"レモングラスの下の悪臭" 第5話
残りをお湯で溶き、いつものように2階へがった。
佳さんはベッドに座っていた。ぼんやりしていたが、私だと分かった。
「さやかだな」
「はい。これをめば、ぐっすり眠れますよ」
私は隣に座った。佳さんは両でやっとコップを持ち、ゆっくり薬をんだ。
その夜、私はいつもよりくそばにいた。10になっても、彼女はすぐにく眠らなかった。11頃、もう度部へくと、佳さんはまだ起きていた。疲れ切っていたが、目には珍しく焦点があった。
「佳さん、まだ起きていらっしゃるんですか」
私がづくと、彼女は乾いた唇を震わせた。
「ませないで」
私は息をんだ。
「何をですか?」
佳さんは震える指で私の首を掴んだ。
「あの子の薬は……もうませないで」
全にを浴びせられたようだった。
「薬のことですか?」
けれど佳さんは、もう話す力を失ったように目を閉じ、ぐったりしてしまった。
翌朝、裕さんは台所にりてきた。には昨夜のコップがあった。底にく沈殿物が残っている。
彼はコップを見つめ、それから私を見た。
「僕が言った通り、正確に作ったか」
鳴るわけでもない。声は穏やかだった。けれど、その穏やかさが背筋を凍らせた。
「うん。いつも通りに作ったけど」
彼はしばらく黙っていた。
「おかしいな。どうして今は母さんがいつものようにく眠っていないんだろう」
広告
私は唇を噛んだ。
その瞬、初めて夫を疑うことを超えて、彼を恐れ始めた。
数、裕さんは急に言った。
「3、州に張することになった」
私が果物を剥くを止めると、彼はさな盆を差しした。そこには付とが貼られたガラス瓶が3本並んでいた。にはいが均等に分けられていた。
「毎晩9に1本ずつ溶いてませて。忘れたり、勝に変えたりしたら絶対にだめだ」
私は平静を装った。
「あなたがいないに、佳さんを総検診へ連れてこうかしら」
彼の目が静かに私を射抜いた。
「その必はない。何かあれば、まず僕に話してくれ」
「でも、もっと具が悪くなったら」
「さやか」
彼は私の言葉を遮った。
「ただ僕の言う通りにすればいい」
そのが私の肩に置かれた。力はくなかった。けれどくじた。
張当の朝、彼は玄関で私をいつもよりく抱きしめた。
「僕が言ったこと、忘れていないだろうな」
「覚えているわ」
タクシーが角を曲がって見えなくなるまで、私は見送った。
のは急に静まり返った。もう彼の音も、い声も聞こえない。
私はすぐに佳さんの部へがった。
ドアをけると、あの悪臭がいつもよりくをついた。アロマはいている。シーツもっている。けれど佳さんは力なく横たわり、3回呼んでようやく瞼をげるだけだった。
広告
私は部を探し始めた。クローゼット、引きし、ゴミ箱。何もてこない。ふと、線がベッドに向いた。
私はマットレスの端にを差し込み、全力で持ちげた。
その瞬、が真っになった。
マットレスカバーのに、乾いてこびりついた濃い茶の染みがいくつも広がっていた。その周囲には、いが散らばっていた。カバーの端やベッドフレームにも付着している。
私はを覆った。
あの悪臭の正体が、突然形を持って現れた気がした。
私はビニール袋を取りし、いをし入れて縛った。
もう、1で抱え込めることではなかった。
真っ先に浮かんだのは、林健太先輩の名だった。学代の同級で、今は私病院の救急医をしている。毎連絡を取るような関係ではなかったが、緊急に頼れるだった。
私はトイレに入り、鍵をかけて話した。が震え、2度も押し違えた。
「さやか、どうした?」
健太先輩の落ち着いた声を聞いた途端、涙がそうになった。
「先輩、助けてください。とても急いでいます」
私はで説した。義母が昏にい状態であること、奇妙な匂い、腕の痣、薬、マットレスのから見つけたい。
健太先輩は最まで遮らず聞いた。そしてい声で言った。
「よく聞け。今すぐ義母さんをのへ連れすんだ。誰にも疑われない理由を作れ。
僕が病院の裏で待っている。の袋も絶対に持ってこい」
広告
おすすめ作品
-
完結第17話
しおれた野菜と30万円
正月準備のため妻・綾野に三十万円を預けた修平が帰宅すると、冷蔵庫は空になり、綾野はしおれた野菜を抱えて震えていた。防犯カメラには、合鍵で侵入した母・久美子と妹・ゆりが、食材と現金を奪い、「妻が使い込んだことにする」と脅す一部始終が残されていた。 修平は援助や契約を停止し、父の遺品を調べる。その結果、母は前夫の家から二百万円を持ち逃げし、血のつながらない修平を守ろうとした父に返済を肩代わりさせていたことが判明する。完済後も母は架空の利息をでっち上げ、修平の出生を暴露すると父を脅して、長年金を奪い続けていた。人生逆転|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.5万字5 773 -
