"誕生日に姪を選んだ夫、3年後の再会で絶句" 第1話
静かな本と磨かれた原
とインクの匂いが漂うの文芸コーナーで、私は平台に並ぶ文庫本の端を指先で丁寧に揃えていた。
織田陽菜子(ひなこ)、当歳。昔から派な遊びや流りのには興がなく、休はで読をするか、母から教わったフランス刺繍の針をかすのが何よりの楽しみだった。
歳の兄がいるが、実はごく般なサラリーマン庭だ。「お嬢様みたい」とからかわれることもあったけれど、自分ではただのでな女だとっていた。に付けるものも、清潔さえあれば物のブラウスとスカートで分。化粧もく眉をえて控えめなリップを引くくらいで、周囲の華やかな同代の女性たちとはまるで違う世界にきていた。
そんな私の働くに、週に、回、決まって平の夕方にやってくる男性がいた。
それが、に私の最初の夫となる尾だった。
尾はいつも、猫背でし自信なさそうに背を丸め、ボサボサの髪に分い縁鏡をかけていた。着ているシャツもどこかヨレていて、お世辞にも女性受けするタイプではなかった。けれど、彼がレジへ持ってくる本は、どれも私がからしているの古典文学や、しマイナーな国内の純文学ばかりだった。
広告
「あの……この作さんの刊、すごく待ちしかったですよね」
あるのの夕暮れ、刊の単本にブックカバーをかけながら、私はい切って声をかけた。
尾は鏡の奥の目を丸くし、それからし照れくさそうに笑った。
「そうなんです。の作品からも空いたので、ずっと楽しみにしていて……員さんも読まれるんですか?」
それが、私たちの始まりだった。
話してみると、私たちは同いであることが分かった。名学をて証プライムのメーカーに勤める優秀なエンジニアだったが、貫の男子から理系学へんだため、女性と話すのが極端に苦だったらしい。見た目に無頓着だったのも、ただ単に何を着ればいいのか分からなかったからだと言っていた。
本の話を通じて、私たちは急速に距を縮めていった。休に古を巡り、静かな純喫茶で同じ本を並べて読む。穏やかで、飾らないがよかった。
交際を始めてが過ぎた私の歳の誕に、尾はし震えるでさなベルベットの箱を差ししてくれた。
「僕には華やかな取り柄はないけれど……陽菜子さんのことを、切にします」
その誠実な言葉が胸に沁みて、私は迷うことなく頷いた。
驚いたのは、結婚式のだった。
広告
「くらいはちゃんとしなきゃとって」と照れ笑いしながら、私の実へ挨拶にやってきた尾を見て、私は玄関先で息を呑んだ。
義兄の紹介で表参の美容院へき、髪をすっきりとくえ、眉を綺麗にカットし、野暮ったい鏡をしてコンタクトレンズに変えていた。姿勢をすっと正した彼の顔ちは、まるで朝ドラにてくる若俳優のように爽やかで、非の打ちどころのない端正なイケメンそのものだった。
翌の結婚式では、親戚や私の友たちから「あんな爽やかな旦さん、どこで見つけてきたの!?」とどよめきが起きたほどだった。
見た目が劇に変わっても、尾の私に向ける器用で優しい差しは何も変わらなかった。
お互いに読が好きで、休は淹れたてのコーヒーをみながら静かにページをめくる。慎ましくも満ちりた婚活が、このままずっと続いていくのだと、私は信じて疑っていなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
義母の老人ホーム代120万円を勝手に約束した夫
医療機器メーカーで働く結衣は、結婚以来、夫の翔太と義母の幸子に頼まれるまま、家電の買い替えや旅行代を負担してきた。月7万円の仕送りも、半分出すと約束した夫は一円も払わない。それでも家庭を壊したくない一心で我慢していたが、義母はついに結衣の勤務先へ送金を催促する電話をかけてくる。さらに夫は、義母が希望する高級老人ホームの入居金120万円まで、結衣に無断で支払う約束をしていた。夫のスマホに届いた一通のLINEをきっかけに、結衣は自分の人生を取り戻す決意をする。人生逆転|嫁姑|夫婦|絶縁|介護|金銭問題2.7万字5 21 -
完結第15話
認知症の父を「逮捕しろ」と叫ぶ姑――孫の一言で形勢逆転
夫を突然亡くした佳苗は、幼い二人の子どもを育てながら、認知症になった父の介護も引き受けることになった。心身ともに限界を迎えるなか、支えになってくれたのは小学六年生の息子・亮太だった。家族で父の実家へ引っ越し、ようやく穏やかな暮らしを取り戻したかに思えたが、何かにつけて佳苗を責める姑が、またもや騒ぎを起こす。ある日、仕事中の佳苗に亮太から緊急の電話が入った。急いで帰宅すると、家の前にはパトカーが。家の中でいったい何が起きたのか。姑の言い分に対し、亮太が語り始めたのは……。祖父母と孫|嫁姑|絶縁|親子関係|介護|認知症1.6万字5 113 -
完結第15話
生活費を奪って消えた母、20年後の再会で私が頼んだもの
小学四年生の秋、美咲の母は家の生活費と預金を持ち去り、突然姿を消した。残された父は工場で懸命に働きながら娘を育て、給料日には食堂へ連れていってくれた。「好きなものを食べなさい」と笑う父が、自分のために頼むのはいつも水だけだった。苦しい日々を二人で乗り越え、大人になった美咲の前に、長年音信不通だった母が現れる。何事もなかったように振る舞う母を、美咲は高級レストランへ誘った。そこで彼女が選んだものには、父と過ごした忘れられない日々への思いが込められていた。夫婦|絶縁|親子関係|金銭問題1.9万字5 37 -
完結第15話
看護師を捨てた元彼、10年後に妹の名刺を踏みつけた
看護師のヒナは、起業を夢見る恋人・大志を支えるため、夜勤を増やして生活費を払い、家事も一人で引き受けていた。ところが大志は事業に成功すると、社長令嬢との婚約を決め、ヒナを一方的に捨ててしまう。それから10年。偶然再会した大志は、独身のヒナを見下し、看護師の仕事まで大声で馬鹿にし始めた。そこへ現れた妹の桃が、冷静に言い返す。しかし大志は、桃が差し出した名刺を床に落とし、靴で踏みつけてしまう。その名刺が何を意味するのか、知りもしないまま……。因果応報|兄弟姉妹|夫婦|絶縁|金銭問題|不倫1.6万字5 29 -
完結第15話
「一緒に暮らそう」親切な男性に質問すると、顔色が変わった
夫を亡くして四年、六十八歳の静子は、一人暮らしを気ままに楽しんでいた。そんなある日、親友の千鶴から、買い物袋を持ってくれる親切な男性・佐藤の話を聞く。七十四歳の佐藤は千鶴に同居を申し込み、千鶴も久しぶりの出会いに心を弾ませていた。ところが、静子にも佐藤が近づいてくる。しかも、千鶴に話したのとよく似た言葉で同居を持ちかけてきたのだ。静子が何気なく尋ねた一つの質問から、男性の思わぬ本音が見え始める。人生逆転|孤独|第二の人生|修羅場1.4万字5 179