"喪服で行った結婚式" 第5話
「本、午2から装わせと最終確認でございます」
話を切った、私はテーブルのに類を並べました。
式の予約確認。
150万円の領収。
共同座の細。
ジュエリーショップの細。
ドレスサロンの予約。
玲奈さんのメッセージ。
そして、古い結婚指輪。
25が、そこにありました。
ではなく、証拠として。
をる、私は朝を作りました。
焼き魚。
噌汁。
卵焼き。
漬物。
巧の茶碗も箸も、いつもの所に置きました。
最の妻として、私は最の朝を並べました。
玄関で靴を履いた、スマートフォンが震えました。
玲奈さんからでした。
「今、巧さんと正式に未来を決めます。奥様もどうか、ご自分のをきてください」
私はその文を最まで読みました。
そして初めて返信しました。
「だから今からきます」
送信ボタンを押した、私は黒い喪の襟をえました。
噌汁の湯気がまだ残るを、私は静かにました。
式はすぎるほどでした。
い。
い布。
いベール。
鏡のでは、青玲奈さんが肩にいベールをわせていました。
巧はその隣にち、彼女の髪にかかったものを指先でそっと直していました。
私にはもう何も触れなかったでした。
扉がく音に、全員が振り返りました。
黒い喪の私を見た瞬、巧の顔が固まりました。
広告
けれど彼はすぐに周囲を見回し、い声で言いました。
「さゆり、何をしている? ここを壊しに来たのか」
私は答えました。
「壊したのは、私ではありません」
玲奈さんがベールを握ったまま、歩にました。顔はくなっていましたが、まだ負けたくない目をしていました。
「奥様、もうやめませんか。巧さんはずっと苦しんでいました。私たちはただ、正直にきようとしているだけです」
私は彼女を見ました。
「正直にきるは、の共同座でドレスを選ばないといます」
玲奈さんの唇が止まりました。
巧が声を荒げました。
「やめろ。彼女を責めるな。夫婦がここまで壊れたのは、おにも原因がある」
私は頷きました。
「私にも原因はあったかもしれません。黙りすぎたこと。信じすぎたこと。あなたが優しいだった頃を、く覚えすぎたこと」
巧は言葉に詰まりました。
私は封筒をテーブルに置きました。
から類を1枚ずつしました。
式の予約確認。
150万円の内領収。
共同座の細。
ジュエリーショップ68万円。
ドレスサロン10万円。
玲奈さんから届いたメッセージ。
そして、まだ提していない婚届。
を置くたび、式の空気がくなりました。
式スタッフは資料を抱えたままきませんでした。
周りにいたたちも、誰も声をしませんでした。
広告
巧は類を見て、無理に笑いました。
「これは誤解だ。説できる」
私は静かに聞きました。
「どれを?」
巧の笑みが消えました。
「会社のて替えだと言って、共同座から150万円をしたこと?」
私は1枚目の細を指で押さえました。
「私を処理すると言ったこと?」
巧の目が揺れました。
「まだ妻がいるまま、ここで嫁を選んでいたこと?」
彼は私を睨みました。
「盗み聞きまでしたのか」
私は静かに答えました。
「聞こえる所で、私を荷物のように話したのはあなたです」
玲奈さんがさく言いました。
「でも、が終わっていたなら仕方ないじゃないですか」
私は彼女に向き直りました。
「が終わることはあります。でも、終わらせ方での値打ちはます」
玲奈さんの目が揺れました。
私はさな箱を取りしました。
には、古い結婚指輪が入っていました。
捨てられなかったもの。
戻せなかったもの。
25、私のでだけを持ち続けていたものです。
私はそれを、婚届のに置きました。