完結第14話
妊娠八ヶ月の私を捨てた夫と義母に、静かな決断を下した日
妊娠八ヶ月の由香は、義母と夫から「本家の嫁の仕事」として、正月に集まる親戚三十人分の料理と給仕を強要される。そんな折、実父が心筋梗塞で倒れるが、夫は「実家はもう他人」と言い放ち、父の看病より義実家の体面を優先するよう迫った。 義兄嫁・智子から、義実家の正月が代々嫁を酷使する“公開処刑”だったと聞いた由香は、産婦人科で妊娠高血圧症候群と診断される。それでも義母と夫は診断書を無視し、「這ってでも来い」「跡継ぎを産ませてやる」と暴言を重ねたため、由香は証拠を保存し、正月への不参加と離婚の意思を宣言する。 大晦日、由香が現れなかった義実家では、何ひとつ準備していなかった義母と、料理のできない夫が大混乱に陥る。一方、父と穏やかに過ごす由香のもとへ、智子から「親戚の重鎮たちに種をまいた」と連絡が届く。物語は、元日に義母と夫が親戚一同から裁かれる直前で途切れている。裡切られた|兄弟姉妹|嫁姑|絶縁2.1万字5 512 -
完結第14話
私の退職金を奪った家族に、私は何も言わず家を出た
妊娠中の麻衣が13年間勤めた会社を退職すると、夫の竜太は退職金420万円を無断で義母の口座へ送金した。「嫁の金は家のために使うもの」と言う義母。返金を求めた麻衣に、夫は「文句があるなら出ていけ」と告げる。 麻衣は実家へ戻り、保存していた送金記録を持って弁護士に相談する。返還を求められた義母は「預かっただけ」と主張するが、自ら提出した口座明細には、夫の奨学金を返すために動かした60万円の記録が残っていた。 420万円を取り戻しても、麻衣は壊れた信頼まで元に戻ったとは思えなかった。離婚後、娘を産み、かつての職場へ復帰する。誰に許可を求めることもなく、自分で稼いだお金の使い道を、自分の手帳に書き込んでいく。嫁姑|夫婦|金銭問題2.2万字5 380 -
完結第15話
妊娠中の娘が逃げ帰った夜、大富豪の母が動いた
妊娠8か月の娘・はるかが、顔に傷を負い、母エリコの家へ逃げ帰ってきた。病院では新しい肋骨の骨折に加え、以前の骨折痕も見つかる。夫・匠による暴力は、一度きりではなかった。 匠は巨大企業グループの創業家の一員。だがエリコはその地位にひるまず、娘の安全を確保し、診断書を残す。同時に信頼する会計士へ調査を頼むと、匠一家が関わる財団に巨額の不正な資金移動の疑いが浮かび上がった。 報道を受けても疑惑を否定し続けた匠は、緊急会見の最中、はるかへの傷害容疑で逮捕される。さらにグループの資金問題にも捜査が及び、権力を盾にしてきた一族は追い詰められていく。 母の行動が事態を動かす一方、すべての始まりにあったのは、はるかが自分とお腹の子を守るため、あの家から逃げ出した決断だった。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.3万字5 1209 -
完結第15話
介護で表彰される嫁――私は認知症に仕立てられた
手首を骨折し、息子夫婦の家へ身を寄せた68歳の文江。嫁・沙耶香は、物忘れが進んだ姑を献身的に介護しているように見せ、日常を動画で配信していた。 だが文江は認知症ではなかった。砂糖と塩を入れ替え、スマートフォンを隠し、同じ質問を繰り返すよう指示する――すべては再生数と広告収入を得るための演出だった。しかも息子も、その事実を知りながら黙認していた。 沙耶香が「献身的な嫁」として表彰される当日、巨大スクリーンに流れたのは感動映像ではなく、撮影前に姑へ演技を命じる未編集動画だった。そして文江は車椅子を使わず、自分の足で壇上へ向かう。 家族に病気も財産も人生も利用された女性が、自らの声と尊厳、そして「撮られない権利」を取り戻していく逆転と再生の物語。因果応報|嫁姑|認知症2.2万字5 775 -
完結第17話
母に追い出された私が、介護を手放すまで
三年間、要介護の母・一枝の家事と介護を一人で背負ってきた由美子は、「大好きな長男夫婦と暮らすから出ていけ」と追い出される。彼女は反論せず、通院、服薬、食事、排泄介助まで記した冷蔵庫の予定表だけを外し、新しい生活へ踏み出した。 由美子が消えると、兄・秀樹夫婦は介護の重さと毎月約九万円の費用に直面する。さらに秀樹が母の定期預金三百万円を、不倫相手への手切れ金として使い込んでいた事実も判明。義姉マリは耐えきれず家を出て、秀樹は汚物の処理すらできないまま妹へ泣きつく。 しかし由美子は、母と兄の身勝手な要求を拒み、実家からの電話を着信拒否にする。兄弟姉妹|親不孝|裡の顔|介護2.6万字5 428 -
