"生活費を奪って消えた母、20年後の再会で私が頼んだもの" 第8話
渡せなかった封筒
母のからびした言葉のを理解するのに、私は数秒のをしました。
「……え?」 私のから、抜けな声が漏れました。
母は私の方を見ようともせず、居の奥にあるテレビ台の引きしへと線を向けました。 あの、あの、母が活費をすべて奪いっていった、あの引きしです。
「すぐ返すから。今、どうしてもまとまったおが必なのよ。 ほら、ここに入ってるんでしょ? お父さんの今の料」
母は子からちがり、自分のであるかのように当然の取りで、引きしへとを伸ばしました。
「……触るな」
く、をうような声が居に響きました。 父でした。
父は引きしのにちはだかり、母の首を掴むこともせず、ただ壁のように塞ぎました。
「それは、おが持っていくじゃない」
「なによ、ケチくさいこと言わないでよ」 母はあからさまに苛ったように唇を尖らせました。
「族でしょう? 困ったときはお互い様じゃない。 私だって遊んでるわけじゃないのよ。しい活をちげるのに、いろいろ物入りなの!」
「しい活だと?」 父の眉に、い皺が刻まれました。
「男を作って、のおを全部持ってていったの言う台か。 ……その引きしに入っているのはな、美咲の今の費と、来の学級費だ。
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おが持っていくは、円たりともここにはない」
父の静かな拒絶に、母はキーッと声を尖らせました。
「げさに言わないでよ! 子どもの費くらい、どうにでも面できるでしょうが! 私がどれだけ追い詰められてるか、あんたには分からないのよ!」
母は力任せに父を押しのけ、引きしをガラリとけました。 そこには、に父がからろしてきたばかりの、数枚の千円札が入った封筒がありました。 次の料までに必な、ギリギリの費と活費でした。
母のく細い指先が、その封筒を鷲掴みにしました。
その瞬、私のので何かが音をてて砕け散りました。
あのか。 だけでカツ丼を私にべさせてくれた父。 根の煮物を分けってべた夜。 靴を必に干していた父の背。
そのすべてを、この女は今、で踏みにじろうとしている。
「……やめてよ!!」
私の絶叫が、狭い部に霊しました。 母がギョッとして私を見ろしました。
「美咲……?」
「お父さんのおを盗らないで! 私たちの活を壊さないでよ!」
私は母のコートの裾を掴み、必に引っ張りました。 「お母さんなんか嫌い! もうお母さんじゃない! ていってよ!」
母の顔が、信じられないものを見るように歪みました。 自分がどんなに勝をしても、娘は自分を慕い、泣いてすがりついてくるとい込んでいたのでしょう。
娘からの剥きしの拒絶に、母のから力が抜け、封筒がテーブルのにバサリと落ちました。
父は無言でその封筒を拾いげ、引きしの奥へと戻すと、カチリと鍵をかけました。
「……美咲の言う通りだ。度とここへ来るな」
母は悔しそうに唇を噛み締め、の革ジャンとスポーツバッグを乱暴に掴みげました。 そして、玄関へ向かいながら吐き捨てるように言いました。
「勝にしなさいよ! で貧乏たらしい活をしていればいいわ!」
バタンッ!
再び、あのい扉が閉まりました。 度目の別れ。 けれど、今度は涙はませんでした。
私ので、「母親」というが完全に息絶えた瞬でした。
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