"同窓会で「席はない」と笑われた私に、若女将が一礼" 第5話
スマートフォンの画面と除された名
そのの夜。
町の台にある級宅に建つ、の広いリビング。
革張りの型ソファにく腰掛けた麗子は、元のスマートフォンの画面を指先で忙しなくタップしていた。今回の古希同窓会のために作成した、参加者名が参加するメッセージアプリのグループチャットだった。
麗子はワイングラスを傾けながら、満面の笑みで文章を打ち込んでいった。
『皆さん、こんばんは。幹事の麗子です。同窓会の準備もいよいよ詰めを迎えました。宿泊費と宴会費ですが、幹事の私が松乃の支配と直談判いたしまして、特別に幅な割引を勝ち取りました! 本来なら万円い級プランを、万千円ポッキリでご案内できます』
画面を見つめながら、麗子はさらに指をかした。
『それから、もうつおらせです。今、川さんと駅でお会いしました。ご主の宗郎さんをくにくされて、活のために今は松乃で仲居さんのパートとして働いていらっしゃるそうです。変ご苦労されているご様子でしたので、会費の万千円については、決してご無理をなさらないようにと私から優しくお伝えしておきました。当、もしお見かけしたら、皆さんも温かく接してあげてくださいね』
送信ボタンを押す。
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わずか数分のうちに、画面には次々と返信のメッセージが連なった。
『さすが麗子さん! 交渉!』 『万千円で松乃に泊まれるなんてみたい、ありがとう!』 『さん、そんなことになっていたなんて……』 『宗郎さんの奥さんなのに、仲居さんをしてるなんて、何があるか分からないわね』
同級のほとんどは、を卒業すると同に都会へと学し、そのまま京や阪で暮らしてきた者たちばかりだった。元に残ったのはごく握りで、現の松乃の女将の顔をる者など、このグループのにはもいなかったのだ。
麗子は嫌でちがり、サイドボードから話の子を取ると、恵子の自宅へとダイヤルした。
「もしもし、恵子さん? グループのメッセージ、見たでしょう?」
受話器の向こうから、恵子の弾んだ声が返ってきた。
『見たわよ麗子さん! やっぱりさん、ただの仲居さんだったのね。あの代、おくとまって総代の答辞を読んだ女が、今じゃ布団運びだなんて……本当に胸がすくわね』
「そうよ。あの子は昔から、私のものを何でも横取りしていったじゃない。答辞の総代だって、私がもらうはずだったのに。宗郎さんだって、私が先に目を付けていたのに、いつのにかあの子が掻っ攫っていったんだもの」
、の底に澱のように溜まり続けていた嫉妬と怨嗟が、麗子のから次々と溢れしていた。
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『でも麗子さん、さん、本当にお払えないのかしら?』
「払えるわけないじゃない! 仲居のパート代がいくらだとってるの? 数万そこそこの活で、たった晩のみに万千円もせるはずがないわ。だいたい、旅館に入があったかどうかなんて、私が確かめる筋いもないもの」
麗子は元のテーブルに広げてあった座席表に目を落とした。
分の丸が描かれた広のレイアウト図。
その番端、座の隅にさくかれていた『川』の文字のに、麗子は赤いサインペンをらせた。キュッ、と嫌な音をてて、太い赤線がの名を完全に塗りつぶした。
「これでよし。名ね。あの子の席なんて、最初から用してあげないわ。受付で恥をかかせて、みんなので仲居としてお茶を運ばせてやるのよ」
翌朝。
が暮らすれの黒話が、けたたましく鳴った。
受話器を取ると、京にむ番の親友・友子のりに震える声がび込んできた。
『! あんた、あのグループチャットのき込み見た!? 麗子のやつ、あんたが活苦で仲居をしてるから会費も払えないかもれないなんて、鱈目もいいところよ! あんた、松乃の女将じゃないの! どうして黙ってるのよ!』
友子は代からの唯無の親友で、宗郎とのささやかな結婚式にも、親友代表として駆けつけてくれただった。
「ふふ、友子。朝からそんなに興奮しちゃ体に毒よ」
『興奮しないでいられるわけないでしょ! 今すぐ私がグループにき込んで、が松乃の女将だってバラしてやるわ!』
「待って、友子。お願いだから、当まで何も言わないで」
の声は、どこまでも静かだった。
『……どうしてよ。宗郎さんとの約束? ただの同級でいたいって? でもね、。あんたは昔からそうやって、自分が傷ついても黙って耐えてばかりじゃない! 損ばっかりして……!』
「いいのよ。私はね、みんなの元気な顔が見られれば、それで分なの。昔話をして、笑いえれば、席なんてどこだっていいのよ」
友子は話の向こうで悔しそうにをすすり、やがて言った。
『……分かったわよ。でもね、当は絶対に私があなたの隣に座るからね。誰にもあんたをになんてさせないんだから』
友子はまだらなかった。
の席そのものが、すでに座席表から跡形もなく消しられていることを。
そして同窓会の、グループに麗子から最の斉送信が届いた。
『恩師の先ですが、腰のお加減がすぐれず、の移は無理とのことで、残ながら今回はご欠席となりました。先への束と記品は、幹事の私から責任を持ってお届けいたします。なお、最終名簿を添付いたします(川様:会費未納のため欠席)』
添付された席者名簿の欄から、の名は完全に抹消されていた。
その夜、はれの仏壇のに座り、押し入れの奥から古い桐の箱を取りした。
に入っていたのは、通の賀状。
毎、欠かさずと言葉を交わし続けてきた、歳になる恩師・先からの、震える墨の便りだった。
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