"退職金を狙った夫" 第5話
それから子は、さなアパートに引っ越した。財産分与で得た資をもとに選んだ、2暮らしのよりし狭い部だった。
向きの窓のにさなテーブルを置き、子は毎朝、自分だけのためにお茶を入れた。
誰かの分を用しなくていい。
たったそれだけのことが、こんなに穏やかだとはわなかった。
1分のお茶を静かにむ。そのが、子には何より贅沢にじられた。
数週、子は気になっていた陶芸教に通い始めた。
初めてを触った、ので形が変わっていく覚が議だった。うまくできなかった。何度やっても歪んだ器になるだけだった。
先が笑って言った。
「いいんですよ。最初から形になるなんていませんよ」
その言葉を聞いて、子はなぜか胸がくなった。
形にならなくていい。最初はそれでいい。
その言葉が、38うまく形にできなかった自分となった気がした。
ある、敬子と由美、2の娘と3で事をした。久しぶりにゆっくり話した。
「お母さん、最楽しそうだね」
敬子がそう言った。
子はし考えてから答えた。
「楽しいというより、自分に戻ってきたじかな。ずっと誰かのためのをきてきたから、自分のためのが何なのか、分からなくなっていたのかもしれない」
「そうかもしれないね」
広告
敬子は静かにうなずいた。
由美がし迷ってからをいた。
「お父さんのことは……」
敬子が由美の言葉を引き取るように言った。
「いいよ。言わなくて」
子は微笑んだ。
「丈夫よ。んでないよ。ただ、もう関係ないになったというだけ」
帰り、駅まで2の娘が並んで歩いた。子はその背を見ながらった。
この子たちがいる限り、私は1じゃない。
アパートに戻り、気をつけると、部のには自分の好きなものだけが並んでいた。
さな瓶。陶芸教で最初に作った歪んだ器。窓のの夜空。
子はテーブルに座り、お茶をんだ。
38、失ったものは確かにある。けれど、今この瞬に嘘はなかった。
の半に取り戻す自分は、若い頃に諦めた自分より、ずっとい。
子はそのことを、このさな部で初めてった。
子が「はい、んで」と答えた、それは諦めではなかった。
りも涙も見せなかったのは、が壊れていたからではない。38分の暮らしので、泣くより先に考えることを覚えていたからだった。
昭雄は、定に婚すれば退職を守れるとっていた。自分が稼いだものは自分だけのものだと信じていた。けれど、その考えのには子の38が切入っていなかった。
朝ご飯を用する。ワイシャツにアイロンをかける。
子供のに夜通し付き添った。計をえ、夫の仕事を支えた々。
それらは料細には載らなかった。けれど、なかったことにはならなかった。
子は今、さな部で自分のためのお茶をんでいる。誰かに急かされることも、無されることもない。朝のを浴びながら、歪んだ器にそっと触れる。
その器は完璧ではない。けれど、今の子にはそれがおしかった。
ようやく、自分の形を自分で作り始めたのだから。
い結婚活の終わりは、惨めな敗ではなかった。子にとってそれは、静かな再発だった。
そして彼女はもう、誰かのの脇役としてだけきるつもりはなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
私の退職金を奪った家族に、私は何も言わず家を出た
妊娠中の麻衣が13年間勤めた会社を退職すると、夫の竜太は退職金420万円を無断で義母の口座へ送金した。「嫁の金は家のために使うもの」と言う義母。返金を求めた麻衣に、夫は「文句があるなら出ていけ」と告げる。 麻衣は実家へ戻り、保存していた送金記録を持って弁護士に相談する。返還を求められた義母は「預かっただけ」と主張するが、自ら提出した口座明細には、夫の奨学金を返すために動かした60万円の記録が残っていた。 420万円を取り戻しても、麻衣は壊れた信頼まで元に戻ったとは思えなかった。離婚後、娘を産み、かつての職場へ復帰する。誰に許可を求めることもなく、自分で稼いだお金の使い道を、自分の手帳に書き込んでいく。嫁姑|夫婦|金銭問題2.2万字5 219 -
完結第12話
継母が私に遺した「価値ゼロ」の古民家
