"もやしと消えた仕送り" 第6話
暴かれた無職と崩壊する仮面
「取りが……万ちょっと……? な、何かの違いでしょ、久し!」
義母の淑恵は、の端が破れそうなほどく細を握りしめ、甲い声で叫んだ。
員として支に勤め、同代よりもずっとい料をもらっている自の息子。その息子の料袋にかれた現実の数字が、どうしても信じられないようだった。
「久し、これ何よ! 残りの料はどこへ消えたの!? あんた、まさか会社で何か祥事でも起こして、お料を差し引かれてるんじゃないでしょうね!?」
詰め寄る義母に対し、久しは青ざめた顔を伏せ、まるで蛇に睨まれたカエルのように縮こまっていた。額からは粒の脂汗がぽたぽたと畳に落ち、いたからはをなさない掠れた息が漏れるばかりだった。
そんな息子の姿に業を煮やしたのか、義母は再び私に向かってりの矛先を変えた。
「ちょっと里見さん! あんたが何か細したんでしょ! こんな鱈目なを印刷して、私たち親子を騙そうとしたってそうはいかないわよ!」
「お義母さん、現実から目を背けないでください」
私はため息混じりに、たい声で言った。
「その細は、先届いた本物の源泉徴収と与細です。久しさんがを辞めたのは、もうヶものことですよ」
「は……? 辞めた……?」
義母は鳩が豆鉄砲をったような顔で固まった。
広告
「関係に疲れたとか言って、私にも事の相談なしで勝に退職届をしてきたんです。今は週にほど、りいの伝でデータ入力のアルバイトをしているだけ。その万円は、彼が自分のお遣いとして全部使い切っています」
「ひ、久し……本当なの……? あんた、を辞めたの……!?」
義母が恐る恐る振り返ると、久しは観したようにギュッと目を瞑り、わずかに首を縦に振った。
その瞬、部の空気が変した。
義母の顔から急速に血の気が引き、陶器のように真っになったかとうと、次の瞬にはの先まで真っ赤に染めがっていった。
「あんた、正気なの!? の員だからこそ、親戚にも所のにもがかったんじゃないの! それを勝に辞めてバイト暮らしだなんて、何考えてるのよ! 恥ずかしくても歩けないじゃない!」
「だ、だって……母さんだってってるだろ! 支からのパワハラが酷かったんだよ! 胃に穴がきそうだったんだ!」
久しが子供のように顔を歪めて叫び返した。今まで私ので見せていた「物静かで理な夫」の姿はどこにもなく、母親に甘え、責任を押し付けようとするただの甘ったれた男の顔だった。
「だからって、なんで私に黙ってたのよ! 嫁に養ってもらってるなんて、男としてけないとわないの!? この役たず!」
広告
「役たずって言うなよ! そもそも、母さんが『あれが欲しい』『座のフレンチに連れてけ』って毎うるさくねだるからだろ! 俺だって見栄を張りたかったんだよ! 母さんに格好いい息子のままでいてほしかったから、里見のおを黙って渡してたんじゃないか!」
「なっ……! 私のせいにする気!? 親にお遣いをあげるのは息子の義務でしょ! それを嫁のおで誤魔化してたあんたが番悪いんじゃない!」
リビングに響き渡る、醜悪な親子の罵りい。
ほんの数分まで「親子の絆」だの「優しい息子」だのと自げに語りっていたが、利害が致しなくなった途端、互いに責任をなすりつけって仕を演じている。
私は腕を組み、ややかな線でその景を眺めていた。りを通り越して、ただただ浅ましく、れにえてならなかった。
私の母は、自分がべるものすら削って、娘に迷惑をかけまいと必に耐えていた。
それなのに、この親子はの稼ぎを貪りい、最には互いの首を絞めっている。
「もういいから帰ってくれよ!」
久しがを抱えて叫んだ。
「これ以ここにいたら、俺本当におかしくなりそうなんだ! 母さん、頼むから帰ってくれ!」
実の息子から激しい剣幕で拒絶された義母は、息を呑んで絶句した。
プライドをズタズタに引き裂かれた義母は、悔しそうに肩を震わせ、玄関へと向かった。
そして靴を履きながら、最に私を親の仇のように睨みつけた。
「あんたのせいよ……! あんたが余計なことをして、通帳を止めたりするからこんなことになったのよ! 絶対に許さないからね!」
バタン! と鼓膜が破れそうな音をてて玄関ドアが閉まり、部には苦しい沈黙が残された。
嵐がったあとのリビングで、久しはに崩れ落ちるように正座し、額をフローリングにこすりつけるようにしてくをげた。
「里見……本当にすまなかった! 俺が悪かった! 母さんに渡したおは、バイトを増やして必ず全額返すから……! 頼むから、許してくれ……!」
涙声で許しを請う夫のから、私はの籠もっていない、乾いた声を落とした。
「何に対して謝っているの?」
「え……? だ、だから……里見のおを、勝に母さんに渡していたこと……」
「それだけ?」
久しはびくっと肩を震わせ、すがるような目で私を見げた。
「それ以に……何があるんだよ……?」
「私の母のことよ」
その言をにした瞬、私の胸の奥で燻っていたたいりが、静かに燃えがった。
「私の母がもやしばかりべているって話、あなたにだけ打ちけたわよね。配でたまらないって相談した私を、裏で笑いものにしていたんでしょう? 『貧乏にはもやしがお似い』って、お義母さんと緒に嘲笑いながら」
