"赤飯を炊いた朝" 第7話
の計
の朝は、堂の朝よりずっとくじた。分に更へ入り、のベルが鳴るに持ちにつく。い子のに髪を押し込み、を洗ってから、決められた数の参を切る。
週目、私は同じ失敗を度した。参の太さがそろわない。作業台をれるとき、包丁を置く位置が違う。煮物のを確かめたくて、鍋にづきすぎる。
「松尾さん、先に量を見てください。は最です」
佐伯に注されるたび、分の経験が急に役にたなくなったような気がした。
隣で働く歳の恵美は、私の半分ほどので野菜を切った。寮では同じ部になった。夕飯のあと、恵美が布団を敷きながら言った。
「松尾さん、が遅いんじゃないですよ。本ずつ丁寧に切りすぎなんです」
「では、それでよかったけんね」
「ここでは、百が同じ刻にべるんです。だけおいしくても、残りが遅れたらられます」
私は苦笑した。恵美は分の農の娘で、へ仕送りをしている。の仕事が好きかと聞くと、「好き嫌いで選べるほど、仕事がなかったから」と答えた。
次の、私は恵美の元をよく見た。包丁のかし方より、切ったものを置く所が違った。無駄な往復がない。昼休みに真似してみると、確かに速くなった。
「そうそう。
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それです」
恵美は嬉しそうに笑った。私は自分の子どもほどのの娘に教わることが、しも恥ずかしくなくなっていた。
の裏にはきな燃料タンクがあった。ある、配達のが遅れ、作業のをめて待つことになった。佐伯が計を見ながら「燃料が来ないと、うちは何も作れません」と言った。
私は窓ののタンクを見た。では、炭を積んだ貨が毎のようにいていた。ここでは別の燃料を運ぶが来なければ、鍋にが入らない。どちらも、誰かの仕事で支えられている。
「うちの町では、炭が売れんようになったとみんな言いよります」と私が言うと、佐伯はうなずいた。
「父のころは、うちも炭を使っていました。でも今は、設備も運ぶ方法も変わりました。いほうへ移る会社がいんです」
私は返事をしなかった。佐伯が悪いわけではない。を続けるために選んだことが、くの町の仕事を減らしている。そんなことを、毎朝鍋を見ているに責めても仕方なかった。
燃料のが着くと、佐伯は作業へ戻った。私も包丁を取り、決められた数の野菜を切り始めた。
半ば、病院向けの副菜の注文が増えた。佐伯品は病院や事業所にも惣菜を納めていたが、納品先によってつけも容器も違う。しく来た私が覚えなければならないことはかった。
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ある朝、煮物の鍋が予定より遅れた。担当の女性がをして休み、代わりのが材料の順番を違えたのだ。佐伯がを見て、顔をしかめた。
「これは納められません。作り直しです」
「でも、もうがありません」と若い員が言った。
私は鍋をのぞいた。根の側は柔らかいのに、芯がまだい。全部捨てるに、をめて蒸らすが取れないか尋ねた。
「その分、次の釜が遅れます」
「私がごしらえを代わります。恵美さんに順番を教えてもらえたら、にわせます」
佐伯は計を見て、分だけ考えた。
「やってみてください。ただし、にわなければ私の判断で廃棄します」
結局、予定より分遅れたが、荷にはにった。佐伯は礼を言わなかった。ただ、作業に私を呼んだ。
「松尾さん、今は助かりました。でも、勝にやり方を変えないで、必ず私に言ってください」
「はい」
「をしていたは、自分で全部決める癖がありますからね」
その言葉はが痛かった。私がで何かを決めれば、族も客も従うしかなかった。赤飯の朝だって、誰にも相談しなかった。
寮の暮らしにも、なかなか慣れなかった。廊の洗面所は朝になると混み、夜は隣の部からラジオの音が聞こえる。自分のなら鍋をにかけるに、私は布団のでの作業表を眺めていた。
恵美は毎、料の半分くを実へ送っていた。「結婚したら辞めるの」と聞くと、「相がおらんのに、先の話ばっかりしても仕方ないです」と笑った。
ある夜、私は堂の客の名をいそうとして、何かてこなくなっていることに気づいた。毎顔を見ていたはずのたちが、ほんの数週でくなっていた。代わりに、のたちの音を聞き分けられるようになっていた。
私は便箋を取りし、子へをいた。《お父ちゃんの膝はどう? の面接は?》といてから、し迷って《私も仕事を覚え始めたよ》と付けした。自分のことを族に報告するのは、久しぶりだった。
初めての料、私は封筒をけずに駅へ向かった。帰りの列でを数えると、堂が忙しかったころよりなかった。それでも、決まったに現が入ることが嬉しかった。
に着くと、の引き戸がいていた。昼の営業はとっくに終わっている。から笑い声がした。
「ただいま」
卓袱台には男が座り、噌汁をすすっていた。台所では昭吉が、私の掛けをつけて鍋をかき回していた。
「お父さん、何しよると」
「見たらわかるやろ。飯をしよる」
「は閉めたんよ」
「昼だけや。みんな腹減っとるけん」
私は卓袱台のを見た。鉢と茶碗は並んでいたが、勘定皿はつもなかった。
「おは、もらいよると?」
昭吉は鍋の蓋を閉めた。
「取れるわけなかろうが。仕事のない連から」
私はにした料袋を、わず握りしめた。
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