継母・良子の死後、養女の明日香に遺されたのは、山奥に建つ資産価値ゼロの古びた一軒家だけだった。一方、実子である高志と絵美子は、都内の高級住宅6軒を相続し、介護を続けてきた明日香を「他人」と嘲笑う。 母に愛されていなかったのか――。傷つきながらも家を片づけに向かった明日香は、不自然に敷き直された畳と、その床下に封印された巨大な金庫を発見する。母が最期に託した銀色のペンダントは、その扉を開くための鍵だった。 金庫の中に残されていたのは、莫大な財産と「愛する娘へ」と記された一通の手紙。そこには、明日香を強欲な実子たちから守るため、良子が密かに進めていた計画が明かされていた。 高級住宅を手に入れ、裕福な暮らしに浮かれる兄姉。しかし、彼らが「財産」だと信じた6軒には、決して逃れられない秘密が隠されていた――。 血のつながりを盾にする家族と、行動によって愛を遺した母。傷ついた養女が母の本心を知り、自分の人生を取り戻していく、遺産と家族をめぐる逆転の物語。人生逆転|真相|親子関係|金銭問題1.8万字5 941 -
完結第14話
夫の通帳を奪った義母が銀行で凍りついた日
「息子の通帳は、こっちで管理するわ」 夫の四十九日の翌朝、義母は仏壇の引き出しから通帳を奪った。 「三宅の金を、子供も産めなかった嫁には渡さない」 私は取り返そうともせず、静かに答えた。 「どうぞ、ご自由に」 一週間後、記帳した義母が怒鳴り込んできた。 「残高が12万3,000円しかない! 残りをどこへ隠した!」 さらに義母と義弟は、家を売って財産を分けると言い出した。 私は反論せず、銀行の応接室へ二人を呼んだ。 ところが義母は約束より早く窓口へ行き、通帳を突きつけた。 「私は母親よ。全額払い戻して!」 銀行員は戸籍を確認し、義母へ静かに尋ねた。 「お客様は、亡くなられた和幸様と養子縁組をされていますか?」嫁姑|相続|親子関係|金銭問題2.0万字5 771 -
完結第13話
毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密
昭和48年、給料が銀行振込に変わった日、文子は夫・昭雄の給料が、毎月受け取っていた額より7000円多いことに気づく。家計簿を遡ると、その差は十年以上も続いていた。 やがて夫の上着から見つかったのは、静岡に住む「山本和子」への振込控え。昭雄は、その女性へ約20年間送金していたことを認めるが、理由を話そうとしない。 夫婦で築いてきた暮らしの裏に、何があったのか。文子は昭雄の言葉を待つのをやめ、和子に直接会いに行くことを決める。時代|歴史|昭和|金銭問題1.9万字5 104 -
完結第14話
薬を忘れて戻ると、「歩けない」夫が立っていた
腰の手術後、「一人では歩けない」と訴える夫・健太を介護し、毎週末義実家まで送り続けていた佐織。ところが薬を届けるため引き返すと、健太は電話で「嫁は帰った」と告げ、車椅子から何事もなかったように立ち上がった。 夫を尾行した佐織が目にしたのは、金融業者が入る雑居ビルへ元気に歩いて入る姿だった。病院で確認すると、健太は3週間前から自由歩行を許可されており、痛みを誇張して休職を延長していたことも判明する。 さらに健太は450万円の連帯保証債務を抱え、借金返済のため、休職中に会社の機密情報流出へ関わっていた。義母も息子が歩ける事実を隠し、佐織を無給の介護役兼運転手として利用していたのだ。 佐織は夫を庇わず、記録と証拠を会社や弁護士へ提出し、離婚と財産保全の手続きを進める。嘘の車椅子から立ち上がった夫が社会的信用を失う一方、佐織が誰かを背負う生活を終え、自分の足で新しい人生を歩き始める再生物語。夫婦|介護|金銭問題|不倫2.1万字5 351 -
完結第15話
時給951円と捨てられた妻の正体
