作業のためにビニールハウスの隣に仮住まいを設けるが、噂はいつしか「家もなく、ハウスで寝泊まりしている」と広まってしまう。元嫁の転落を喜ぶ義母は、その惨めな姿を見ようとわざわざ訪ねてくる。しかしその頃、奈津美は農家仲間と新たな挑戦を始めていた。再会の日、元夫と義母が目にした光景とは――。因果応報|人生逆転|夫婦|相続|親子関係|金銭問題1.3万字5 80 -
完結第15話
認知症の父を選んだ私を捨てた夫、5年後の再会
「俺と、あのボケた親父。どっちを選ぶんだ?」 認知症と診断された父を支えようとした都子は、夫の一郎から離婚を突きつけられる。長年の夢だった洋食店の継承も難しくなり、介護と生活に追われる日々。それでも地域の支援を頼り、父の料理を生かした新しい仕事に挑戦する。 五年後、介護事業者の交流会で元夫と偶然再会。若く美しい社長の妻と子どもがいると自慢する一郎だったが、都子は彼が指さした女性をよく知っていた。嫁姑|夫婦|親不孝3.1万字5 575 -
完結第11話
倒産寸前の事務所が雇った、子連れ清掃員の正体
倒産寸前の「桐生デザイン事務所」に、五歳の娘を連れた清掃員志望の女性・高瀬さち子が現れた。履歴書には、東大大学院修了、一級建築士、大手設計事務所の元チーフという驚くべき経歴。しかし彼女は、二度と設計の仕事には戻らないと言い張る。娘の何気ない一言をきっかけに、事務所に小さな転機が訪れるが、さち子は図面に触れることさえ恐れていた。彼女が三年前に失ったものとは何なのか。そして、過去の事故に隠された真実とは。再起をかけた小さな事務所の逆転劇が始まる。職場逆転|人生逆転|第二の人生1.6万字5 269 -
完結第20話
60日間見舞いゼロの夫、退院した妻に600万円を要求
突然の心臓病で緊急手術を受け、生死の境をさまよった美桜。六十日間の入院中、夫も義母も義妹も一度として見舞いに来なかった。届くのは、義母への月六百万円の送金を催促する連絡ばかり。家族だと信じて尽くしてきた美桜は、ついに夫との決別を決意する。しかし剛田家の人々は、美桜の本当の素性も、自分たちの会社や豪邸が誰によって支えられているのかも知らなかった。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|金銭問題2.4万字5 1280