"144枚の給与明細" 第5話
居酒の告発と億円の罠
そのの夜、宮のスマートフォンに藤からいメッセージが届いた。
『仕事が終わったら、うちに来てくれ。話がある』
午過ぎ、宮が藤のむアパートを訪ねると、さな居にはすでに酒の匂いが満ちていた。テーブルのには、宮の好きな芋焼酎の瓶と、駅のテイクアウト専の焼き鳥で買ってきた皮とレバーの塩焼きが、皿いっぱいに盛られていた。
「わざわざ買ってきてくれたのか」
「いいから座れよ。今はまなきゃやってられないだ」
藤は湯呑みに焼酎をなみなみと注ぐと、ビジネスバッグのから枚のいを取りし、宮のに置いた。
そこには、几帳面な藤の字で署名された『退職届』の控えがあった。
「……藤。お、本当に辞めたのか」
「言っただろ。おが辞めるなら僕も辞めるって」
藤は鏡をし、目を指でく押さえた。その肩がわずかに震えているのを見て、宮は湯呑みを握りしめたまま、言葉を詰まらせた。
「何があったんだ」
「……専務の奥にある庫の鍵を、秘から借りてね。会に言われた通り、ミヤビ精の支払い伝票と過の稟議の控えをコピーしたんだ。そしたら、コピーからを取りした瞬に、藤専務がろにってたよ」
藤は自嘲気に元を歪めた。
広告
「『ミヤビ精の記録を誰かに漏らしたら、横領の共犯として警察に突きすぞ』って、机をバンバン叩いて脅されたよ。だからそので言ってやったんだ。『こんな汚い帳簿をつけるために経理をやってるんじゃない。本付で辞めさせていただきます』ってね」
藤は焼酎を気に煽り、鞄から分いクリアファイルを取りして広げた。
「、これを見てくれ」
類には、過にわたって毎万円、百万円が『技術指導料』という名目でミヤビ精の座へ振り込まれていた記録が々しく残されていた。
「の計で、千百万円だ」
藤は悔しそうに奥歯を噛み締めた。
「僕は、この伝票をからへ処理していたんだ。専務の決済印が押してあるからって、度も疑わずに帳簿に乗せていた。……おの料を横取りする片棒を、僕が担いでいたようなものだよ。本当にすまなかった……!」
「おのせいじゃない」
宮は藤の肩にを置き、静かに首を横に振った。
「見つけてくれたのはおだ。謝る筋いなんてどこにもない」
「でもな、。問題はこれだけじゃないんだ」
藤はファイルのから、もう枚の類を抜きした。朱の『緊急』というスタンプが押された、型の資移稟議だった。
「先の予算会議で僕が止めた、への設備投資の払い——億円の送申請だ。
広告
予算ではアジアの提携宛てになっていたのに、実際の振込先座の欄を見てみろ」
宮が類を覗き込むと、そこには見覚えのある文字が印字されていた。
『振込先: 普通預 限会社ミヤビ精』
宮の背筋を、たい刃物を押し当てられたような悪寒が駆け抜けた。
「……億全額を、ミヤビ精へ流すつもりだったのか?」
「そうだよ。への設備投資なんて、最初からただの隠れ蓑だったんだ。藤専務は、おの料から抜いた千万いでのダミー会社をちげ、さらに会社の億円を気に吸いげたあと、おを倉庫へ追いして都自の百億円の仕事ごと自分の会社で横取りするつもりだったんだよ!」
藤は震えるで焼酎のグラスを握りつぶしそうなほど力を込めた。
「法務局でミヤビ精の登記簿謄本を取ってきたよ。代表者の欄にかれていた名は、藤専務が員代にがっていた元部の名だった。藤本の名は、のどこにもてこない。完全にトカゲの尻尾切りができるように仕組まれてるんだ」
完璧に張り巡らされた、者ならではの巧妙な資洗浄の罠。
宮が、作業で守り抜いてきた現の誇りと技術が、この男の底れない欲によって、すべてい物にされようとしていた。
そのだった。
テーブルのに置いてあった宮のスマートフォンが、く振した。
画面に表示されたのは、都自の品質管理部・佐々氏の携帯番号だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
半額を迫る料亭女将、クビにした社員が電話を切った結果
小さなおしぼり会社「双葉物産」を経営する正は、大口取引先の高級料亭「よし乃」の女将から、突然「半額にしなければ契約を切る」と迫られる。会社を守るため要求をのもうとした瞬間、昨日クビにしたばかりの問題社員・刑事が受話器を奪い、勝手に取引を断ってしまった。倒産の危機に頭を抱える正。ところが数日後、強気だった女将に思わぬ事態が起こる。口が悪く、金の使い込みまでしていた元従業員は、いったい何を考えていたのか。弱小企業と高級料亭の立場が一変する、痛快な逆転劇。職場逆転|因果応報|人生逆転|金銭問題1.1万字5 41 -
完結第12話
「清掃員の面接?」元看護学生が15年後に明かした正体
