みかん小説
本棚

"144枚の給与明細" 第10話

しい作業台と渡しの誇り

藤がったあとの精密業は、激震に見われながらも、再へのを歩み始めていた。

ミヤビ精の名義貸しをしていたの元部も懲戒解雇となり、藤に約束されていた関連会社の役員のポストも完全に消滅した。藤は横領した千百万円を弁済するため、都の自宅マンションも級もすべて放し、自己破産の申してをうことになったという。

会は自らの監督責任を取り、役員報酬の全額返を決定。そして、産業廃棄物のコンテナから救いされた俺の具箱と油砥を、自らので綺麗に磨き直して届けてくれた。

『宮君、すまなかった。、おの腕に甘え、そのを守ってやれなかったのは、すべて私の徳の致すところだ』

別れ際、会は涙を流しながら俺の両を包み込み、『向こうでも、その指で最の型を磨いてくれ』とをげてくれたのだった。

それから半。

初の爽やかなが吹き抜ける県名古。都自の広な敷の角に設された、真しい技術拠点の第1研磨ブースに、俺はいた。

井のLEDライトがるく照らす作業台は、以ののものよりも広く、俺のと腕のさにわせて特注で作られたものだ。

広告

ブースの奥では、精密から俺を追って転職してきた若職の坂本たちが、真剣な表で鋼の表面に指を滑らせている。

「坂本、そこだ。指先の力を抜いて、鋼の表面をなでるように触ってみろ。を持った部分が、わずかに膨らんでいるのが分かるはずだ」

「はい! ……あ、本当だ、指に吸い付くような抵抗があります!」

「そうだ。そこを番細かい油砥で、回だけ撫でてやれ」

技術が、次の世代へと確かに受け継がれていく。その景を眺めているだけで、胸の奥がじんわりと温かくなった。

コツコツと革靴の音が響き、ブースの引き戸がいた。

入ってきたのは、拠点の管理責任者となった藤だった。スーツ姿の胸ポケットには何本ものボールペンが刺さり、には分い茶封筒が握られている。

「宮技術部、お疲れさまです」

藤はわざとらしく畏まった声で言いながら、両で封筒を差ししてきた。

「しい拠点で、初めての料だ。今だけは、僕のから直接渡したくてね」

俺は苦笑しながら封筒を受け取り、封を切った。

から取りした与細に印字されていたのは、今までので見たこともない数字だった。基本と役職当、技術当の欄に、堂々とした額が並んでいる。額面で額百万円、俸にして千百万円の確かな証拠だった。

広告

藤が鏡の奥の目を細め、いたずらっぽく笑いかけてきた。

「……今の分、誰が受け取った?」

俺は細を丁寧に折りたたみ、作業着の胸ポケットにしっかりとしまい込んだ。

「今度こそ、違いなく俺だ」

の笑い声が、真しいブースに響き渡った。

昼のチャイムが鳴り、俺と藤はのにある庭のベンチへ向かった。

青空の、広げた弁当箱には、昔と変わらず藤の奥さんが焼いてくれた甘い卵焼きが入っていた。

「名古の活はどうだ?」藤が卵焼きをつまみながら尋ねてくる。

「最だよ。具も揃っているし、何より若い連が育つのが楽しい」

俺は自分のを目のにかざした。

械のセンサーには見えない数千分のミリの凹凸をじ取り、たい鉄に魂を吹き込む職の。

、万円の料で蔑ろにされ続けたその指先は、今、本のものづくりを支える確かな誇りとともに、しい未来を刻み始めていた。

くの量産ラインから、プレスが鋼板を力く打ち抜くリズミカルな属音が、青空く響き渡っていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: