"もやしと消えた仕送り" 第10話
温かい湯気と青い空
義実での修羅からヶが経過した。
弁護士を介してめられた婚続きは、驚くほどスムーズに完した。
久しが活費を切入れていなかったこと、そして私の座から義母へ正に資が流していた確な証拠を提示した結果、財産分与において久しの取り分はゼロとなった。
当然、義母は弁護士事務所に「息子に銭も渡さないなんて詐欺だ!」と鳴り込んできたらしいが、弁護士から「これ以騒ぎてるなら、族カードの正利用および横領罪で刑事告訴の続きに入ります」と淡々と告げられると、蜘蛛の子を散らすように逃げり、それ以は切の連絡が途絶えた。
麻美さんからの談によると、元夫と義母は親戚同から完全に絶縁されたという。
定職のない久しと、見栄を張れなくなった義母。は今、古い実に閉じこもり、毎のように「あんたのせいでが狂った」とお互いを罵りいながら暮らしているそうだ。
かつてあれほど固に見えた歪んだ親子の絆は、おという接着剤を失った途端、見るもなく崩壊したのだった。
だが、そんなの幸に浸る暇など、今の私にはない。
の爽やかな青空が広がる曜の昼がり。
私は母を連れて、彼女のむ団の最寄り駅くにある、さな衆堂を訪れていた。
広告
「へえ、いい匂いねぇ。ここ、ずっと気になってたのよ」
母は季の入った紺の簾をくぐりながら、嬉しそうに目を細めた。
入れされた髪に、先でデパートへって調した若のスプリングコート。以の痩せこけて青かった面はなく、頬にはほんのりと赤みが差し、背筋もしっかりと伸びている。
「お母さん、何でも好きなもの頼んでね。お肉でも、お魚でも」
テーブル席に腰掛け、プラスチックのメニュー表を広げると、母は楽しそうに指を滑らせた。
「うーん、どれも美しそうで迷っちゃうわね。豚の姜焼きも捨てがたいし、サバの噌煮も美しそう……あ、でもね」
母がくすりと笑いながら指差したのは、メニューの端にある『肉野菜炒め定』だった。
「やっぱり、これにするわ。もやしがたっぷり入った野菜炒め」
「えっ、お母さん、またもやし? あんなにべたのに、まだ飽きてないの?」
私がわず苦笑すると、母はいたずらっ子のようにウインクしてみせた。
「だって、もやし自体に罪はないじゃない? シャキシャキして美しいし、くて計を助けてくれる、とってもいい子よ。あのたちに悪を言われたからって、嫌いになってあげる筋いはないわ」
そのカラッとした言葉に、私はわず吹きしてしまった。
「ふふっ、それもそうだね! じゃあすみません、肉野菜炒め定つと、あと唐揚げも単品で追加してください!」
広告
「ちょっと里見ちゃん、そんなに頼んでべきれるの?」
「丈夫! 残ったら私が全部べるから!」
運ばれてきた定からは、ばしい醤油とごま油の湯気がちっていた。
盛りの野菜炒めを箸でつまみ、に運ぶ。もやしのシャキシャキとしたと、豚肉の旨がいっぱいに広がり、わずで顔を見わせて「美しいね」と笑いった。
あの、夫を失い、信じていた結婚活は音をてて崩れった。
けれど、私には何も悔いはなかった。
失ったのは、私をづるとしかっていなかった偽物の族だけだ。
その代わりに、私は母の命を守り、本当の絆を取り戻すことができた。
事を終えてにると、初のよいが通りを吹き抜けていった。
「里見ちゃん、今はごちそうさま。本当に美しかったわ」
「ううん。また来週も美しいものべにこうね」
「ええ、楽しみにしているわ」
母のを握ると、のにじたのと同じ、じんわりとした温もりが伝わってきた。
誰かの見栄や欲のためにきるのではなく、本当に切なと、温かいご飯を分けってきていく。
その何気ない常の眩しさを噛み締めながら、私たちは澄み渡る青空のを、並んでゆっくりと歩きした。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
3年ぶりの帰省、弟嫁がゴミ箱を漁っていた理由