完結第13話
義母に逆らった妻を閉じ込めた夫が、翌朝失ったもの
義母への仕送りを断った夜、菜緒は夫の浩司にトイレへ閉じ込められた。冷たい床で朝を待ちながら姉に助けを求め、夫の発言を録音する。翌朝、姉たちが迎えに来ると、菜緒は「もうこの家には戻らない」と告げた。 避難先で菜緒が止めたのは、義母と義弟への毎月の送金、そして夫に渡していた家族カード。さらに、夫が口走った「部屋の件」を確かめると、菜緒が独身時代に買ったマンションへ、本人に無断で義弟夫婦を住まわせる話が進んでいた。 すでに置かれた荷物を見つけた菜緒は室内を記録し、玄関の鍵を交換する。義母からの抗議にも、援助と部屋の使用を断る意思を伝えた。閉じ込められた夜に握っていたスマートフォンから、菜緒は自分の暮らしを守るために動き始める。嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.0万字5 1621 -
完結第14話
薬を忘れて戻ると、「歩けない」夫が立っていた
腰の手術後、「一人では歩けない」と訴える夫・健太を介護し、毎週末義実家まで送り続けていた佐織。ところが薬を届けるため引き返すと、健太は電話で「嫁は帰った」と告げ、車椅子から何事もなかったように立ち上がった。 夫を尾行した佐織が目にしたのは、金融業者が入る雑居ビルへ元気に歩いて入る姿だった。病院で確認すると、健太は3週間前から自由歩行を許可されており、痛みを誇張して休職を延長していたことも判明する。 さらに健太は450万円の連帯保証債務を抱え、借金返済のため、休職中に会社の機密情報流出へ関わっていた。義母も息子が歩ける事実を隠し、佐織を無給の介護役兼運転手として利用していたのだ。 佐織は夫を庇わず、記録と証拠を会社や弁護士へ提出し、離婚と財産保全の手続きを進める。嘘の車椅子から立ち上がった夫が社会的信用を失う一方、佐織が誰かを背負う生活を終え、自分の足で新しい人生を歩き始める再生物語。夫婦|介護|金銭問題|不倫2.1万字5 467 -
完結第14話
臨月の私を追い出し、新居を売ろうとした義母
臨月を迎えた優香は、夫の出張中、義母から「里帰り出産なら、もう戻らなくていい」と実家へ追い出される。しかも自宅には義妹一家が住み着き、子ども部屋は勝手に美容サロンへ改装されようとしていた。 さらに、不動産会社が持参した資料から、共有名義の自宅が4,680万円で売りに出されていることが発覚。義母たちは優香夫妻の署名と印鑑を無断で使い、売却益を義妹夫婦の借金返済へ回そうとしていたのだ。 出張先から急きょ戻った夫・健太は、玄関で《売却物件》の内覧票と偽造された委任状を発見する。妻を守れなかった自分の甘さを認めた健太は、母と妹へ退去を命じ、優香とともに警察や弁護士、不動産会社へ相談。家と財産、そして生まれてくる娘の生活を取り戻していく。 「家族だから」という言葉で他人の人生を支配する義母たちに、明確な境界線を引いた夫婦。家とは、鍵や名義だけではなく、そこに住む人が自分の意思で未来を選べる場所なのだと描く、家族再生の物語。怒り|嫁姑|真相|修羅場2.1万字5 1010 -
完結第15話
正月、娘に熱汁を浴びせた義兄へ110番
娘がグラスを1つ割っただけで、義兄は笑いながら熱い汁物を8歳の娘へ浴びせた。 しかも泣き叫ぶ娘を前に、義母も親族も止めるどころか「正月から大げさ」と笑っていた。 夫まで兄を庇い、「今日は丸く収めよう」と私に黙るよう求めてきた。 私は娘の腕を流水で冷やしながら、警察署長を務める実兄へ電話した。 「お兄ちゃん、今度はもう手加減しないで」 だが兄が私に命じたのは、身内の力を使うことではなく、「今すぐ110番して、証拠を全部残せ」ということだった。 その言葉で私は、義実家の天井に防犯カメラがあることを思い出した。 警察が映像を確認した直後、それまで「手が滑っただけ」と笑っていた義兄の顔色が一変する。 そして夫まで知らなかった“決定的な場面”が映っていたことで、あの正月に笑っていた全員の立場がひっくり返り始めた。怒り|嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 2256