「今、お返しします」
巧がかすれた声で言いました。
「さゆり、待て。こんなところで決めるな。で話そう」
私は首を振りました。
「で話す会は、何度もありました」
「違う。俺は……」
「あなたは、私が黙って引くとっていた」
巧は黙りました。
その沈黙が答えでした。
私は婚届を広げ、自分の欄に署名しました。
「ただし、財産分与、共同座、慰謝料については、すべて藤崎里奈弁護士を通します」
巧の顔が、ここで初めて本当に変わりました。
「弁護士……?」
私は封筒を閉じました。
「で始めた裏切りを、だけで終わらせるつもりはありません」
玲奈さんは、もう嫁の顔ではありませんでした。
巧も、もう優しい男の顔ではありませんでした。
ただ、自分が失うものを初めて数え始めたの顔でした。
私は最に言いました。
「今から私は、あなたが帰ってくる所ではありません」
巧が私の名を呼びました。
「さゆり」
昔なら、その声だけで振り返っていたといます。
けれど、私は振り返りませんでした。
式をると、空はれていました。
もなく、音楽もなく、誰も追いかけてきませんでした。
それで分でした。
数か、私は1で暮らしています。
部は狭くなり、器も減り、夕は1分だけになりました。
幸せになったとは、まだ言えません。
けれど、誰かに捨てられるを待つ妻では、もうありません。
結婚は、婚届で終わるのではありません。
とっくにんでいたものを、最に誰かが認めるだけです。
そして、喪を着るのはたいてい、最まで信じていたなのです。
― 完 ―
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
誕生日に姪を選んだ夫、3年後の再会で絶句
読書好きで控えめな陽菜子は、誠実だと信じていた夫・高尾と穏やかに暮らしていた。ところが三十歳の誕生日、夫は姪の百花を連れて現れ、妊娠を告げたうえで離婚届を突きつける。「子供ができないお前が悪い」と責められ、家まで追い出された陽菜子は、誰も自分を知らない町で新しい生活を始める。やがて高校時代の同級生との再会をきっかけに、少しずつ前を向けるようになっていく。そして数年後、偶然出会った元夫と姪の前で、思いがけない出来事が起こる。因果応報|人生逆転|夫婦|親子関係|修羅場|不倫2.1万字5 1448 -
完結第10話
父の葬儀中「飯を作れ」と怒鳴った夫に、参列者が…
父の葬儀で喪主を務める美穂のもとに、夫・健一から何度も電話がかかってきた。用件は「今すぐ帰って飯を作れ」という身勝手な要求だった。二十年間、夫の暴言と厳しい金銭管理に耐えてきた美穂。父との最後の別れさえ邪魔され、ついに参列者の前で夫の怒声が響き渡る。すると、最後列に座っていた一人の男性が立ち上がった。その人物は亡き父の教え子で、健一とも思いがけないつながりがあった。因果応報|怒り|夫婦|親子関係|修羅場1.6万字5 2123 -
完結第10話
144枚の給与明細
金型の仕上げ職人として20年以上の経験を持つ宮下明。会社の危機を救うほどの腕前を持ちながら、12年間、月給は19万円のままだった。それでも創業者への恩を忘れず、黙々と働いてきた宮下だったが、ある日、専務から突然の配置転換を命じられる。職人としての誇りを踏みにじられ、退職を決意した翌朝、会長が自宅へ駆けつけてきた。「年収1200万円では足りないのか?」――その一言から、会社の金をめぐる不可解な事実が明らかになり始める。職場逆転|第二の人生|修羅場1.7万字5 1334 -
完結第12話
結婚式当日「新婦が救急搬送」私、ここにいますけど?