久しの顔が、今度こそ完全に凍りついた。
言い逃れのできない証拠を握られていることを悟り、彼は震える唇をわなわなと震わせるだけで、度と言葉を発することができなくなった。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
3年ぶりの帰省、弟嫁がゴミ箱を漁っていた理由
32歳の玲奈は、3年ぶりに実家へ帰り、弟の妻・南が別人のように痩せていることに驚く。夕食の席でも南の前には料理がなく、家族は誰も気に留めない。その深夜、台所で物音を聞いた玲奈は、ゴミ箱を漁る南の姿を目撃する。「食べられるものを探していました」――その言葉をきっかけに、母と弟が南に強いていた異常な暮らしが明らかになっていく。さらに、南が隠し持っていた手帳には、翌朝に迫る恐ろしい約束が記されていた。玲奈は弟嫁を守るため、信じていた家族と向き合う決意をする。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|修羅場2.4万字5 14 -
完結第11話
新婚初夜の裏切り
結婚式を終えた夜、美香はホテルの浴室から、夫の健太が自分のバッグを探る姿を目撃する。持ち去られたのは、父から贈られた1億円の預金口座のキャッシュカードだった。翌朝、健太は「弟の用事がある」と言ってホテルを出ていく。以前から義母と義弟は、8800万円の新居を欲しがっていた。まさか、私のお金で家を買うつもりなの? 夫を問い詰めず、黙って様子を見る美香。やがて不動産会社から、思いもよらない電話がかかってくる。結婚初日に露わになる夫の本性と、美香が密かに用意していた対抗策とは。兄弟姉妹|夫婦|ATM扱い|金銭問題1.8万字5 13 -
完結第16話
二人きりのはずだった旅行
結婚以来、義母のわがままと、それを当然のように受け入れる夫・俊也に振り回されてきた由香。二人きりの結婚記念日旅行まで義母に台無しにされた翌年、夫は「今度こそ二人だけで行こう」と約束する。ところが出発当日、玄関には大きな旅行鞄を抱えた義母の姿が。「家族なんだからいいだろ」と開き直る夫に、由香は思い切った行動に出る。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題3.0万字5 485 -
完結第18話
夜勤明けに鍵を替えられた私
看護師長として働く千歳は、後輩に昇進で追い抜かれ、仕事を休みがちになった夫・徹を支えようとしていた。ところが徹は次第に横柄になり、家事を押しつけ、「妻なら夫に従え」と言い始める。そんなある朝、夜勤を終えて帰宅した千歳は、玄関の鍵が替えられていることに気づく。「ダメ嫁への躾だ。謝れば入れてやる」と笑う夫に、千歳は「あっそ。さようなら」とだけ告げて立ち去った。妻が本気で戻らないと知った徹は、どんな行動に出るのか。自分の人生を取り戻そうとする女性の再出発を描く物語。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.6万字5 43 -
完結第20話
夫の昇進を伝えた瞬間、父が命じた全財産の移転
夫・達也の専務昇進を喜んだ美桜。ところが父に報告すると、返ってきたのは祝福ではなく、「財産をすべて母さんの名義に移しなさい」という不可解な指示だった。昇進を境に夫は横柄になり、義母まで豪邸と通帳を自分たちのもののように扱い始める。さらに、高額な宝石の領収書や会社の不審な資金移動が見つかり、美桜は夫の裏の顔を知っていく。嫁姑|夫婦|金銭問題2.5万字5 30 -
完結第20話
「子なし」と笑われた私に、姪が吹雪の夜に土下座した
43歳の望は、子どもがいないことを理由に、義兄夫婦から嫌味を言われ続けていた。そんな望を慕ってくれるのは、8歳の姪・メイ。しかし正月の夜、猛吹雪の中、幼い妹を背負ったメイが望の家を訪ねてくる。「三千円だけ貸してください。大きくなったら返します」そう言って床に頭を下げる少女。事情を聞いた望と夫の剛は、義兄夫婦が隠してきた恐ろしい実態を知る。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|絶縁1.9万字5 499 -
完結第10話
母の農地を狙う夫と離婚――元義母が見た光景
母が女手一つで守ってきた農地を、会社の借金の担保に使いたい。夫・明の身勝手な申し出を拒んだ奈津美は、義母からも実家を見下され、ついに離婚を決意する。故郷へ戻った彼女は、農作業のためにビニールハウスの隣に仮住まいを設けるが、噂はいつしか「家もなく、ハウスで寝泊まりしている」と広まってしまう。元嫁の転落を喜ぶ義母は、その惨めな姿を見ようとわざわざ訪ねてくる。しかしその頃、奈津美は農家仲間と新たな挑戦を始めていた。再会の日、元夫と義母が目にした光景とは――。因果応報|人生逆転|夫婦|相続|親子関係|金銭問題1.3万字5 362