"赤飯を炊いた朝" 第10話
最の汽笛
、炭鉱は最の作業を迎えた。朝から坑のにが集まり、仕事を終えた男たちが順にてきた。会社のも組のも、同じように疲れた顔をしていた。
私はを休めなかった。末の注文があり、欠員もていた。に佐伯へ相談したが、返事ははっきりしていた。
「休みたい気持ちはわかります。でも、今休まれると荷が止まります」
私はうなずいた。族の事なだからといって、ほかのの仕事を止めていいわけではない。
朝の休憩、寮の話からへかけた。子がた。
「お父ちゃん、もうたよ。膝は丈夫って」
「無理せんように言うて」
「もう何回も言った。お母ちゃん、今、帰れんと?」
「夜には帰る。汽笛にはにわんとうけど」
子はし黙ったあと、「私が見とく」と言った。
ではいつもどおりベルが鳴り、野菜が運ばれ、鍋にが入った。私はをかしながら、の坑のことを考えていた。昭吉が最に何を見るのか、がいないことをどううのか。、夫の仕事が終わるを気にして暮らしてきた。今でそれも終わる。
夕方、予定よりしく作業が終わった。佐伯が私のところへ来た。
「松尾さん、もう帰っていいですよ。残りは私たちでやります」
「ありがとうございます」
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「でも、はからですからね」
私は笑ってをげた。特別扱いではなく、終わった仕事の分だけ帰してもらえる。それがありがたかった。
列を乗り継ぎ、町に着いたのはを過ぎていた。坑の汽笛はもう鳴り終わっていた。駅には帰り支度をした男たちが数ち、誰もきな声をしていなかった。
駅からの坂には、閉まったままのがいくつもあった。昼なら洗濯物が揺れていた軒先にも、今は何もない。さな理髪には《しばらく休みます》とが貼られ、隣の駄菓子は棚をしていた。
私がを始めたころ、夜になると坑夫たちの声が坂をってきた。料の翌には酔った男が妻に叱られ、子どもがそのろをった。うるさいとったこともある。その声が聞こえなくなって初めて、町の静けさがこんなにいものだとった。
のまで来ると、子の笑う声が聞こえた。誰かが「汁をもう杯」と頼み、昭吉が「先にほかのへ回してからたい」と返していた。私は戸にをかけたまま、しだけその声を聞いていた。
坂をると、堂の灯りがついていた。にはいがいた。卓袱台だけではりず、縁側にも腰をろしている。昭吉が鍋のにち、子が茶碗を運んでいた。
「お母ちゃん!」
子が私を見つけた。
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昭吉は瞬だけ顔をげ、また鍋に向き直った。
「遅かったな」
「うん。汽笛、聞けんかった」
「鳴ったよ。かった」
私は掛けをつけ、子のから盆を受け取った。客のには、もう度と坑内へりない男も、から片づけの仕事が残っている男もいた。富子と健も隅に座っていた。
「澄子さん、今はべていき」
富子が言った。私は驚いた。富子のには、まだ湯気のつ飯が置かれていた。
「おは?」
「今はみんなでしった。米も野菜も持ってきたとよ」
昭吉が鍋の蓋を取った。には根と参と鶏肉の入った汁がたっぷりあった。
「最のくらい、腹いっぱいわせたかったけん」
私は鍋をのぞき、夫の元を見た。野菜のきさがそろっていない。けれど、どれもよく煮えていた。
事が終わるころ、馬がちがった。閉の交渉で何度も声を張りげた男が、今はさな声で言った。
「から、俺たちは元炭鉱夫になる。仕事が決まっとる者も、まだの者もおる。どこへっても、今ここで飯をったことは忘れんでおこう」
誰かが拍した。きな拍にはならなかった。それでよかった。
子は片づけながら、昼の様子を教えてくれた。最に坑からてきた男たちは、いつものように着替えたあと、なかなかをれなかったらしい。
「お父ちゃんも、ずっとっとったよ。
みんなが帰るのを待って、最にをた」
昭吉は「げさに言うな」と笑った。子は首を振った。
「ほんとやもん。健さんが、お父ちゃんに子を渡しよった。忘れ物かとったら、今で使わんようになるからって」
私は夫の鞄を見た。作業着のに、煤のついた古い子が置いてあった。しい職には持っていけないし、でかぶることもない。それでも昭吉は、ほかの具と緒に捨てる気にはなれなかったのだろう。
「洗う?」と私が聞くと、昭吉は首を振った。
「今は、そのままでよか」
私は子を鞄に戻した。子が茶碗を棚にしまい、昭吉は戸締まりをした。へると、いつも聞こえていた夜の作業の音がしなかった。
客が帰り、最の茶碗を洗い終えたとき、昭吉がぽつりと言った。
「今朝、坑でな。若いのが、もう回だけへりたいって言うた」
「うん」
「俺も、そうった。でも、もうりられん。具もされとった」
昭吉は流しのにち、両を見た。
「の朝、目が覚めたら、どこへけばよかとやろうな」
私は答えられなかった。赤飯を炊いたあの朝、私は炭鉱が閉まればすべてが終わるとっていた。けれど、夫にとっては、何も決まっていないが始まるところだった。
そのとき子が、の奥から通の封を持ってきた。
「お母ちゃん。昼に届いた。
佐伯品からやって」
封をけると、の仕事とは別に、私宛ての話がかれていた。来から始まるしい配送先の準備を伝ってほしい、というものだった。
私はを読み終え、昭吉に見せた。
「倉に、しばらく来てみらんね」
夫は封を受け取らなかった。
「俺に、女のろをついて来いと言うとやな」
また、そこから始まるのかとった。
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