みかん小説
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"結婚23年目、35万円を渡した妻が持ち帰ったもの" 第5話

娘だった頃の

その夜、私たちは久しぶりに遅くまで話をした。いつもなら、事を終えると私はテレビを見て、は台所で片付けをしていた。話をするも、息子のことや、の予定ばかりだった。

けれどその晩は、古いアルバムをに置いて、が子どもの頃の話を聞かせてくれた。

「この写真の川、から歩いて分くらいのところなの。になると、所の子たちとよく遊びにったわ」

写真ののは、膝までに入って笑っていた。隣には兄弟らしい子どもたちがいる。はその子の名をずつ教えてくれた。所にんでいた幼なじみ。今はをれて、くで暮らしている子。もう会えなくなったもいるという。

「お父さんは、川にく、いつもついてきたのか?」

「最初の頃はね。私がさいは、危ないからって、川岸で見ていたの。私がきくなると、もう来なくなったけど」

その話をするの顔は、いつもより柔らかかった。父親がくなった、彼女は私に何を話したかったのだろう。私は当、「変だったな」と言い、すぐ仕事の話に戻ってしまった。

「この着物は、お母さんが若い頃に着ていたもの?」

「そう。私の成式のに貸してくれたの。には写真館が軒しかなくてね。予約が取れなくて、結局、ので撮ったのよ」

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アルバムのには、着物を着たが、母親の隣で照れくさそうに笑う写真があった。母親はの肩にを置いている。のには、今も続いているが写っていた。

「母は、この着物を私に持っていってほしかったんだとう。ずっとしまってあったから」

「お母さんにとっても、切なものなんだろうな」

「ええ。だから、持っていくのをし迷ったわ。でも、母が『あなたが持っていて』って」

は、着物の布をそっと撫でた。

私は、万円を渡したのことをいした。あのの私は、を渡したことで妻を事にした気になっていた。けれど、彼女が本当に欲しかったのは、おだけではなかったのだろう。母親に会う。故郷の話をする相。帰りたいとにしてもいいという。そういうものを、私は渡せていなかった。

「今度は緒にくよ。いつにする?」

は驚いたように私を見た。

「あなた、仕事があるでしょう」

「休みを取ればいい。おがで帰るのを止めたことはないとっていたけど、気づかないうちに気を遣わせていたんだな」

「止められたわけじゃないわ。ただ、私が勝に慮していたの」

「慮させていたのと同じだよ」

そう言うと、は困ったように微笑んだ。私はカレンダーを持ってきて、来の予定を緒に確かめた。

息子にも話をした。母さんが実へ帰ってきたこと、祖母に会ってきたことを伝えると、息子はしばらく黙ってから言った。

「よかったじゃん。今度は俺もこうかな」

は受話器の向こうの声を聞いて、目を丸くした。それから、「そうね。今度はみんなできましょう」と答えた。

話を切ったあと、私たちは、次に持っていくお産の話をした。母親が好きな茶葉。ではに入りにくい薬。がさい頃にべたという菓子。話題は尽きなかった。

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