"同窓会で「席はない」と笑われた私に、若女将が一礼" 第9話
いた襖と子の恩師
夕方。
松乃の階にある広には、百畳敷きの青々とした畳のに、朱塗りの銘々膳がずらりと並べられていた。
窓のには、夕暮れに染まる渓の葉がライトアップされ、な美しさを見せている。広に集まった同級たちは、ロビーでの件の揺を引きずりながらも、案内されたそれぞれの席へと腰をろしていた。
の席は、苗が言った通り、窓際の最も見らしの良い所に用されていた。その隣には、親友の友子が嬉しそうに陣取り、のを握りしめている。
ふと、誰かが広の座を見て声をげた。
「おい、ちょっと見ろよ。座の央に、座子がつ余分に置いてあるぞ」
「本当だ。名簿の数よりついんじゃないか? 旅館の違いか?」
ざわつく広の、幹事の麗子が、苦しい取りで座のマイクのにった。
のスーツの胸元をえ、必に平静を装いながら、作り笑いを浮かべてマイクのをトントンと叩く。
「えー……皆さん、本はようこそお越しくださいました。幹事を務めましたです。今回の宿泊費と宴会費ですが、先ほども申しげました通り、私が旅館側と粘りく交渉をねまして、格別の配慮でおくしていただきました」
麗子はそこで言葉を切り、広の端に座るをチラリと盗み見た。
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が何もを挟まず、穏やかに自分を見つめているのを確認すると、しだけ声のトーンをげて続けた。
「残ながら、担任の先は、腰のお加減が変すぐれないとのことで、本はご欠席となってしまいました。先への束と皆さんの寄せきは、、私が責任を持ってご自宅へお届け——」
その瞬だった。
広の奥、控えのへと続く襖が、音もなく静かにへとけ放たれた。
広の全員の線が斉に奥へと吸い寄せられた。
そこに現れたのは、仕ての良い紺のスーツを着た現館主・浩と、彼が静かに押しめる台の子だった。
子のに腰掛けていたのは、仕て直された真しい羽織袴をに纏い、真っな髪を綺麗に撫で付けた、柄な老だった。
「……やあ、みんな。遅くなってすまないね」
温かく、懐かしい、あのとしも変わらない張りのある声が、広に朗々と響き渡った。
「……き、先!?」
同窓会の正夫が、弾かれたようにちがった。
続いて、座っていた名の同級たちが、斉にガタガタと音をててちがり、どよめきが広を揺るがした。
「先! 本当に先なのか!?」 「先、お話では歩くのも難しいとおっしゃっていたのに……!」
駆け寄ろうとする教え子たちをで優しく制しながら、浩が子を座の空いていた座子のへと滑り込ませた。
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麗子はマイクを握りしめたまま、信じられないものを見るかのように目を剥き、そのに縫い止められていた。
「せ……先……どうして……。お話したは、絶対に無理だと……」
先は、子のから麗子を穏やかに見つめ、さく頷いた。
「さん。あのは、本当に無理だとっていたんだよ。所のポストまで歩くのすら息が切れるような体だったからね。皆に迷惑をかけるわけにはいかないと、度は諦めたんだ」
先はそこで言葉を切り、窓際に座るへと温かい線を向けた。
「けれどね、川さんが……いや、野の奥さんがね。わざわざ私のまで訪ねてきてくれたんだよ。『先、松乃の廊も広も、子で通れるようにしく作り直しました。息子が玄関先までお迎えにがりますから、どうかみんなの顔を見に来てください』と、をげてくれてね」
広が、を打ったように静まり返った。
「息子さんの浩君が、実に丁寧におぶってに乗せてくれてね。途で何度も休ませてくれながら、ここまで連れてきてくれたんだよ。この座の席も、の曲がらない私のために、わざわざ設えてくれたものだ」
浩は先の横で々と礼すると、広の全員に向けて静かにをいた。
「皆様、館主の浩から、点だけご説をさせてください」
凛とした若主の声が、静寂のに染み渡っていく。
「今回皆様にお泊まりいただいている泊のプランですが、本来であれば万円を超える当館の特選会席でございます。万千円という会費では、到底お受けできる額ではございませんでした。……差額のすべての費用は、女将が『来の切な同級の皆様に、最のいを作っていただきたい』と申しまして、女将自の個資産より全額を補填させていただいたものでございます」
「浩……もういいのよ」
が声で制止しようとしたが、浩は首を横に振った。
「いいえ、母さん。これだけは、皆様にきちんとっていただかなければなりません。母はこののために、半から準備をねてまいりました。先をお迎えする部をえ、皆様のお膳の品品に至るまで、料理と相談をねて吟したのです」
マイクを握りしめた麗子のが、激しく刻みに震え始めた。
『私が旅館と交渉して、特別にくしていただいた』——つい数分、自らの柄として誇らしげに語った言葉が、今や逃げのない嘘として、自らの胸に鋭い刃となって突き刺さっていた。
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