32歳の玲奈は、3年ぶりに実家へ帰り、弟の妻・南が別人のように痩せていることに驚く。夕食の席でも南の前には料理がなく、家族は誰も気に留めない。その深夜、台所で物音を聞いた玲奈は、ゴミ箱を漁る南の姿を目撃する。「食べられるものを探していました」――その言葉をきっかけに、母と弟が南に強いていた異常な暮らしが明らかになっていく。さらに、南が隠し持っていた手帳には、翌朝に迫る恐ろしい約束が記されていた。玲奈は弟嫁を守るため、信じていた家族と向き合う決意をする。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|修羅場2.4万字5 14 -
完結第11話
新婚初夜の裏切り
結婚式を終えた夜、美香はホテルの浴室から、夫の健太が自分のバッグを探る姿を目撃する。持ち去られたのは、父から贈られた1億円の預金口座のキャッシュカードだった。翌朝、健太は「弟の用事がある」と言ってホテルを出ていく。以前から義母と義弟は、8800万円の新居を欲しがっていた。まさか、私のお金で家を買うつもりなの? 夫を問い詰めず、黙って様子を見る美香。やがて不動産会社から、思いもよらない電話がかかってくる。結婚初日に露わになる夫の本性と、美香が密かに用意していた対抗策とは。兄弟姉妹|夫婦|ATM扱い|金銭問題1.8万字5 13 -
完結第16話
二人きりのはずだった旅行
結婚以来、義母のわがままと、それを当然のように受け入れる夫・俊也に振り回されてきた由香。二人きりの結婚記念日旅行まで義母に台無しにされた翌年、夫は「今度こそ二人だけで行こう」と約束する。ところが出発当日、玄関には大きな旅行鞄を抱えた義母の姿が。「家族なんだからいいだろ」と開き直る夫に、由香は思い切った行動に出る。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題3.0万字5 485 -
完結第18話
夜勤明けに鍵を替えられた私
看護師長として働く千歳は、後輩に昇進で追い抜かれ、仕事を休みがちになった夫・徹を支えようとしていた。ところが徹は次第に横柄になり、家事を押しつけ、「妻なら夫に従え」と言い始める。そんなある朝、夜勤を終えて帰宅した千歳は、玄関の鍵が替えられていることに気づく。「ダメ嫁への躾だ。謝れば入れてやる」と笑う夫に、千歳は「あっそ。さようなら」とだけ告げて立ち去った。妻が本気で戻らないと知った徹は、どんな行動に出るのか。自分の人生を取り戻そうとする女性の再出発を描く物語。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.6万字5 43 -
完結第20話
夫の昇進を伝えた瞬間、父が命じた全財産の移転
夫・達也の専務昇進を喜んだ美桜。ところが父に報告すると、返ってきたのは祝福ではなく、「財産をすべて母さんの名義に移しなさい」という不可解な指示だった。昇進を境に夫は横柄になり、義母まで豪邸と通帳を自分たちのもののように扱い始める。さらに、高額な宝石の領収書や会社の不審な資金移動が見つかり、美桜は夫の裏の顔を知っていく。嫁姑|夫婦|金銭問題2.5万字5 30 -
完結第20話
「子なし」と笑われた私に、姪が吹雪の夜に土下座した
43歳の望は、子どもがいないことを理由に、義兄夫婦から嫌味を言われ続けていた。そんな望を慕ってくれるのは、8歳の姪・メイ。しかし正月の夜、猛吹雪の中、幼い妹を背負ったメイが望の家を訪ねてくる。「三千円だけ貸してください。大きくなったら返します」そう言って床に頭を下げる少女。事情を聞いた望と夫の剛は、義兄夫婦が隠してきた恐ろしい実態を知る。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|絶縁1.9万字5 499 -
完結第10話
母の農地を狙う夫と離婚――元義母が見た光景
母が女手一つで守ってきた農地を、会社の借金の担保に使いたい。夫・明の身勝手な申し出を拒んだ奈津美は、義母からも実家を見下され、ついに離婚を決意する。故郷へ戻った彼女は、農作業のためにビニールハウスの隣に仮住まいを設けるが、噂はいつしか「家もなく、ハウスで寝泊まりしている」と広まってしまう。元嫁の転落を喜ぶ義母は、その惨めな姿を見ようとわざわざ訪ねてくる。しかしその頃、奈津美は農家仲間と新たな挑戦を始めていた。再会の日、元夫と義母が目にした光景とは――。因果応報|人生逆転|夫婦|相続|親子関係|金銭問題1.3万字5 362