"パリへ発った妻の代償" 第7話
きなスーツケースを押す夫婦。
若い女性のグループ。
国観客。
そして11をし回った頃、自ドアがいた。
最初に見えたのは、ベージュのトレンチコートだった。
俊子だった。
首元にはしいスカーフ。髪はえられ、化粧も丁寧だった。旅の疲れなどしもじさせない嫌な顔をしている。
その横に、1の男がいた。
髪をきれいに撫でつけ、仕ての良いジャケットを着ている。68歳にしては姿勢がよく、片にスーツケース、もう片方のに俊子のボストンバッグを持っていた。
瀬広。
2は笑いっていた。
まるで旅帰りの夫婦のように。
だが、夫婦ではない。
数メートル先で、俊子が誠郎に気づいた。
が止まった。
顔から血の気が引く。
その隣で広も遅れて気づき、さらに匠の姿を認めた瞬、表が凍りついた。
「お帰り、俊子」
誠郎は静かに言った。
その声は穏やかだった。
りを押し殺した穏やかさではない。
全てを覚悟したの静けさだった。
匠が歩にた。
「迎えじゃないよ、父さん」
そして封筒を差しした。
「庭裁判所への遺産分割調の申してです。僕とまゆの連名で提します。母さんの遺産を正当に分割してもらいます」
広の顔が変わった。
「お、何を勝に」
「勝なのは父さんの方だ」
匠の声はく、はっきりしていた。
広告
「母さんの遺産を分割もせずに全額自分の座へ移して、勝に売却して、勝に使い込んだ。8000万円だよ。母さんが先祖から受け継いだを売った8000万円。そのおでパリにって、級ホテルに泊まって、宝を買って、産まで探してる」
広のからボストンバッグが滑り落ちた。
ロビーのに鈍い音が響いた。
誠郎は俊子に向き直った。
「俊子」
その言で、俊子の体がさく震えた。
誠郎は鞄からい封筒を取りした。
「これは田先からだ。婚調の申して。貞為の証拠式。そして、私名義の定期預1200万円を無断で解約し、別座に移した件についての返還請求」
俊子の目が見かれた。
「庫のの証が減っているのには気づいていたよ。にも確認した。昨7と11に解約されている。振込先は私のらない座だ」
俊子は何か言おうとした。
しかし言葉がてこなかった。
「45、私なりに誠実にやってきたつもりだ。完璧な夫だったとは言わない。仕事ばかりで、あなたに寂しいいをさせたこともかったとう。それは認める」
誠郎は俊子の目をまっすぐ見た。
「でも、だからと言って裏切っていいという話にはならない。私の定期預を黙って解約して、別の男との活の資に当てる。それを許してしまったら、私の45は何だったんだということになる」
広告
俊子は震えるで封筒を受け取った。
横で広が何か言いかけたが、誠郎は彼に向かって静かに言った。
「これ以は弁護士を通してお話しさせてください」
匠も広に言った。
「母さんが病で最に何て言ったか覚えてる? お父さんのことは信じてるから、子供たちのことお願いねって。母さんは最まで父さんを信頼していた。その信頼を、父さんは裏切った」
広は何も言えなかった。
4のにい沈黙が落ちた。
誠郎はそれ以何も言わなかった。
渡すべきものは渡した。
言うべきことは言った。
あとは法と続きに委ねるだけだった。
「では、失礼します」
誠郎は軽くをげ、匠とともに到着ロビーをにした。
背で俊子が何か叫びかけた気配があった。
だが誠郎は振り返らなかった。
半が過ぎた。
10の朝は空気が澄んでいた。
誠郎が目を覚ましたのは午6だった。カーテンをけると、の空がい茜に染まり始めている。洗面所で顔を洗い、鏡のの自分を見た。
半、44の朝に見た顔とはし違っていた。
皺は変わらずい。
髪も相変わらずい。
けれど、顔の輪郭がどこかすっきりしていた。
余計なみが抜けたようだった。
婚調は誠郎に利な形でんだ。
俊子は当初、「単なる友関係だった」「旅は偶然緒になっただけ」
と主張した。しかし、誠郎が3ヶつけていた記録ノート、クレジットカード細、航空便のメモ、照会の記録をに、その言い分は通らなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
離婚半年後、元義母が私の新居を奪いに来た
離婚から半年。十歳の娘ユアと新居で暮らし始めたゆいのもとへ、元義母の智恵子が引っ越しトラックを連れて現れた。「今日から同居ね」と一番広い部屋を使おうとする智恵子は、その家を息子が買ったものだと信じ込んでいた。実際には、ゆいが自分の収入で購入した家だった。離婚の事実を告げても引き下がらず、今度は不倫を疑い始める元義母。さらに、元夫が隠していた裏切りまで明らかになり、ようやく手に入れた母娘の平穏な暮らしが脅かされていく。嫁姑|裏の顔|絶縁|金銭問題|不倫2.0万字5 1150 -
完結第15話
誕生日に姪を選んだ夫、3年後の再会で絶句