「時給951円の役立たずが、年収2000万円の俺に寄生するな」――夫は私の荷物をゴミ袋に詰め、玄関の外へ放り出した。 しかも愛人との写真を見せつけ、「離婚だ。俺がいなきゃ明日の飯にも困るだろ」と笑った。 私は渡された離婚届を受け取り、「ありがとう。今すぐ出ていくね」とだけ答えた。 夫は最後まで、私が負け惜しみを言っていると思っていた。 翌朝、私はそのまま離婚届を提出し、一本の電話をかけた。 その数時間後、夫は会社の懲罰委員会へ呼び出され、自分を守っていた“ある人物”の正体を初めて知らされる。 さらに愛人は消え、マンションまで退去を求められ、昨日まで自慢していた年収2000万円も一日で消えた。 それから1か月後、300件を超える着信の末、夫は私の会社まで押しかけて大理石の床に額をつけた。 「頼む、もう一度俺を養ってくれ」――私がその男の前に最後の書類を落とした瞬間、本当の反撃が完成した。(続)怒り|夫婦|退職金|金銭問題2.2万字5 879 -
完結第15話
「貧乏男」の通帳に5億円
姉に「貧乏男」と笑われた蓮と結婚した、経理担当の真帆。新婚の翌朝、生活費10万円を差し出すと、夫は代わりに1冊の通帳を渡してきた。残高は5億円を超え、3年間、出金の形跡がない。それなのに、夫は古い上着を繕い、わずかな報酬で働いていた。隠されていたのは、資産だけではなかった。夫の仕事を知った真帆が共に暮らす条件を伝える一方、新聞で彼の立場を知った姉は態度を変え、500万円の出資を求めてくる。夫婦が断った翌日、姉は客に「出資は決まった」と案内していた。真帆は拒否の返信と案内の時刻を並べ、夫と店へ向かう。そして、夫が手放さない上着の襟には、別の男の名字が縫いつけられていた。夫婦|金銭問題2.1万字5 3436 -
完結第12話
20年の仕送りを止めたら、義母の嘘が暴けた
20年間、毎月10万円の仕送りを一度も欠かさなかった私。 総額は2,400万円にもなるのに、義母は法事の席で親族を前に笑った。 「たった10万円よこして、偉そうにしないでよ」 その言葉を聞いた私は、翌月から仕送りをやめることを決めた。 義母は「その程度のお金、なくても困らない」と強がっていたが、わずか3か月後、その暮らしは急速に行き詰まっていく。 やがて夫は、実家で銀行と証券会社から届いた複数の封筒を発見する。 そこに記されていたのは、義母が隠し続けてきた資産の動きと、私たちの仕送りが使われていた本当の目的だった。 なぜ義母は2,400万円もの援助を「大した額ではない」と笑ったのか。 そして、仕送りを止めた途端に崩れ始めたものとは――。 20年間の善意を当然のものとして踏みにじられた妻が、家族に隠された金銭の秘密と向き合い、自分の人生を取り戻していく物語。嫁姑|相続|親不孝|親子関係|金銭問題1.8万字5 1028 -
完結第13話
母の保険金3,000万円、夫は「もう諦めろ」と言った
「1か月だけ、3,000万円を貸して」 亡き母の保険金が振り込まれた直後、夫の姉が突然頼みに来た。 夫も「家族を助けると思って」と私を説得した。 私は返済期限を定め、夫を連帯保証人にして公正証書を作った。 姉は笑顔で実印を押し、翌日、3,000万円を受け取った。 しかし1か月後、入金はなかった。 やがて電話は着信拒否され、3か月が過ぎた。 夫へ相談すると、苛立った声が返ってきた。 「もう諦めろ!」 そして次の瞬間、夫は口を滑らせた。 「あいつに、そんな金あるわけないだろ!」 私は何も言わず、弁護士宛てのメールを開いた。夫婦|相続|金銭問題1.9万字5 921 -
完結第17話
毎月20万円送っていたのに、82歳の母は皿を洗っていた
毎月20万円を送っていれば、母は不自由なく暮らせる。大企業を築いた佐藤健二は、そう信じて15年を過ごしてきた。ところが、偶然入った食堂で再会した82歳の母は、膝をかばいながら皿を洗っていた。「最後にお金が届いたのは、14年も前だよ」。母の家計簿には、仕送りが減り、やがて途絶えた記録が残っていた。一方、健二の口座からは今も毎月20万円が引き落とされている。母を支えてきた弟の手元には、健二に届かなかった入院の連絡まであった。金も、家族の声も、誰かが途中で止めていたのか。記録をたどる健二の前に浮かび上がる、信じ続けた人間の影。母が守ってきた小さな家計簿が、会社を揺るがす追及の始まりになる。親子関係|金銭問題2.2万字5 623