高校時代から付き合ってきた健二と、ようやく結婚することになった警察官の愛。式の準備をほとんど任せきりにする健二に寂しさを感じながらも、愛は幸せな結婚生活を信じていた。 ところが結婚式当日の朝、式場に「新婦の愛さんが病院に運ばれた」という連絡が入る。愛本人は、ウェディングドレス姿で控室にいるというのに。 しかも病院の女性は、健二を呼んでほしいと言っているらしい。そこへ遅れて現れた健二は、愛の姿を見るなり顔色を変えた。 病院にいる「愛さん」は誰なのか。そして、長年信じてきた婚約者が隠していた秘密とは――。因果応報|人生逆転|夫婦|修羅場1.3万字5 1849 -
完結第15話
夫の出張中に義両親が居座った――電話で判明した正体
夫の海外出張中、蒼井の家に突然やってきたのは、十年ぶりに顔を合わせる義両親だった。「息子から同居の許可をもらった」と言い張る二人は、家の料理を食べ尽くし、蒼井や娘のメイの服まで勝手に着て破いてしまう。追い出そうとしても、二人は居座るばかり。頼みの夫は電波の届かない場所にいて、連絡も取れない。そんな中、ようやく夫から電話がかかってくる。ところが、蒼井の訴えを聞いた夫は、思いもよらないことを口にした。厚かましい訪問者に振り回された母娘の、騒がしくも痛快な逆転劇。嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場1.4万字5 413 -
完結第15話
「一緒に暮らそう」親切な男性に質問すると、顔色が変わった
夫を亡くして四年、六十八歳の静子は、一人暮らしを気ままに楽しんでいた。そんなある日、親友の千鶴から、買い物袋を持ってくれる親切な男性・佐藤の話を聞く。七十四歳の佐藤は千鶴に同居を申し込み、千鶴も久しぶりの出会いに心を弾ませていた。ところが、静子にも佐藤が近づいてくる。しかも、千鶴に話したのとよく似た言葉で同居を持ちかけてきたのだ。静子が何気なく尋ねた一つの質問から、男性の思わぬ本音が見え始める。人生逆転|孤独|第二の人生|修羅場1.4万字5 735 -
完結第12話
150万円を払わせたママ友、次は寿司300万円
夫の昇進祝いで家族とレストランを訪れたひまり。楽しい食事の最後に告げられた会計は、なんと150万円。原因は、顔見知り程度のママ友・ぽて子一家が大量の料理を注文し、勝手にひまりへ支払いを押しつけたことだった。仕方なく立て替えたものの、返金を求めると渡されたのは、まさかのポテトチップスの空袋。しかも数日後、ぽて子は高級寿司店で新たな計画を立て始める。「ママ友なんだから払って当然」と言い張る一家に、ひまりが取った行動とは?因果応報|夫婦|真相|親子関係|金銭問題|修羅場1.2万字5 1035 -
完結第12話
毎朝「出ていけ」と怒鳴る隣人、測量の日に顔色が変わった
「引っ越しなさい!」毎朝七時、向かいの家の奥さんに怒鳴られる六十八歳のしず子。生まれ育った家を手放す気はないが、理由のない嫌がらせは日に日にひどくなり、相手の夫まで引っ越しを勧めてくる。しず子は言い返す代わりに、毎日の出来事をノートに書き留めていた。そんなある日、隣人の土地売却をきっかけに境界の測量が行われる。測量士が示した一本の線と、亡き祖父が残した古い封筒。そこには、長年の隣人関係を覆す意外な約束が隠されていた。怒り|真実|修羅場1.3万字5 529 -
完結第12話
新幹線で母娘の席を奪った女、現れた女性を見て絶句
五歳の娘パニミと夏休みの帰省を楽しみにしていた、弁当店を営むシングルマザーのパニコ。新幹線の自由席でようやく親子並んで座れたものの、見知らぬ女性に突然コーヒーをこぼされてしまう。服を拭くため席を外したわずかな間に、その女性は荷物を床へ放り出し、二人の席を奪っていた。娘を守るため、悔しさをこらえてデッキへ向かったパニコ。そこで偶然、日頃から世話になっている立花会長と再会する。事情を聞いた会長が一緒に席へ戻ると、先ほどまで威張っていた女性の顔色が一変して……。怒り|真相|親子関係|修羅場1.2万字5 1136 -
完結第10話
「中卒女に現場は無理」職人10人が辞めた結果
中学卒業後、十五歳で職人の世界に飛び込んだ堀江千夏。三十二歳で工務店の現場責任者に抜擢されるが、古参の職人頭・岩木は「中卒の女に現場が回せるか」と嘲笑う。やがて岩木を含む十人が一斉に退職。大型介護施設の改修工事は納期目前なのに、残された職人はわずか三人だった。しかし千夏には、十七年間積み重ねてきた技術と、二十冊を超える黒い手帳があった。仲間とともに現場の立て直しに挑む千夏。その一方で、手帳に記された資材の数字が、会社に隠された不審な事実を浮かび上がらせていく。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場1.3万字5 445