読書好きで控えめな陽菜子は、誠実だと信じていた夫・高尾と穏やかに暮らしていた。ところが三十歳の誕生日、夫は姪の百花を連れて現れ、妊娠を告げたうえで離婚届を突きつける。「子供ができないお前が悪い」と責められ、家まで追い出された陽菜子は、誰も自分を知らない町で新しい生活を始める。やがて高校時代の同級生との再会をきっかけに、少しずつ前を向けるようになっていく。そして数年後、偶然出会った元夫と姪の前で、思いがけない出来事が起こる。因果応報|人生逆転|夫婦|親子関係|修羅場|不倫2.1万字5 1624 -
完結第12話
戸籍の中のもう一人の妻
海外赴任中の夫・健太に頼まれ、横浜の区役所を訪れた結衣。ところが戸籍の配偶者欄には、見知らぬ女性の名前があった。しかも婚姻日は、結衣が入院した母の看病に追われていた去年の夏。七年間信じてきた夫は、イギリスで別の女性と暮らしながら、日本では何食わぬ顔で優しい夫を演じ続けていた。さらに、二人で貯めたお金まで使われていたことが分かる。結衣は夫を問い詰めず、静かに証拠を集め始めた。夫が積み重ねてきた嘘を、彼女はどう暴いていくのか。人生逆転|裏切られた|夫婦|絶縁|不倫1.3万字5 645 -
完結第10話
父の葬儀中「飯を作れ」と怒鳴った夫に、参列者が…
父の葬儀で喪主を務める美穂のもとに、夫・健一から何度も電話がかかってきた。用件は「今すぐ帰って飯を作れ」という身勝手な要求だった。二十年間、夫の暴言と厳しい金銭管理に耐えてきた美穂。父との最後の別れさえ邪魔され、ついに参列者の前で夫の怒声が響き渡る。すると、最後列に座っていた一人の男性が立ち上がった。その人物は亡き父の教え子で、健一とも思いがけないつながりがあった。因果応報|怒り|夫婦|親子関係|修羅場1.6万字5 2578 -
完結第15話
夫の出張中に義両親が居座った――電話で判明した正体
夫の海外出張中、蒼井の家に突然やってきたのは、十年ぶりに顔を合わせる義両親だった。「息子から同居の許可をもらった」と言い張る二人は、家の料理を食べ尽くし、蒼井や娘のメイの服まで勝手に着て破いてしまう。追い出そうとしても、二人は居座るばかり。頼みの夫は電波の届かない場所にいて、連絡も取れない。そんな中、ようやく夫から電話がかかってくる。ところが、蒼井の訴えを聞いた夫は、思いもよらないことを口にした。厚かましい訪問者に振り回された母娘の、騒がしくも痛快な逆転劇。嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場1.4万字5 664 -
完結第15話
看護師を捨てた元彼、10年後に妹の名刺を踏みつけた
看護師のヒナは、起業を夢見る恋人・大志を支えるため、夜勤を増やして生活費を払い、家事も一人で引き受けていた。ところが大志は事業に成功すると、社長令嬢との婚約を決め、ヒナを一方的に捨ててしまう。それから10年。偶然再会した大志は、独身のヒナを見下し、看護師の仕事まで大声で馬鹿にし始めた。そこへ現れた妹の桃が、冷静に言い返す。しかし大志は、桃が差し出した名刺を床に落とし、靴で踏みつけてしまう。その名刺が何を意味するのか、知りもしないまま……。因果応報|兄弟姉妹|夫婦|絶縁|金銭問題|不倫1.6万字5 511 -
完結第15話
「一緒に暮らそう」親切な男性に質問すると、顔色が変わった
夫を亡くして四年、六十八歳の静子は、一人暮らしを気ままに楽しんでいた。そんなある日、親友の千鶴から、買い物袋を持ってくれる親切な男性・佐藤の話を聞く。七十四歳の佐藤は千鶴に同居を申し込み、千鶴も久しぶりの出会いに心を弾ませていた。ところが、静子にも佐藤が近づいてくる。しかも、千鶴に話したのとよく似た言葉で同居を持ちかけてきたのだ。静子が何気なく尋ねた一つの質問から、男性の思わぬ本音が見え始める。人生逆転|孤独|第二の人生|修羅場1.4万字5 838 -
完結第12話
150万円を払わせたママ友、次は寿司300万円
夫の昇進祝いで家族とレストランを訪れたひまり。楽しい食事の最後に告げられた会計は、なんと150万円。原因は、顔見知り程度のママ友・ぽて子一家が大量の料理を注文し、勝手にひまりへ支払いを押しつけたことだった。仕方なく立て替えたものの、返金を求めると渡されたのは、まさかのポテトチップスの空袋。しかも数日後、ぽて子は高級寿司店で新たな計画を立て始める。「ママ友なんだから払って当然」と言い張る一家に、ひまりが取った行動とは?因果応報|夫婦|真相|親子関係|金銭問題|修羅場1.2万字5 1158 -
完結第12話
毎朝「出ていけ」と怒鳴る隣人、測量の日に顔色が変わった
「引っ越しなさい!」毎朝七時、向かいの家の奥さんに怒鳴られる六十八歳のしず子。生まれ育った家を手放す気はないが、理由のない嫌がらせは日に日にひどくなり、相手の夫まで引っ越しを勧めてくる。しず子は言い返す代わりに、毎日の出来事をノートに書き留めていた。そんなある日、隣人の土地売却をきっかけに境界の測量が行われる。測量士が示した一本の線と、亡き祖父が残した古い封筒。そこには、長年の隣人関係を覆す意外な約束が隠されていた。怒り|真実|修羅場1.3万字5 567