病気の母を支えるため、看護師を目指していた松田さえ。実習先の総合病院で、院長の娘・服部みな子から理不尽な扱いを受けていた。ある日、さえは入院患者の小さな異変に気づき、医師に報告して命を救う。しかし、みな子はその手柄を横取りしたうえ、悪意のある実習評価で奨学金まで打ち切らせてしまう。夢を奪われ、母にも本当のことを言えずにいたさえ。そんな彼女に、思いがけない人物が手を差し伸べる。そして十五年後、さえはかつて追い出された病院へ戻ってくる。職場逆転|人生逆転|第二の人生1.4万字5 191 -
完結第10話
腎臓をあげた私に離婚届――夫の隣には若い女
三歳の娘を育てる裕子は、重い腎臓病になった夫・英司を救うため、自分の腎臓を一つ提供した。ところが手術後、体調を崩した裕子を待っていたのは、夫からの暴言と冷たい仕打ちだった。やがて英司は、若い女との新生活を理由に離婚届を突きつけ、娘まで奪おうとする。そんな裕子の味方になったのは、意外にも義母だった。命を救ってくれた妻を平然と捨てようとする夫。すべてを失いかけた裕子は、娘と自分の人生を守るため、反撃を決意する。夫婦|真実|裏の顔|真相|第二の人生1.4万字5 408 -
完結第12話
新幹線で母娘の席を奪った女、現れた女性を見て絶句
五歳の娘パニミと夏休みの帰省を楽しみにしていた、弁当店を営むシングルマザーのパニコ。新幹線の自由席でようやく親子並んで座れたものの、見知らぬ女性に突然コーヒーをこぼされてしまう。服を拭くため席を外したわずかな間に、その女性は荷物を床へ放り出し、二人の席を奪っていた。娘を守るため、悔しさをこらえてデッキへ向かったパニコ。そこで偶然、日頃から世話になっている立花会長と再会する。事情を聞いた会長が一緒に席へ戻ると、先ほどまで威張っていた女性の顔色が一変して……。怒り|真相|親子関係|修羅場1.2万字5 11 -
完結第12話
終電の次の駅は私の名前――ホームには亡き祖母がいた
都内の広告会社で働く28歳の佐伯美咲は、毎晩のように終電で帰る生活を続けていた。ある夜、車内で目を覚ますと、乗客は自分一人。窓の外に街の明かりはなく、車内放送は駅名ではなく人の名前を告げ始める。停車するホームに現れるのは、亡くなった同級生や懐かしい祖母。そしてついに、放送が美咲自身の名前を呼んだ。右の扉の向こうで手招きする祖母と、姿の見えない運転士。美咲はこの不思議な終電から、元の世界へ帰れるのか。疲れ切った日常に忍び込む、少し切ない怪異譚。日常ホラー|職場逆転|祖父母と孫|第二の人生1.1万字5 14 -
完結第10話
消えた卵の秘密
茜の家では、父の再婚相手・美津江が届けてくれる卵が、なぜか毎回なくなっていた。夜中につまみ食いをする夫の陽斗を疑っていた茜だったが、ある日、卵をこっそり持ち出す小学一年生の娘・凛を目撃する。「急に卵が嫌いになった」と泣く娘。しかし、いつもは素直な凛の様子はどこかおかしかった。そんな中、美津江から再び大量の卵が届く。茜は娘のために手作りプリンを用意するが、それを食べた美津江は、材料を聞いた途端に顔色を変えてしまう。娘が必死に隠していた秘密とは、いったい何だったのか。祖父母と孫|真実|真相|第二の人生1.4万字5 265 -
完結第12話
五歳の母ちゃん
両親を事故で亡くしたシンジは、五歳の妹・楓を育てながら、昼も夜も働いていた。そんなある日、楓が「母ちゃんが来た」と言って連れてきたのは、同じ保育園に通う五歳の少女・リサだった。ところが彼女は、家族しか知らない昔の出来事を次々に話し、シンジを息子のように気遣う。信じられない再会に戸惑いながらも、兄妹は少しずつ彼女に心を開いていく。しかし、リサ自身の記憶が薄れていくという異変が起こり始める。もう一度母に会いたかった兄妹が、大切なものを守るために選ぶ道とは。兄弟姉妹|真実|真相|第二の人生1.2万字5 209 -
完結第12話
結婚式当日「新婦が救急搬送」私、ここにいますけど?
高校時代から付き合ってきた健二と、ようやく結婚することになった警察官の愛。式の準備をほとんど任せきりにする健二に寂しさを感じながらも、愛は幸せな結婚生活を信じていた。 ところが結婚式当日の朝、式場に「新婦の愛さんが病院に運ばれた」という連絡が入る。愛本人は、ウェディングドレス姿で控室にいるというのに。 しかも病院の女性は、健二を呼んでほしいと言っているらしい。そこへ遅れて現れた健二は、愛の姿を見るなり顔色を変えた。 病院にいる「愛さん」は誰なのか。そして、長年信じてきた婚約者が隠していた秘密とは――。因果応報|人生逆転|夫婦|修羅場1.3万字5 1406